いつでも元気

2021年7月30日

青の森 緑の海

写真と文 今泉真也

2021年 大宜味村

2021年 大宜味村

 ヨダレカケは、海辺の岩場で暮らす10cmほどの魚。写真には10匹が写っているが、分かるだろうか。頭を上にして岩に同化している。
 名前の由来は、口の下に赤ちゃんのヨダレカケに見える部分があるから。そこは吸盤になっていて垂直の岸壁にも吸いつく。
 似たような魚としてトビハゼが有名だが、ヨダレカケはダイビングでもシュノーケルでも目にすることが難しい場所にいて、目立たない。
 彼らは警戒心が強く、人が近付けない岩場にいる。そして、濡れた場所にしか住めないのに水中には入らない、という不思議な性質を持つ。
 実は彼らは泳げないのだ。エラはあるものの、皮膚呼吸に特化しているため、水に潜ろうものなら呼吸ができずにやがて溺れてしまう。だから大きな波が来ると必死で海から逃げる。
 トビハゼはマングローブや河口など波の穏やかな場所で暮らすが、ヨダレカケは外洋に面した岩場にいる。波が来るたびに右往左往する様子はユーモラスだが、命がかかっていると知って納得した。
 生きものの世界は意外性に満ちている。発見の場所が身近であるほど、生命の不思議とかけがえのなさを知る。それは私たちの世界を無限に広げてくれる。
 泳げない魚。それでも彼らは今日も必死に波をよけながら、おいしそうにもぐもぐと岩肌の藻類を食べている。


【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。

いつでも元気 2021.8 No.357

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