民医連新聞

2021年8月17日

人権のアンテナを高く掲げ④ 地域連携と機動力で希望者全員にワクチンを 茨城・城南病院

 人権のアンテナ高く掲げ―。シリーズ4回目は、希望するすべての人にワクチンを届けるとりくみです。新型コロナウイルス感染症を収束させる上で重要なワクチン接種。茨城・城南病院では、認知症高齢者や障害者などへの、出張ワクチン接種にも力を入れています。(丸山いぶき記者)

打ち手確保に難航する障害者施設へ

 城南病院がある茨城県水戸市の障害者施設では、認証施設を先駆けに、5月からワクチン接種が始まりました。しかし、打ち手の医療従事者の確保は、容易ではありませんでした。
 「接種券はあっても、接種をお願いできるところがなく、途方に暮れていた」と話すのは、複数の障害者施設を運営する水戸市社会福祉協議会河和田事務局(以下、社協)の上野圭司さんです。
 重度身体障害者や知的障害者への接種は、医療従事者が施設に赴き、一人ひとりの利用者の状況に応じて対応することが前提です。しかし、嘱託医や近隣の開業医からは、「出張で大人数に対応できる人手がない」「アナフィラキシーショックへの対応が難しい」「持病がある人はかかりつけへ」などと断られ、ほかを探そうにも窓口もありませんでした。
 そんなとき、ケアマネジャーを通じて城南病院が対応していると知った上野さん。「つながりがなかったのでダメもとで依頼しましたが、二つ返事で一気に話がすすみました」。6月16日~7月26日までに、定員50人の入所施設と4つの通所施設で接種を希望する利用者と職員、計200人余りの2回の接種を終えました。

■尊厳まもる柔軟な対応

 出張ワクチン接種に出向いたのは、同院の菊地修司院長と看護部長の国谷沙織さんを中心とした3人の小チームです。さまざまな施設の特性に合わせ、接種場所や方法を変え、ベッド上での接種や不安感や抵抗が強い知的障害者にも対応。職員は副反応が出やすい若い世代が多いことを考慮して、施設運営が滞らないようグループに分けて実施しました。「柔軟に対応してもらえて、本当に感謝しています」と上野さん。

出張接種で地域が見えてきた

 城南病院では、同市で医療従事者への接種が始まった4月に、多職種からなるワクチン対策チームを立ち上げました。菊地さんは、「当院は稼働90床余りの小さな病院。コロナ患者の入院治療には貢献できなくても、ワクチン接種なら、機動力を生かして地域に貢献できる。依頼はすべて断らずにやろうと意思統一してとりくんできた」とふり返ります。
 積極的な出張ワクチン接種を始めたきっかけは、4月末に接種が始まった認知症グループホームでの経験でした。「嘱託医に接種してもらえず困っているところがある」と聞き、接種を申し出。今までかかわりのない施設でしたが、非常に感謝されました。市の説明会で接種をためらう医師も多く、高齢者施設などで接種がすすまない実態が浮き彫りになりました。
 そこで、SNS上で「お困りなら城南病院へ」と呼びかけ、これまでに、計20施設で約1200人に対して出張接種を行いました。
 「先頭に立って飛び回る看護部、複雑なワクチン予約専任の事務、院内を守った職員みんなの力で実現できた」と菊地さん。土・日を含め毎日実施していた院内接種で数の調整もしやすく、インフルエンザワクチンの出張接種の経験も生かせた、という好条件も、柔軟な対応を可能にしました。

■互いの役割と強み生かし

 国谷さんは「外に出て行くことは刺激的。たくさん感謝の言葉をもらったけれど、それこそ私たちの役割。地域に根差し、無差別・平等を掲げる民医連に通じる」と、とりくみをふり返ります。
 ひとたびウイルスが持ち込まれればクラスター化しやすいのは、高齢者施設、障害者施設に共通の課題です。「まずは持ち込まないように」と、どこも感染対策を徹底しています。その結果、ときに利用者の権利を制限せざるを得ないことに心を痛める上野さん。障害者はとくに、有事の際に社会から分断されやすいことを指摘し、もう一歩踏み込んだ「医療と福祉の連携」を呼びかけます。
 菊地さんも「出張ワクチン接種を通して、地域でこんなにがんばっているみなさんがいることを、あらためて知った。地域で患者・利用者がより良い生活ができるように、互いの役割、強みを生かし連携を強めたい」と応えます。
 出張ワクチン接種が、ひとつのきっかけを生んでいます。

(民医連新聞 第1743号 2021年8月16日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