声明・見解

2021年8月17日

【要求】いのちが最優先される社会への転換を 2021年総選挙にあたっての全日本民医連の要求

2021年7月
全日本民主医療機関連合会

はじめに
 私たちは、1年以上にわたるコロナ禍のもとで、いのちと暮らしの問題が政治と大きく関わっていることを強く実感しました。これまでの政府による公衆衛生軽視、医療提供体制の縮小を背景に、くりかえし新型コロナウイルス感染拡大の大きな波が起こり、多くの国民がいのちの危険にさらされています。そして、私たちは、日本の社会保障制度がいかに脆弱であるかに気づきました。政府の新自由主義的政策によって、多くの国民はもともと不安定な生活を強いられていました。このコロナ禍は、そうしたすべての世代に追い打ちをかけ、深刻な影響を及ぼし、とりわけ不安定雇用が多い女性の多くが生活困窮に陥りました。
 こうしたコロナ禍による国民生活の危機の真っ只中にあっても、政府は社会保障費の自然増を抑制し、「自助・共助」を基本とした全世代型社会保障改革をさらに推進しようとしています。コロナ禍で重要な役割をはたした公立・公的病院の統廃合を進める地域医療構想を推進し、OECDの中でも少ない日本の医師数を増員しないまま、他職種へのタスクシフトや偏在対策を行うことは、現状の余裕のない医療提供体制を放置し、拡充すべき新興感染症対策にも逆行するものです。
 私たち全日本民医連は、結成以来「無差別・平等」の医療と福祉の実現を追求しています。今こそ、一人ひとりの個人としての尊重、ジェンダー平等、基本的人権にもとづく社会保障の実現を政府に強く求めます。私たち全日本民医連は、このコロナ禍のもとで行われる総選挙にあたり、「いのちが最優先される社会への転換を 2021年総選挙にあたっての全日本民医連の要求」を示します。

Ⅰ.新型コロナウイルス感染症をめぐる緊急の要求

(1)感染拡大を抑え、病床のひっ迫や医療崩壊を防ぐために、速やかなワクチン接種への対応を求めます
 1)希望する国民がすべてワクチン接種できるよう、十分な数を確保し、接種体制を整えるとともに、国民に分かりやすい情報提供を行うこと
 2)介護従事者や保育士、その他エッセンシャルワーカーが速やかにワクチン接種できるよう、優先順位を見直して接種をすすめること
 3)高齢者や障がい者、事情があって住民票がない方々などが、予約できずに取り残されることがないよう、国と自治体の責任で情報を届け、予約・接種につなげること
 4)国の責任で感染症やワクチンの研究を充実、強化すること。速やかに必要量を確保するために、ワクチンの国内開発をすすめること
 5)ワクチン接種後の副反応について検証を進めるとともに、広く補償を行うこと

(2)PCR検査など、大量の検体を検査できる体制を求めます
 1)無症状者も含めて必要な人が無料で検査を受けられるよう、体制を強化すること
 2)エッセンシャルワーカーが定期的にPCR検査を受けられるようにすること
 3)これらの費用は国庫負担とし、自治体による差や、個人の経済状況によって検査を受ける機会の差がうまれないようにすること

(3)公衆衛生の充実を求めます
 1)公衆衛生の拠点である保健所設置基準を見直し、当面、1994年の地域保健法施行前の人口10万人に一つの水準に戻すこと
 2)保健師数を抜本的に増やすこと
 3)感染症の危機管理体制強化のため、そのセンター機能として国立感染症研究所の人員体制の拡充や人材育成を行うこと。また、PCR検査を含む検査体制の強化に向け、地方衛生研究所に必要な予算措置と人員配置を行って体制を強化すること

