いつでも元気

2021年8月31日

なくそう「子どもの貧困」

武内一(佛教大学社会福祉学部教授/大阪・耳原鳳クリニック小児科)

9月に子育て世帯生活実情調査

 民医連の小児科医らが、9月に子育て世帯の「生活実情調査」を行います。対象は3歳から中学3年生までの子どもがいる世帯。スマートフォンに回答を入力する方式は、2019年に実施した調査に続き2回目です。調査の責任者で、「ぜひたくさんの方に協力していただき、子どもの貧困を解消する一助にしたい」と語る武内一医師の報告です。

 2019年、全国の3歳から中学3年生までの子どもたちが暮らす世帯の「生活実情調査」を実施しました。そこで明らかになった子育て家庭の経済的困難とそのやりくりの実際を学会や学術誌で公表し、さらに国会議員向けの学習会で、貧困家庭への支援となる政策づくりを訴えてきました。

高い死産の割合

 19年の調査結果から、所得の中央値の半分以下で暮らす「相対的貧困世帯」(228世帯)を、それより明らかに収入が多い2267世帯と比較しました。
 貧困世帯で多かったのは、より若い親、母子家庭、借家住まい、両親の非正規雇用などでした。一方でスマホ環境に差はなく、スマホは生活の必需品であることが分かります。
 母親の状況では、健康への不安、肥満傾向、喫煙、DV(家庭内暴力)被害体験、低学歴、子ども時代の生活苦の体験、家計のやりくりで自分を後回しにするなどが多く見られました。
 医療の面で気がかりなのは死産の割合が高いことで、貧困世帯はそれ以外の世帯の1・5倍でした(資料1)。
 政府の統計でも乳児死亡率(出生1000に対する1歳までの死亡割合)と経済状態の関連を確認でき、19年に全体が1・9に対し、無職の世帯では14・9と約8倍でした。経済的な危うさがさまざまな問題を介して死産や乳児死亡につながっているのなら、それは社会が責任をもって解決すべき課題です。

声をあげにくい貧困

 子どもの貧困問題は、例えば性的マイノリティーや外国籍の問題と異なり、貧困状態を「普通」と受け止めて、サービスや手当の充実を求める声をあげにくいという難しさがあります。
 19年調査で、貧困世帯の母親の6割は「生活が苦しい」、15%が今の生活は「幸せでない」と回答しました。しかし逆に言えば、4割の母親は生活を「普通」と答え、大多数の母親は「幸せ」だと回答しています。
 この調査では「貧困のイメージ」についても尋ねました。世帯の経済状態に関わらず、多くの方が貧困の指標として「(食べていけても)必需品が買えない」「選択肢を自分で選べない」の2つを重視していると分かりました。
 また、子どもの成育環境についても、貧困世帯と非貧困世帯でさまざまな違いが明らかになりました(別項)。
 総選挙が間近ですが、貧困世帯は選挙に行った人の割合がそれ以外の世帯より低く、政治への期待の低さを感じます。

コロナ禍で改めて調査

 コロナ禍による子育て世帯の生活の変化を明らかにして、困っている実情とその解決方法を示したいと、9月に改めて調査を行います。19年調査と同じく、スマホでQRコードを読み取っていただき、画面に表示される質問にお答えいただく方式です。民医連の事業所を通して、共同組織のみなさんに調査を依頼します。
 コロナ禍であっても、子どもたちには「こうありたい」「(将来は)こうなりたい」と自分の思いを描く権利があります。調査へのご協力をお願いいたします。

いつでも元気 2021.9 No.358

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