民医連新聞

2021年11月2日

あれから10年 私の3.11 ⑰自主避難者の思い尊重し健診を続ける 京都民医連被ばく対策委員 京都・保健福祉の会理事長 尾崎 望

 東京電力福島第一原発事故から10年が経過しました。避難者をめぐる状況と、エコー不要論など甲状腺エコー健診の評価が大きく変化してきた状況を受けて、私たち京都民医連被ばく対策委員会は半年かけて、健診の意味を確認する作業を行いました。
 まず健診結果全体について。10年間の受診者240人に甲状腺がんは見つかりませんでした。受診者、ご家族には何よりの安心でした。ただ、今後子どもたちの年齢が上がると、要精査となるB判定の増加が予測されます。エコー検査所見が変化することを考慮すると、健診の継続が大切です。
 また、アンケートとインタビューによって受診者とご家族の健診への思いをたずねました。多くは安心感を得ることができたと回答し、健診の継続を希望していました。「データで見える化することで安心できた」「自主避難という理解されにくい状況を理解してもらえる存在が避難先にいることが精神的安心につながる」「多くの方が京都に避難されていることを知り、移住の判断が特別でなかったと思えた」などが多くのみなさんに共通する回答でした。継続的に数値と画像で結果が示されることが安心につながること、また避難者同士あるいは健診スタッフとの大切な交流の場となっていること、この2点が健診の役割だとまとめられます。一方で、「今回の原発事故による身体への影響は心配するほどのものではない」という結論に達し、健診を“卒業”した人もいました。「帰省時の経験や、信頼する研究者の発言によって、当初の不安から考えが変わってきた」と話していました。福島に住み続けている人たち、帰還した人たち、避難生活を続ける人たち、一人ひとりの状況が異なるだけに健診への思いはさまざまですが、それぞれの立場が尊重されるべきです。
 大きな決断をしてふるさとを離れた区域外避難者=自主避難者にとっては、子どもたちが健康であることを毎回の健診で確認していく作業はとても重要なことでした。そして、健診の役割は甲状腺がんの発見のみではないことも大切です。理解者が少ない避難先で避難者同士、また健診スタッフと交流できる貴重な場が存在するという事実は、軽視してはならないでしょう。
 私たちの結論は、今後も健診を継続していくということです。(医師)

※京都民医連では、12月に『原発事故から10年―私たちの健診活動をふり返る』冊子を刊行し、各県連や関係者に配布予定。

(民医連新聞 第1748号 2021年11月1日)

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