民医連新聞

2021年11月2日

相談室日誌 連載508 コロナ禍で奪われた家族関係 施設入所が決まるまでの2年(大阪)

 コロナ禍において経済的問題、在宅ワークなどの働き方の変化、外出自粛などでライフスタイルが大きく変わってしまいました。ライフスタイルだけではありません。家族関係まで影響を受けていたケースがありました。
 入院患者の90代女性Aさんは、もともと施設に入所していましたが、脳血管疾患のため、リハビリ目的で当院に入院しました。片麻痺(まひ)がありましたが、理解力も記憶力も大きな問題がない人でした。
 ADL低下に伴い介護量が増加し、元の施設に戻ることができなくなり、Aさんは別の施設を希望。今までかかわっていた長男とは関係良好とは言えず、Aさんは自分で施設を決めるつもりでした。
 そんななか、他府県に住む次男から次男宅に近い施設に入所させたいと提案がありました。ところがAさんは「今までもこれからも私と次男は関係ない」と拒否。電話での話し合いを重ねましたが、Aさんの気持ちは変わりませんでした。
 もともと自分の意見をしっかり主張し、今までも何でも一人で決めてきたAさんに、次男は「では何度言っても無駄ですね」と諦めかけていました。私は、次男にAさんと直接会って話し合うよう促し、来院してもらいました。実は次男は対人援助職という仕事柄、コロナ禍の2年間、Aさんに会いに来られなかったのです。「会いたくない。何しに来るの」と怒るAさんに、「心配して会いに来てくれましたよ」と伝え、次男が待つ部屋に案内しました。
 「いまさら何しに来たの。今まで会いにも来なかったのに」「コロナのせいで会えんかったんや。これからは近くで親孝行させてほしい」。Aさんは「今ごろ遅いわ」と言って泣き、それからは笑い泣きしながら次男と久々の再会をとても喜んでいました。そして、次男宅の近所の施設へと退院しました。
 このコロナ禍において、私たちは目に見える変化以外にもさまざまな影響を受けています。ライフスタイルの変化で人と人とのつながりが断たれ、その後の人生にまで大きく影響する、このようなケースは少なくないと思います。心から新型コロナウイルス収束を願うばかりです。

(民医連新聞 第1748号 2021年11月1日)

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