(4)コロナ禍での生活困難への支援強化を求めます。学ぶ権利を保障するために学生への支援を求めます。また、民医連の調査や生活相談の中でも、特に女性の生活困難が明らかになっています。ジェンダー平等の視点から、雇用や賃金での差別などがもたらす女性の困難への支援を重視するよう求めます
 1)正規雇用、非正規雇用、フリーランス等を問わず、収入減となった人への支援を強化すること
 2)学生がコロナ禍による生活困難から学業を断念することがないよう、給付型の経済支援を拡大強化すること。給付型奨学金の拡大や高等教育の学費無償化を実現すること
 3)女性が、生活福祉資金貸付制度など各種支援制度を利用しやすいように、柔軟な対応や適用の拡大など特段の支援強化をすること
 4)シングルマザーや妊産婦、子育て世代に対して、相談体制や各種手当を拡充し、安心して子育てできるよう支援をすること

(5)国民のいのちを守り、生活を支える医療・介護体制を維持するための財政支援を強化し、医療機関や介護施設・介護事業所への減収補てんを求めます
 1)コロナ患者受け入れ病床を設置しない医療機関も、地域全体の医療を支えるために不可欠です。すべての医療機関への減収補てんをすること
 2)高齢者の生活を支える介護施設・事業所に対し、コロナ対策の「特例的評価」の10月以降の継続とともに、介護サービス提供が維持できる減収補てんをすること

Ⅱ.いつでも安心して医療・介護を受けることができる社会をめざして

(1)国民健康保険(国保)制度の改善、医療費の窓口負担ゼロをめざし、当面軽減をはかるなど、誰もがお金の心配なく安心して医療が受けられるよう改善を求めます
 1)国保は国民皆保険制度を支えるセイフティーネットです。前期高齢者や不安定収入の非正規労働者、無職の方が多く加入する国保に、十分な国庫負担を行うこと
 2)国保保険料(税)の減額・免除の措置(77条適用)を拡充するとともに、子どもの均等割は早急に廃止すること。また、国保の一部負担金を減額・免除する措置(44条適用)が活用しやすいものになるよう、改善すること
 3)国保保険料(税)滞納者の実情を丁寧に把握し、厳しい制裁はやめ、滞納者でも医療が必要な場合は直ちに保険証を発行して、安心して受診できるようにすること
 4)後期高齢者医療制度の一部負担金の2割化は中止し、国庫補助を増額すること
 5)子どもの医療費は、国の制度として18歳まで無料にすること。小学生以上の子ども医療費無料化の助成を実施する自治体に対する、国保の国庫負担金減額措置をやめること
 6)障害者医療の「償還払い制度」を撤廃すること
 7)保険で良い歯科医療を受けられるようにすること。国会で請願採択された、学校健診で要治療と指摘された子どもの矯正歯科治療の保険適用を実効あるものにすること
 8)コロナ禍で重要性が増している無料低額診療事業について、保険薬局での薬代や訪問看護への適用など、拡充をはかること

(2)憲法25条を保障する生活保護制度を求めます
 1)生活保護基準の切り下げを直ちに中止し、もとの額に戻すとともに、憲法25条を保障する基準となるようさらなる改善をすること
 2)各種手当を生活実態に見合う額に引き上げること
 3)利用を制限する「水際作戦」や、申請者の意に反する不当な扶養照会は中止し、必要な方が利用しやすいようにすること。車の所有、利用制限など、申請をためらわせる運用をやめること
 4)市区町村のケースワーカー業務を見直し、住民の相談業務にしっかり向き合えるように改善すること
 5)生活保護利用者の医療扶助の国保・後期高齢者医療制度への加入は、検討を中止すること

(3)日本に在留する外国人への生活支援と医療支援を求めます
 1)日本が批准している「難民条約」、「人種差別撤廃条約」、「国際人権規約」等に基づき、在留資格の有無にかかわらず、生活苦に陥った外国人に生活保護を適用すること
 2)国の責任で、医療が必要になった在留外国人には、医療へのアクセスを保障できる体制を整え、医療費支援をすること

(4)介護保険制度や介護現場の改善を求めます
 1)当面する8月から補足給付の見直しは、即刻実施を中止すること。また、総合事業の拡大を中止すること。介護保険料は引き下げること
 2)「社会保障・税一体改革」の下で実施された、利用料2割負担、3割負担を1割負担に戻すこと、「訪問型サービス」、「通所型サービス」を予防給付に戻すこと、要介護1、2を原則特養入所対象に戻すことなど、負担増や利用制限などをもとに戻すこと
 3)利用料の引き上げなどさらなる制度改悪の検討を中止し、必要な時に必要な介護が保障されるよう介護保険制度の抜本的な見直しを行うこと

