いつでも元気

2021年7月30日

まちのチカラ 
ウミガメと“にぎやかそ”のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

ウミガメの産卵地である大浜海岸は、国の天然記念物に指定されている

 徳島県の南東部に位置する美波町。
 ウミガメの産卵地であり、海岸には美しい波が訪れます。
 “にぎやかそ”を合言葉に、少子高齢化が進むもとサテライトオフィス誘致や若者の移住が増えています。
 にぎやかになりつつある町の魅力を探しに行きました。

感染対策をしたうえで取材しています

 徳島阿波おどり空港から車で約1時間半。美波町に到着してまず向かったのは、ウミガメの上陸・産卵地として名高い大浜海岸です。「日本の渚百選」にも選ばれた美しい海岸で、碧く透き通った海から寄せる波の音が心地よく響きます。
 ウミガメが涙を流して産卵する感動的な姿は、5月20日から8月20日までの3カ月間、保護監視員の案内のもと観察できます。ただしその場面に立ち会えるかどうかは運次第。毎年平均20頭のアカウミガメが上陸しますが、環境の悪化や混獲(誤って漁具にからまる事故)などで、その数は減少傾向です。
 町とウミガメの関わりは1950年から。戦後の食糧難時代に、肉を食べられ捨てられていたウミガメの死骸を見つけた町立日和佐中学校の生徒が、産卵回数の記録や飼育研究を始めたことに端を発します。現在は大浜海岸のすぐそばに日和佐うみがめ博物館カレッタが建ち、世界でも珍しいウミガメ保護のメッカとなっています。
 初代館長の中東覚さんは「大海に出て行った子ガメたちが母になってまた産卵に帰って来られるよう、海を守り続けていってほしい」と次世代に願いを託します。当時の生徒たちが孵化させた「浜太郎」は世界最高齢のアカウミガメで、70歳となった今も屋外飼育プールで元気に泳いでいます。

「浜太郎」は甲羅の長さ約90cm、体重130kgの雄

にぎやかな過疎

 人口6300人ほどの美波町は、町のキャッチフレーズとして「にぎやかな過疎の町」を目指そうと、“にぎやかそ”を合言葉に早くからサテライトオフィス(本拠地から離れた場所に設置したオフィス)誘致など、先駆的な取り組みを進めてきました。
 その結果、約20社が町に進出して移住者が増え、古民家を活用した起業・開業など、過疎地でも可能な地域振興モデルとして全国から注目を集めるようになりました。そのキーパーソンである株式会社あわえ代表の吉田基晴さんを訪ねました。同社はサテライトオフィスの地方誘致を支援、映画「波乗りオフィスへようこそ」のモデルにもなりました。
 吉田さんはもともと東京でIT企業を経営していましたが、採用難に悩まされました。そこで出身地である美波町にサテライトオフィスを設け、「半X半IT」を掲げて採用を開始。「半X半IT」とは「ITを活用して、仕事もX(趣味や生きがい)も両立しよう」というライフスタイルを意味します。するとサーフィンを楽しんだり、豊かな自然とともに暮らしたい若者の応募が殺到したのです。
 昼休みに畑仕事をしたり、「今日は波が良いから仕事終わりにサーフィンに行こう」などという暮らしは、都会では味わえません。「東京で抱えていた課題の答えが過疎地にあるなんて、奇跡を体験しましたよ。地方ってすごいよ、ということを悩める経営者に伝えたい」と力強く語る吉田さん。コロナ禍を経験した今こそ、地方ならではの新しい働き方に追い風が吹いています。

若者を魅了 伝統の祭り

 町の魅力を聞くと住民が熱く語りだして止まらないのは、10月に開催される日和佐八幡神社秋季例大祭。一年の豊漁豊作を祝う祭りとして200年以上続きます。「ちょうさ」と呼ばれる太鼓屋台8台をそれぞれ50人以上で担ぎ、海岸から波にのまれていく姿は大迫力です。
 正月には帰らないのに、祭りのために毎年帰省する人もいるほど。その存続の秘訣は「町内8地区が張り合い切磋琢磨していることもありますが、若い人が運営主体でしきたりにとらわれず、柔軟に祭りの形を変化させてきたこと」と日和佐ちょうさ保存会副会長の外礒千博さんは語ります。
 舁き手(担ぐ人)が少なくなって厳しいとなれば、外国人留学生や県内企業にも声をかけました。アドレナリンが大放出するような祭りのクライマックスでは皆が一つに。終わった後は誰もが家族のような一体感が生まれます。
 昨年は新型コロナの影響で規模を縮小。「祭りがなくなると調子が狂う」という人も多く、祭りが町の元気の根っこだということを気づかせてくれたようです。

海へ飛び込む「日和佐八幡神社秋季例大祭」は徳島県内最大級の秋まつり(日和佐ちょうさ保存会提供)

海へ飛び込む「日和佐八幡神社秋季例大祭」は徳島県内最大級の秋まつり(日和佐ちょうさ保存会提供)

遍路の宿 故郷の味

 町には四国八十八ヶ所霊場第23番札所の薬王寺があり、今もお遍路さんが歩く姿を見かけます。由岐地区の遍路道沿いにある民宿明山荘は創業44年。皿鉢にサザエやアワビ、伊勢エビなど美味しいものを沢山盛り付けた郷土料理「海賊料理」を大広間で食べることができます。2年前にUターンして後を継いだ中山稜太さんが、大阪で修業した腕を活かしてテイクアウトにも力を入れます。
 その日に揚がった数種の新鮮魚介を中心に、自家製の米と旬野菜で作る料理。ツツジなど庭の花を摘んで飾り付け、見た目も豪華に。「みんなが帰ってこられる場所にしたい」と語る中山さん親子4代が、客人を家族のように温かく迎えてくれます。
 お遍路さんの足音や祭り太鼓の音色、美しい波の音が聞こえる美波町は、今日もにぎやかです。

■次回は島根県隠岐の島町です。

まちのデータ

人口
6,337人(5月末現在)
おすすめの特産品
伊勢エビ、アワビ、アオリイカ
うつぼの干物、ガネガス(海藻)
アクセス
大阪から車で約4時間
徳島駅から牟岐線特急で約1時間
問い合わせ先
美波町観光協会 
0884-77-1875

いつでも元気 2021.8 No.357

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