民医連新聞

2021年6月8日

診察室から “documentary film”

 私は甲府市の283床の一般病院で、ひとり精神科をしています。精神科医としては15年になります。普段の診察のなかでは、標準的な診断や治療を行っていてもなかなかよくならない患者もいて、「自分はこの患者さんに何をしてあげられているのだろうか」と思うことも少なくありません。現在の医療水準の限界もありますし、手も足も出ないような強固なSDH的原因がはっきり見える場合もあります。
 そんな折、昨年末に紅白歌合戦を見ていて、私は一瞬、テレビに釘付けになりました。それはMr.
childrenが「documentary film」という曲を歌っていたときでした。すごい名曲、いや最高傑作のひとつだと思いました。ミスチルがブレイクしたのはいまから30年ぐらい前で、当時は私も大学生、以来数々の大ヒット曲がありますが、ボーカルの桜井和寿さんは今年51歳、それでいまなお最高傑作を生みだしているということに、胸を打たれました。しかし、ミスチルの曲が私の心に突き刺さったのは、その歌詞でした。版権の都合で引用できないのが残念ですが、私なりの解釈で内容を紹介すると、“誰も見ることのない君のドキュメンタリーフィルムを、僕は心の中で撮り続けている。人はいつか死ぬときがくるけれども、あるときは大きな悲しみがあり、あるときは微かな幸せがあり、君の笑顔をつなぎあわせて見ていると、僕は愛しくて泣きそうになる”という感じだと思います。その後にCDを入手して、毎日聴いてしまいました。
 診察室の話に戻ると、自分が毎日の診察で行っていることには、まさに誰の目にも触れない患者たちのドキュメンタリーフィルムを撮るようなところがあると思うのです。患者のつらい現実と予想のできない今後を、患者自身がどのように歩んでいこうとするのか、ひとりの支援者としてずっと見届けていくような役割です。それは自分が患者に何かをしてあげられなくても、続けていける大事なことではないかと思います。(佐藤琢也、山梨・甲府共立病院)

(民医連新聞 第1738号 2021年6月7日)

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