民医連新聞

2021年8月3日

コロナでなにが ⑦働く人びとの実感 女性に現れた矛盾解決へ所得保障求める非正規労働運動

 各地でとりくまれている食糧支援などで、女性や学生に困窮がひろがっている実態が浮き彫りになっています。なぜ、女性や学生なのか? 首都圏青年ユニオンに聞きました。(丸山いぶき記者)

 「コロナ禍の相談事例の約7割が、飲食業や宿泊業の非正規労働者。女性が多い業界のため、例年6~7割が男性のところ、昨年は女性が6割超と逆転した」と話すのは、首都圏青年ユニオンの尾林哲矢さんです。同時に見えてきたのが、多くのシフト制(※1)労働者に「補償なし休業」が発生し、それが困窮に直結していることです。主婦パートや学生アルバイトなどの収入を、「家計補助」に過ぎないとする見方が一般的ですが、実際には生計維持に欠かせなくなっていると言います。

■雇用規範の崩壊

 同ユニオンは5月、コロナ禍のシフト制労働者の過酷な実態の告発と、待遇改善のための政策提言を目的に「シフト制労働者黒書」を出しました(以下、黒書。同ユニオンのホームページに全文)。
 「休業」は、労働契約上の所定労働時間・所定労働日より、実際の労働時間・労働日が少ない場合に発生します。店舗の休業などの事業主都合による場合、事業主は労働者に休業補償をしなければなりません(労働基準法26条)。
 しかしシフト制労働では、シフトが出ていない期間、所定労働時間・所定労働日の存在があいまいとなるため、「休業」もあいまいとなります。コロナ禍で休業補償を拒む企業の多くは、「シフト制であるため休業補償義務がない」と主張しています。
 シフト制労働者の課題は大きく4つ。(1)シフトが確定していない期間の「補償なし休業」、(2)正社員と非正規社員の休業補償の格差、(3)制裁(嫌がらせ)としてのシフトカット、(4)シフト制労働者の雇用保険からの排除、です。
 「許せないのは、労働者の8~9割を非正規に頼りながら、有事には真っ先に非正規労働者を切りすてる会社が多いこと。雇用規範の崩壊を許しているのが、シフト制や派遣などの働かせ方です」と尾林さん。企業による柔軟なシフト制運用を「家計補助労働論」で容認することは、もはやできないことを黒書で指摘し、就労実態から休業補償をさせる解釈変更や法改正などを提言しています。

■母親たちの悲痛な叫び

 同ユニオンは6月10~17日、「コロナ禍での子育て・働き方アンケート」をWEB上で実施。1週間で242件もの回答が寄せられ、回答者の8割超が「母親」でした。ひとり親世帯(親と子のみ)は28・9%。正社員は52・1%、非正規労働者が34%でした。アンケートでは、今年4月以降の子育てと労働の実態を聞きました。今年3月、政府は「小学校休業等対応助成金」制度(※2)を打ち切りましたが、その後の実態を明らかにするためです。
 4月以降、65%超がコロナ禍の学校休校などで子育て負担の増大を経験し、対応を迫られました。83人が仕事を休むか、時短勤務で対応。こうした休暇・時短に対し、約3割が全く賃金保障を受けておらず、有給休暇を取得せざるを得なかった人は約2割、部分的補償が約1割。35%が、休暇・時短取得について職場内にハードルがあったと回答しました。
 一方、仕事を続けた105人の理由は、「仕事があるから休めない」38・6%、「休むと減給・無給となるため経済的に休めない」21・1%。在宅ワークができた人(36・8%)からも、自由記述では「在宅ワークをしながらの子育ては無理がある」との声が複数寄せられました。

* * *

 「女性が家計に欠かせない存在になっているのに、いまだに家事・育児の責任は母親に偏在。コロナ禍で女性の自殺者が増えた一因なのでは」と話すのはアンケートをまとめた伊藤紗季さん(仮名)。「でも、どっちの方がしんどいかで分断したくない。男性や育児中ではない女性といっしょに改善したい」と訴えます。尾林さんも言います。「家事や育児の負担軽減には、公的な生活保障の強化も必要。非正規労働運動を強め、ケアや学業のための休暇や所得の保障、学費無償化も含めた、大きな社会保障制度の拡充へ、コロナ禍を契機にした抜本的な転換を。そのために広く連帯しましょう」

 (※1)1週間・半月・1カ月ごとに労働者・管理者間で作成される「シフト表」により最終的な労働日・労働時間が確定される働き方。
 (※2)昨年3月からの全国いっせい休校・登園自粛要請に伴い、働く親が安心して休めるように創設。

(民医連新聞 第1742号 2021年8月2日)

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