民医連新聞

2021年8月3日

コロナ禍での子育て世帯 生活実情調査を9月に実地 貧困で奪われる子どもの権利 2019年調査で実態判明

 2019年、全日本民医連に加盟している病院・診療所の共同組織のみなさんなどに呼びかけ、全国の3歳から中学3年生までの子どもたちが暮らす世帯の生活状況を調査しました。調査結果の概要を紹介し、今回コロナ禍の下で再度調査を行います。
 「社会小児科学の視点からみた子どもの貧困解決」調査研究チームの1人で、佛教大学社会福祉学部教授、大阪・耳原鳳クリニックの武内一さんの寄稿です。

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 今回行う調査の重要性は、2019年調査との比較で、コロナ禍が子育て世帯にどういった影響を与えているかを明らかにできる点にあります。そして、全国の子育て世帯の様子を知る調査は他になく、この調査の結果は、子育て世帯のコロナ禍の現状の困りごとを明確化し、その改善を求める情報源となります。子どもたちにより良い今と未来を届けるために、一人でも多くの人たちへのアンケート調査への協力をお願いします。

死産は1・5倍

 すでに国会内学習会や学術発表で公開した2019年の調査結果から、所得の中央値の半分以下で暮らす228の相対的貧困世帯の状況を、それより明らかに収入が多い2267の世帯との比較で示します。
 貧困世帯で多かったのは、若い親、子どもや家族の構成人数、母子家庭、借家住まい、両親の非正規雇用などでした。一方でスマホ環境に差はなく、スマホは生活の必需品となっていました。母親の特徴として、健康への不安、寝込むような体調不良、肥満傾向、喫煙、DV体験、低学歴、子ども時代の生活苦の体験、家計のやりくりで自分を後回しにするなどが多くみられました。
 医療面で気がかりなのは、死産の割合が高いことです。出生までに亡くなった胎児に占める死産の割合は、非貧困層12%に対し貧困層18%と1・5倍でした(図1)。
 政府の統計でも乳児死亡率(出生1000人に対する1歳未満の死亡割合)と子どもの暮らす世帯の経済背景との関連が確認でき、2019年全体1・9人に対し無職の世帯の場合14・9人と8倍以上でした。死産と乳児死亡は連続性のある問題と考えられ、経済的なぜい弱性がこうした事実と関連していることは小児医学の立場からも解決すべき課題です。

政治への期待低く

 子どもの貧困問題は、たとえば性的マイノリティーや外国籍の問題と異なり、貧困下にあってもそれを「普通」と受け止めて、サービスや手当の充実などで声をあげにくいという難しさにあります。
 2019年調査で、相対的貧困下で暮らすお母さんの6割は生活が苦しく、15%が今の生活は幸せでないと回答しました。しかし逆に言えば、4割のお母さんは生活を「普通」と答え、大多数のお母さんは今「幸せ」だと回答しています。
 この調査では「かろうじてやりくりできる生活水準」を貧困か否かの目安と考え、どういう状態か尋ねています(図2)。相対的貧困で判断するとした人は2割以下でしたが、経済背景にかかわらず多くの人が「貧困」の指標として、「必需品が買えない」「自分で選べない」の2つが重要だと考えていることがわかりました。
 総選挙が間近ですが、貧困世帯は選挙に行った人が非貧困世帯より低く、政治への期待の低さを感じます。貧困家庭の子どもたちの状況として、朝ごはんを食べていない、園や学校の欠席が多い、任意接種ワクチンが受けられない、就学後の慢性疾患や障害の割合が高い、誕生日を家族で祝えない、学習環境が整っていない(図3)、塾に行けない、自転車がない、痩せ型が多い、大学進学を希望しない、友だちとの時間や部活動の時間が少ない、未治療のう歯がある、スマホ利用時間が長い、孤独を感じ自己肯定感が低い(図4)といったことが、明らかとなりました。

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 コロナ禍であっても、子どもたちには「ありたい」「なりたい」自分を思い描く権利があります。そのことを明らかにするためにも、9月の調査への一人でも多くの方への参加を呼びかけます。

(民医連新聞 第1742号 2021年8月2日)

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