民医連新聞

2021年9月7日

相談室日誌 連載504 独居患者の支援から見えた専門性、柔軟性と調整力(徳島)

 58歳男性のAさんは、入院前、独居で清掃員のアルバイトをしていました。
 ある日、上司が自宅を訪問すると、言葉を話すことができなくなっており、その後、頭部CTを受け、「心原性脳梗塞」と診断を受けました。
 入院当初、本人に四肢麻痺(まひ)などはなく、独歩で移動可能でしたが、発語失行著明で、名前のみならず短い言葉も話すことができませんでした。また、こちらの問いかけに対して「あー、あー」と発するほか、ジェスチャーやうなずきができる程度でした。本人に筆談で入院前の生活状況などを確認しようと試みましたが、こちらの言うことがある程度理解できても、本人がこちらに言葉で伝えることができません。また、家族とは金銭トラブルが原因で絶縁状態となっていました。
 誰も支援者がおらず困っていた矢先、今度は多額の借金があったことが判明し、債権会社からの督促状はすべて封がとじたままで、借金が全く返済できていませんでした。その後も本人と筆談でやりとりを続け、自己破産の意思を確認したうえで法テラスに相談。弁護士に自己破産の手続きを依頼して、最終的には救護施設入所につなげることができました。
 入所後、救護施設の職員から「施設の生活に慣れ、作業にも参加してくれています」と連絡をもらいました。しかし、入院中Aさんの気持ちを十分くみとることができたのか、今もわかりません。
 少子高齢社会のなかで、Aさんのようにひとり暮らしで身寄りのない人や、いろいろな問題を抱えた人が増えてくることが予想されます。ソーシャルワーカーは、専門的な知識があるだけでは、より良い支援はできません。コミュニケーション能力、さまざまな問題に対処できる柔軟性、社会的弱者への心配り、各関係機関と連携できる調整力なども求められます。
 業務時間内で私たちソーシャルワーカーができることは限られていますが、常に本人の気持ちに寄り添う気持ちを忘れず、その人が自分らしい生活を送れるよういろいろな方法を模索し、支援していきたいと思います。

(民医連新聞 第1744号 2021年9月6日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