Ⅲ.いのちと健康を守る質の高い医療・介護の提供体制の拡充のために

(1)新興感染症はじめ、自然災害にも備え、危機対応できるゆとりある医療・介護の提供体制をつくることを求めます
 1)医療や介護、福祉を担うエッセンシャルワーカーの確保と育成を行うこと。喫緊の課題として、医師・看護師不足の解消とそのための養成、介護職員の養成と処遇改善をすること
 2)二次医療圏ごとに新型コロナウイルス感染症対策の検証を行い、病床削減を前提とする地域医療構想、公立・公的病院の再編統廃合計画は見直すこと。今後の新興感染症、自然災害に十分対応できる医療提供体制を整備し、重症患者に対応できる専門家や検査体制、必要な設備を確保すること

(2)診療報酬・介護報酬の抜本的な改善を求めます
 1)医療は国民にとって公共財です。医師、看護師をはじめすべての医療従事者の働き方を抜本的に改善でき、良質な医療の維持、向上のため医療機関が安定した経営が行えるよう、現在の低い診療報酬を抜本的に改善し、引き上げること
 2)介護報酬は、介護サービスの内容や提供方法を事実上規定します。良質な介護サービスを保障できる介護報酬に改定すること
 3)医療機関の負担する控除対象外消費税の還付を行うこと

Ⅳ.公正な税制を求めて

 社会保障の改善、充実の財源は、国民負担ではなく国と大企業に応分の負担を求めます
 1)不公正な税制をただし、税の応能負担を強め、大企業や富裕層への課税を強化すること
 2)逆進性の強い消費税は5%に引き下げること

Ⅴ.いのちを脅かす戦争政策に反対し、憲法を守り平和で安全な社会をめざす国へ転換を

(1)憲法を守り憲法を生かす政治の実現を求めます
 憲法改憲発議をしないこと。台湾海峡の有事への派遣など、米国とともに日本の自衛隊が海外で武力行使する根拠となる、集団的自衛権を認める安保法制を廃止すること

(2)核兵器廃絶、核兵器禁止条約に被爆国日本も参加するよう求めます
 平和憲法の理念に照らし、いのちの対極にある非人道的な核兵器廃絶を求め、唯一の戦争被爆国である日本が核兵器禁止条約に参加すること

(3)米軍基地の撤去・辺野古新基地建設の中止、オスプレイ配備の中止を求めます
 1)沖縄県名護市辺野古の新基地建設を中止するとともに、普天間基地の即時返還を実現すること
 2)日本各地の在日米軍基地に配備されたオスプレイの撤退を求めること。自衛隊の基地強化は中止し、オスプレイ配備はやめること

(4)地球環境を保全し地球温暖化にはどめをかけ、原発ゼロ、再生可能エネルギーへの転換を求めます
 1)地球温暖化による異常気象とそれに伴う災害、夏の熱中症増加や冬の豪雪被害などによっていのちが危険にさらされることがないよう、地球環境保全への有効な政策を実施すること
 2)温室効果ガス削減目標を引き上げ、脱炭素社会に向けてカーボンニュートラルを前倒しで実現すること
 3)原発ゼロ基本法をすみやかに制定すること。原発の再稼働はやめ、再生可能エネルギーに転換すること
 4)被災者への支援については、被災者生活再建支援法に基づく支援金の引き上げと、半壊や一部損壊など支給対象の拡大、小規模自然災害への支給など適用条件の大幅緩和を行うこと

おわりに
 コロナ禍を経て、あたらしい社会のあり方が問われています。全日本民医連は、私たち国民の声が反映され、安心して暮らせる「あたらしい社会」とそれを実現する政治を求めます。地域の広範なみなさん、医療・介護、福祉に携わる仲間のみなさんとともに、手をとり合い、ともに声をあげて、国や自治体に要求します。

PDF版

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