いつでも元気

2007年5月1日

特集1 国保証取り上げで29人死亡 全日本民医連の緊急実態調査であきらかに

病気や失業で保険料が払えなくなり…

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相談にのる刀山さん

 国民健康保険証を取り上げられ、受診が遅れたために亡くなった――。一昨年一月からの二年間に、少なくとも二九人の方が手遅れとなり命を落としていたことが、全日本民医連の緊急調査でわかりました(今年二月実施)。
 「病気で働けなくなり、失業して経済困難に」「わずかな年金の高齢者が、生活困難で保険料未払いに」など、報告からはいまの社会情勢や福祉の貧困が国民 に重くのしかかっている現実が浮かび上がってきます。
 「死亡事例」の現場では、医療を必要とする国民に何が起きていたのでしょうか。

救急搬送され3日で死亡

 広島市西区の福島生協病院に昨年八月、六五歳の男性が救急搬送されてきました。脱水と感染症の疑いでICU(集中治療室)に入りましたが、資格証明書をもっていたため、医療ソーシャルワーカーの刀山泰子さんが対応しました。
 「なんとか話せたので聞き出すと、肺気腫で、前年の四月に別の病院で入院治療を受け退院したが、体調は悪く、仕事も休みがちになり家賃も保険料も滞納し てしまった。通院が必要だとわかっていたが、資格証明書が送られてきたので受診できなかったということでした」
 資格証明書は、国保法改悪で自治体に発行が義務づけられた二〇〇〇年以降、急速に増加。保険料を一年以上滞納すると、国保証が取り上げられ、代わりに資 格証明書が発行されます。資格書では、かかった医療費の全額を窓口で支払わなくてはならず、受診したくてもできなくなります。
 男性は勤めを退職後、年金受給までのつなぎにとタクシー運転手のアルバイトもしたそうです。しかし思うように働けず、民生委員を通じて生活保護申請をし たが受け付けられなかったとも話しました。息子は和歌山にいるが、迷惑をかけたくないと一人暮らしを続けてきたと。
 「すぐ区役所に電話をして、入院しているので保険証を発行してほしいと頼みました。でも、その対応が、あまりにひどかった……」と刀山さん。
 緊急であることはわかったが、救急車で運ばれたからといって、一年間も保険料を滞納していたので保険証の発行はできない。とにかく、納付相談にくるよう 本人に伝えてくれ。いくら頼んでも、担当者はそういうばかりでした。
 「本人は動けないとわかっているはずなのに。仕方なく私が二〇〇〇円を預かり、代わりに区役所へ出向いて短期証を発行してもらいました。でも、それも遅すぎたんです」
 検査の結果、肺気腫がガンに移行し、すでに全身に転移していることがわかりました。「もってもせいぜい一カ月」という診断。
 「電話で息子さんに伝えると驚いて、すぐ行くといってくれました。けれど、その男性は入院してわずか三日後に亡くなってしまいました。息子さんが駈けつ けるのを待ちかねたように息を引き取りました。保険証さえあれば、もっと早く治療を受けることもできたはずなのですが」
 その後、男性には救急搬送の一カ月前に、年金が出ていたことがわかりました。しかし、そのときにはすでに、銀行へお金をおろしに行く体力も、気力もなく なってしまっていたのではないか。刀山さんは悲しそうな表情で、そう語ります。

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仕事もない、病気も治らない…

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※各年6月1日現在の厚生労働省調査から作成

 同じ広島市の安佐南区にある広島共立病院からは、三件の死亡事例が報告されています。
 五〇代のある男性は、昨年春にアルコール依存症と糖尿病悪化で緊急入院。無保険だったため医療ソーシャルワーカーの谷岡美紀さんが話を聞くと、山口県に いたが生活できなくなり、生活保護を申請したもののわずかな田畑をもっていたため受理されず、姉を頼って広島にきた直後に倒れたとわかりました。
 「山口では、病気のため徐々に収入が減り、定期的に通院もできなくなってますます病状が悪化し、ついに退職。国保料も支払えず無保険となり、治療をやめ てしまったそうです。働けなくなったことで酒量も増えたようでした。でも、入院中に自己管理の指導を受け、前向きな気持ちになっていたと思うんです。
 生活保護が受理され、姉の住居の隣にアパートを借りることができて生保の家事什器費で必需品をそろえるとき“お客さん用じゃあ”と湯のみ茶わんを三個、 買っていたんですよ。糖尿病食を作るのに秤も欲しいといってました。お金が足りなくて買えませんでしたけど」
 しかし男性は退院後わずか二〇日で再び緊急入院。糖尿病悪化で意識ももうろうとしたまま二日後に亡くなりました。

