民医連新聞

2021年6月8日

フォーカス 私たちの実践 住み慣れた地域で食生活を楽しむ権利を考える 在宅訪問栄養指導埼玉・浦和民主診療所

 埼玉民医連2020年度学術運動活動報告集で在宅訪問栄養指導の実践が報告されました。浦和民主診療所の松本真子さん(管理栄養士)です。

■在宅患者の半数が低栄養

 訪問診療を受ける在宅療養者の49%が低栄養、40%が低栄養のリスクが高い状態と言われています。
 当診療所では、昨年4月より在宅訪問栄養指導を始めました。介入の必要な患者に往診時、医師・看護師より同意を得た患者宅に訪問指導を行いました。
 実践のふり返りを報告します。

 【目的】
 在宅訪問栄養指導を実施した患者についてその有効性を考える。また多職種の意見交換により今後の課題を明らかにする。

 【方法】
 《調査対象・期間》調査対象者は2020年4月から12月末までに在宅訪問栄養指導を実施した患者6人。
 《調査・分析方法》診療録記載内容からの分析と訪問時のインタビュー、在宅チーム会議での意見交換を行い検討した。
 《倫理的配慮》対象者には文書・口頭でプライバシーの配慮、個人情報の扱いについて説明しました。

 【結果】
 対象患者の年齢は60代3人、80代1人、90代2人でした。主な病名は高次脳機能障害、脳梗塞、脂質異常症、認知症、高血圧症、慢性腎不全、糖尿病、肥満症、貧血、便秘症など。低栄養の指標であるアルブミン値は最低値が3・0g/dl、最高値が4・3g/dlで、平均3・75g/dlでした。
 患者、家族に要望を聞くと「健康で長生きしたい」「自分の足で歩いていたい」「入院はしないで家で暮らしたい」など前向きな意見が多く返ってきました。
 医師からは疾患に応じた指示があり、栄養量の過不足を評価し、ご本人の食体験などをもとに、具体的な食事の工夫の相談を行いました。高齢者にわかりやすいカラーイラストの食品群チェックシートを用いたり、栄養機能食品の実物などを紹介しました。実際に減塩や野菜のとれるメニューをつくる場合もあります。日頃使っている調味料についてのアドバイスや台所の衛生についての質問にも答えたりと、外来ではわからない困りごとも把握できました。
 外部のケアマネジャーとも連携しています。認知症で独居のAさんは1日に1食購入した弁当を息子の妻が運ぶ以外は何も口にできず、ペットボトルのキャップも開けられない、ガスも使えない状態でした。デイサービスの利用や見守りを兼ねた宅配食をケアマネジャーとすすめ、栄養量がアップできました。
 義歯が合わず、むせもあるBさんには、飲み込みやすい調理法を紹介し、訪問歯科診療の必要性をケアマネジャーに報告しました。
 妻Cさんの介護を行っている夫は、食事内容に不安を抱えていましたが、日々の努力を励ましました。Cさんの夫とは信頼関係を築くなかでいっしょに冷蔵庫にある食材で調理実習を考えています。
 在宅チーム会議では看護師から「往診の短い時間ではつかみきれない問題を把握してくれてありがたい」などの感想が出ました。

 【考察】
 当診療所の在宅患者は約120人ですが、全国的な傾向を当てはめれば約60人が低栄養状態と考えられます。往診患者への調査や在宅カンファレンスへの参加、診療録からの対象者抽出を行っていきたいと思います。また今回の対象についても、食事・水分摂取が難しい、高血糖の原因の特定など、一度の訪問指導では解決し切れない問題があります。本人・家族の意向に配慮を持ちながら継続支援を行っていきたいと思います。
 最近は訪問栄養指導をネットで調べての問い合わせや調理実習を希望する人が増えてきました。在宅で療養したいという権利に応えていくのは管理栄養士の使命であると思います。在宅で残された時間のかかわりでは、目覚ましい栄養改善は期待できないかもしれません。しかし、「食べることは生きること」そのものです。「昨日よりも今日が、今日よりも明日が」という健康観を大事にしながら、在宅医療の質の向上に貢献したいと思います。

(民医連新聞 第1738号 2021年6月7日)

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