いつでも元気

2021年9月30日

お金をかけない健康法

 往診している介護施設から、驚きの連絡があったのは5月初旬。「昨日スタッフの一人が家族からコロナに感染し、本日入居者のAさんが発熱した」との報告でした。
 施設ではすぐにPCR検査を実施し、全員の陰性を確認。しかしAさんの経過から見ると、コロナ感染の疑いが濃厚と判断し、受け入れてくれる病院を探しました。
 土曜日で「コロナ病棟は満床」と、10数カ所に断られてしまいました。救急にも連絡し、約4時間かかってやっと隣県の総合病院へ搬送。救急外来でコロナ陽性が確認され、入院となりました。
 ほっとしたのも束の間、夕方に同じフロアのBさんも発熱し、他市の救急病院へ入院となりました。数日後には他のスタッフが発症。さらに1週間後には入居者のCさんが発症し入院。コロナの集団発生により、5月上旬に施設で予定していたワクチン接種は、延期せざるをえなくなりました。
 施設の入居者は、認知症とさまざまな基礎疾患をもつ高齢者で、コロナ重症化の危険度がとても高い方々です。その後、入院された3人のうちAさんとCさんの男性2人が、帰らぬ人となってしまいました。入院した病院のスタッフから「ワクチン接種直前とは残念でした」と同情されたそうです。
 90代半ばのAさんは、入居者の中で最もユーモアがある方でした。糖尿病や高血圧、脳梗塞があり、コロナ感染から肺炎・心不全を患って入院11日で亡くなりました。
 80代半ばのCさんは、私のもの忘れ外来に6年間通院されて入居3年目。入院治療によってコロナ肺炎は2週間で改善したものの、腹腔内出血・出血性ショックで貧血悪化の3日後に亡くなりました。
 身近な人たちの逝去は本当に悲しい。ワクチンの供給と接種がもっと早ければ、コロナ感染を予防できたのではないか。「お金をかけない健康法」のためには、本人の心がけや努力だけでは不十分だと、コロナ禍で実感しています。


大場敏明
おおば・としあき
1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒、内科医。船橋二和病院、東葛病院、みさと協立病院などを経て、クリニックふれあい早稲田(埼玉県三郷市)院長。著書に『ともに歩む認知症医療とケア』(現代書林)、『ドクター大場の未病対策Q&A』(幻冬舎)、『かかりつけ医による「もの忘れ外来」のすすめ』(現代書林)

いつでも元気 2021.10 No.359

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