いつでも元気

2021年10月29日

まちのチカラ 
色とりどりの笑顔あふれるまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

日本紅葉百選に選ばれている「大興善寺」山門の見事な紅葉(大興善寺提供)

 佐賀県の東の玄関口に位置する基山町。
 交通の便が良く、九州各地への移動の要でありながら、紅葉でにぎわう大興善寺や、まちのシンボル基山など豊かな自然が魅力です。
 便利さとのどかさを併せ持つ町の“今”を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 博多駅からJR鹿児島本線快速で約25分、基山駅に到着しました。福岡のベッドタウン、基山町は思いのほかのどかなたたずまい。さっそく今回のお目当てである九州の紅葉の名所、大興善寺に向かいました。
 契山(標高412m)の麓にある大興善寺は、奈良時代の717年に開山された天台宗の古刹。入り口の127段の石段きぼうの坂を登っていくと、山門の間から境内の趣ある景観と秋の紅葉が徐々に現れてきます。
 茅葺屋根の本堂と、樹齢600年の大楠が、モミジやイチョウの赤や黄色に包まれます。凜とした山寺の秋の風情に心静かな感動が。約7万5000平方メートルの広大な敷地は大興善寺契園として山林植物園に整備され、約500本のモミジが杉や檜の木々の間から顔をのぞかせ、多彩なコントラストを添えます。
 「山林の自然の中に大興善寺はあります。ゆるりと山歩きするように境内を巡っていただくと、モミジを見上げたり見下ろしたり立体的に紅葉を楽しんでいただけます」と神原玄晃住職。
 寺の紅葉の色づきは例年11月上旬、見頃は11月中旬?12月上旬です。4月中旬?5月上旬のツツジの季節もお勧めです。

“自分だけの一足”

 町にはものづくりをする人が多く、基山駅周辺の徒歩圏内だけでもアトリエやギャラリーが8軒。布や木、ガラスや陶芸など様々な職人がいます。そのうちのひとつ、オーダーメイド・ハンドメイドの革靴を作るMarikoK(マリコケー)を訪ねました。
 酒蔵を改築した趣ある工房兼店舗で、色とりどりの素敵な靴が美しく並べられています。オーナーの加藤真理子さんが店内で製作。靴を選びながら職人の手仕事も垣間見える空間です。
 加藤さんは基山町育ち。会社勤務を経て、自身が靴に悩んだ経験をきっかけに靴作りの道へ進みました。浅草とイギリスでの修業後、「足に合わせた歩くための靴」という考え方で、つま先部分が広い革靴を製作。デザインから仕上げまで、すべて1人で手がけています。
 外反母趾や巻き爪など、足のトラブルを抱える人に信頼され、この日も「左右の足の大きさの違いに長年苦労しました。今は靴擦れもなく、歩くのが楽しい」と靴を新調したばかりの女性が来店。ベージュの皮にブルーの裏地がおしゃれで、洋服との組み合わせも楽しんでいる様子です。
 「自分の足に慣らしていく感じで、靴を育てるのを楽しんでください。修理もできるので長く履いてほしい」と加藤さん。遠方のお客様からのオーダーも、テレビ電話などを駆使して丁寧にフィッティングをしています。職人の手仕事や思いに触れながら“自分だけの一足”を作りあげるひとときが味わえます。

エミューで町おこし

 町では2015年から、地球上で2番目に大きな鳥といわれるエミュー(オーストラリア原産)で町おこしに取り組んでいます。町内に5カ所ある圃場の一つが基山(標高404m)の麓にあり、訪ねると「ボンボンボン」と太鼓を叩くような鳴き声が。性格は温厚で、恐竜のような足でのそのそと歩きます。
 体高180cmほどのエミューからは食肉だけでなく、脂・卵・羽毛などあらゆる部位を活用でき、中山間地の耕作放棄地の打開策として飼育が始まりました。
 活動の中心となる農業生産法人きやまファームの栁瀨浩司さんは、「生産から加工・販売という6次産業の流れを、若い世代が一生懸命取り組めるよう地域とともに作っていきたい」と目を輝かせます。
 町の北東端、九州自動車道の基山パーキングエリア上りの基山ふるさと名物市場には、2つの羽根が1つにつながっている珍しい形状の羽根から作った幸運のアクセサリーや、オーストラリアでアボリジニの万能油として知られるエミューオイルの化粧品など、さまざまなエミュー商品が並びます。
 また、ご当地料理なら、町中心部にあるホットステーション(合宿所食堂施設)のエミュー肉を使ったカレーやカツ丼、野菜炒め定食がお勧め。肉はしっかりと噛みごたえがあり、風味は牛肉のようなおいしさ。鉄分豊富で高たんぱく、低カロリーと、健康志向の方にも好評です。国内では珍しいエミューにぜひ触れてみてください。
 ほかにも、基山に残る日本最古の山城跡で国の特別史跡に指定されている基肄城跡や、光明念佛身語聖宗の総本山本福寺など歴史と自然の見所がたくさん。
 交通の便も良く、暮らしやすい基山町。秋の風と共に、まちは色とりどりな笑顔であふれています。

■次回は鳥取県湯梨浜町です。

まちのデータ

人口
1万7421人(8月末現在)
おすすめの特産品
エミュー商品、マコモタケ、サカキ
柿、基山茶など
アクセス
福岡空港から車で約30分
博多駅からJR線快速で約25分
問い合わせ先
基山町観光協会
(基山町役場産業振興課内)
0942-92-7945

いつでも元気 2021.11 No.360

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