民医連新聞

2021年5月25日

診察室から 短命県日本一返上へ、中医たらん

 最近、患者の話に共感することが多くなりました。昨年、白内障の手術をして、視力が低下することの不自由さや目の手術の怖さに同感でき、首や膝、帯状疱疹の痛み、揚げ句の果てに夜間頻尿などさまざまな症状が、体験とともに理解できるようになったのです。さらに1日1回の薬が、受診日になるとなぜか余っていることまでが納得できるようになりました。
 しばらく前から、微妙に血圧が上がり始めているのも気になります。患者には「アルコールは1日ビール500cc程度、週に1回は休肝日を」などと指導しているのに、自分自身の休肝日は当直日のみ、コロナ禍で「外飲み」こそなくなったものの、一升瓶のゴミ出しは明らかに増えています。
 健康日本21では、国民の収縮期血圧が平均4mmHg低下すれば、脳卒中や冠動脈疾患でいのちを落とす人が、1万5000人減ると予測しています。そのためにもっとも有効なのが、生活習慣の改善であると言われています。
 以前「減塩プログラム」と称して高血圧の患者に摂取塩分のチェック、栄養指導、減塩食の体験などを約3年間続けてもらいましたが、ほとんどの人は摂取塩分量が低下せず、血圧も変わらない結果でした。「男女ともに短命県日本一の青森県は、食塩消費量やインスタントラーメン消費量でも日本一」と患者に話すと納得はしてくれますが、次の受診で新しいラーメン店の情報を教えてくれます。
 「上医は国を医(いや)し、中医は人を医し、下医は病を医す」という言葉があります。患者の行動変容を得ることができずに、降圧薬の投与で血圧を下げる診療に追われる姿は、正に下医そのものだと思う場面が少なくありませんでした。上医たらんと民医連に加わったにもかかわらず、医師人生も残り少なくなったこの時期になって、やっと患者の思いに近づくことで、あらためて人を医す中医への道をめざす地点にたどり着けたのかもしれません。願わくば、短命県日本一を返上する時を目にした後に引退したいものです。(澤岡孝幸、青森・協立クリニック)

(民医連新聞 第1737号 2021年5月24日)

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