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参院予算委員会で質問する小池議員(3月6日)=「赤旗」提供

 「退院後一週間はインシュリン注射も自分でしていたようですが、その後は酒を飲み 食事もまともにとれなかったようです。一度は前向きに生きていこうとされていたのに。退院後も断酒会への参加を継続的に働きかけるとか、訪問してようすを みるとかしておけばと、悔やまれてなりません」(谷岡さん)
 もう一例。昨年一一月二八日に栄養失調で路上に倒れ、救急搬送されてきた六四歳無職の男性は、無一文でした。
 「以前は生活保護を受給していましたが、月一〇万円の年金が出るようになって打ち切られました。生活保護のときとほとんど同じ収入なのに、税金や保険料を払わねばならなくなって国保料を滞納。資格証明書になっていました。
 入院中に生保の申請をすると、一二月一五日には年金が出るからと、区役所は拒否。いまお金がないのだからと交渉し、一五日に出る年金を一二月一日にさか のぼって収入認定するという条件付きで認められました。つまり、生保扱いは一一月中の三日間だけということです」
 男性は栄養状態が改善して三日後に退院。しかし今年一月、虚血性心疾患で孤独死したと、つながりのあった生活と健康を守る会から連絡がありました。

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資格証明書。下に赤字で、(この証で診療を受けるときには)「診療費用の全額を支払ってください」と


国保証なく受診遅れで重症化の実態、全国で
「本当にそうなら指導する」と首相

「受診抑制ない」と厚労大臣

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 命まで落とす国保証の取り上げ。日本共産党の小池晃参議院議員は、三月六日の予算委員会で政府を追及。民医連の調査でわかった国保証取り上げによる死亡事例をあげ、「こうした実態を調査しているのか」と質問しました。
 ところが柳沢厚生労働大臣は、平然と「資格証明書による受診抑制などあるはずがない」と答弁しました。資格証明書でいったん全額払っても、あとから七割返ってくるから同じだという。まったく実態を見ない空論です。
 小池議員がさらに具体的な例をあげて迫ると、安倍首相はこう答弁しました。
 「本当にそうであるなら、そんなことがないように指導しなければならない」
 小池議員は「首相も、こういわざるを得なかった。首相のこの言葉は、今後、自治体に国保行政を変えさせていく運動の足がかりになるものです」と話します。
 今回の質問を前に、日本共産党も独自に全国の国保の実態調査をしました。四七都道府県七二四病院からの回答でも、国保証取り上げによる重症化が一〇二七件にのぼり、四五・一%の病院が「窓口負担増などによる受診抑制がある」と答えていました。

落ち込む所得、上がる保険料

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 小池議員はこういいます。
 「私もあらためて調べて驚きました。年収二〇〇万円の四人家族で、年間国保料が三五万円を超える自治体がざらにある。国保加入世帯の平均所得は九一年の 二七六万円をピークに、〇四年は一六五万円にまで落ち込んでしまっている。それなのに国保料は一貫して上がり続けているんです。国保加入者が悲鳴を上げて いるのは当然なんです」
 厚労省は、病人がいたり公費負担医療(老人医療や更生医療、難病、人工透析など)の世帯には資格証明書を発行しないとしています。しかし実際には、機械 的に資格証明書が発行されている事実が調査でも明らかになりました。
 調査にもとづき全日本民医連は、四つの緊急提言を出しました(別掲)。大河原貞人事務局次長はこういいます。
 「今回の調査で“お金の切れ目が命の切れ目”になる実態があらためて明らかになりました。悲惨な事態を起こさないために、いっそう“人権のアンテナ”の 感度を高め、具体的に受療権を守るとりくみが重要です。憲法の立場で国民健康保険法を運用するのは政治の責任です。命を守る国、自治体をつくるために、共 同組織のみなさんとともにがんばりたい」
文・矢吹紀人/写真・若橋一三

いつでも元気 2007.5 No.187

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