民医連新聞

2021年7月6日

これでばっちり ニュースな言葉 日本国憲法と相いれない土地利用規制法

 政府に歯止めのない調査権限を与え、基地周辺や国境離島などの住民を監視する土地利用規制法が、6月16日未明の参院本会議で自民、公明、維新、国民などの賛成多数で可決、成立しました。同法の問題について、弁護士の馬奈木厳太郎(いずたろう)さんの解説です。

 安全保障上重要な施設や国境に関係する離島の機能を妨害する行為を防止すること、を目的にした土地利用規制法が成立しました。同法は、自衛隊や米軍、海上保安庁の施設、原子力発電所などの施設のうち、政府が安全保障上重要だとする施設の周囲おおむね1km、また国境に関係する離島を「注視区域」に指定し、その区域内の土地や建物の所有者や賃借人の国籍や利用実態を調査できるとしています。必要に応じて報告を求め、応じない場合、罰則を科す規定もあります。また、とくに重要とする施設周辺や離島は「特別注視区域」に指定し、調査に加え一定面積以上の土地や建物を売買する際は、事前の届出を義務づけます。電波妨害や偵察など「機能を阻害する」行為があるとされれば、中止するよう勧告、従わない場合、罰則を伴う命令を出します。一般市民の私権を制限する極めて問題の多い法律です。

■政府が個別に決定

 法整備の理由としては、自衛隊施設周辺の土地の外国資本による購入が、安全保障上の懸念になると指摘されています。しかし、外国資本が周辺の土地を購入したことで問題が起きたという事実は明らかになっていません。また、行為にもとづくのではなく一定の属性にもとづき特定の人びとを潜在的な脅威であるかのように扱う発想は、個人主義に立脚する日本国憲法の発想と相いれません。この考え方自体が、周辺との緊張関係を強めることにもつながります。
 また、指定区域は同法では明示されておらず、政府が制定後、基本方針を定め、個別に指定することになっています。調査対象は所有者だけでなく賃借人も含みます。追加調査も必要になるため、対象者は膨らんでいきます。
 これまでも防衛省が全国の施設周辺について調査してきましたが、同法では、市町村に住民基本台帳などの提供を求めることができるとし、それ以外の資料も必要と判断されれば関係者に報告を求めることができるとされています。報告を求め、報告に応じなかったり、虚偽の報告をすれば、罰金が科されます。個人情報やプライバシーにかかわる情報のみならず、思想信条に立ち入る情報にまでおよぶおそれがあります。

■基地反対運動も対象

 さらに、政府の調査によって、電波妨害やライフライン供給の阻害、侵入の準備行為などが明らかになった場合には、中止を勧告、従わなければ罰則を伴う命令を出すとしています。こうした事態を想定し、条文上、「我が国を防衛するための基盤としての機能」や「国民生活の基盤としての機能」といった文言が用いられていますが、「基盤」や「機能」という抽象的な文言が重ねられており、これらの具体的内容は閣議決定に委ねられています。
 罰則を伴うにもかかわらず、その特定をいわば包括的に政府に委ねるというのは、罪刑法定主義の原則からも大問題です。「機能」の解釈次第では、基地建設反対運動や基地監視活動なども「阻害」だと扱われる危険性もあります。

■運用させず廃止に

 同法は、日本国憲法の平和主義に反するだけでなく、罰則を予定する法律としての体をなすものでもありません。私権の制限を政府に丸投げする発想は、権力不信の原則に立脚する立憲主義の考え方からしても、国会が自ら役割と責任を放棄するという意味でも問題です。
 周囲との関係で一定の緊張関係があることは事実ですが、いま求められるのは今回の法律ではなく、双方にとって脅威となる条件や環境を改善していく努力なのであり、それこそが日本国憲法の示す方向です。同法は、こうした考え方に真っ向から対立するものであり、平時の有事化をすすめるものでしかありません。
 同法を運用させない運動をすすめ、解散総選挙で廃止に追い込みましょう。

(民医連新聞 第1740号 2021年7月5日)

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