民医連新聞

2021年9月21日

相談室日誌 連載505 “身寄りがない人”の定義は? 行政へのソーシャルアクション(秋田)

 Aさんは他院で前立腺がんと診断され、希望で当院へ紹介されました。しかし、紹介から約半年ほど受診していませんでした。救急搬送後、入院となり、前立腺がん末期と骨転移、予後は1年程度と診断。Aさんは90代で独居、収入は年金のみで、身体機能と認知機能は保たれていました。当初身寄りはないとのことでしたが、他県に娘がいることを教えてくれました。しかし、「娘に頼るつもりはない」と連絡を取ることを拒否。何とか了承が得られ、娘へ電話をしましたが、「いっしょに暮らさないかと提案しても断られ続けた。お金のことで裏切られたこともあってかかわるつもりはない」とのこと。身寄りがない人として市にも相談しましたが、「その時にならないと判断できない」と。退院後外来受診のたびに顔を出しましたが、Aさんは「娘には頼まない」とのこと。娘に何度か電話するなか、「もし本人が今までのことを謝ってくれるのであれば、最期くらいは私がなんとかしたい」との話でしたが、本人の気持ちは変わりませんでした。
 数カ月後、Aさんは亡くなりました。結局、最期に娘へは連絡がつかず、市へ相談しました。引取者のない死体の埋火葬を死亡地の市町村が行った場合、その処理に要した費用を市町村が負担する墓地埋葬法9条の適用について確認をしましたが、「親族がいるのであればこちらでやれることはない」との返答でした。食い下がった結果「墓地埋葬法については予算を取っていないため適用はできない。生活保護法第18条2項の葬祭扶助の適用として対応する。死亡届出人は病院長名の記載、葬祭扶助の申請者は民生委員か病院職員とする」「本人の親族を探す、遺品をどうするかなど市では一切かかわらない」と。葬祭費は解決しましたが、納得できない思いでした。
 本事例を通して、今後増えるであろう身寄りのない人が亡くなった際の対応について、市の対応に疑問と不安を覚えました。県の医療ソーシャルワーカー協会として、市議会議員へ相談。市議会の一般質問で、市からは「墓地埋葬法は適切に運用している。マニュアルに沿って対応する」と。実際に私が言われたこととはかけ離れた答えでしたが、公の場で「市はちゃんとやっている」と発言させたことは、今後の布石になるのではないかと期待しています。

(民医連新聞 第1745号 2021年9月20日)

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