いつでも元気

2021年11月30日

読者をつないで30年

聞き手・新井健治(いつでも元気編集長)

 『いつでも元気』は1991年12月の創刊、今号で30周年を迎えました。
 『元気』編集委員の原和人医師(石川・城北病院)と石川県金沢市で友の会のたまり場を運営する山下明希さんが
 『元気』の役割を語り合いました。

原和人(はら・かずと)
城北病院総合診療科医師。1998年から2008年まで全日本民医連副会長。01~04年、城北病院院長。08年からいつでも元気編集委員。12年より反核医師の会共同代表

山下明希(やました・あき)
石川県健康友の会連合会金沢南ブロック責任者。健康友の会交流ひろば・みのり運営委員長

―コロナ禍のなか、元気は創刊30年を迎えました。新型コロナが与えた影響について教えてください。
原和人 城北病院で総合診療科の外来を担当していますが、最近は感染状況も一時より収まり、医療現場も落ち着いています。ただ、1年半以上もコロナ禍が続き、外出自粛などの影響が患者さんに表れている。歩き方や動きが鈍っている人が多く、フレイル(心身の衰え)が心配です。
山下明希 健康友の会の交流ひろば「みのり」で週1回、小中学生を対象に寺子屋(無料の放課後学習サポート)に取り組んでいます。金沢市に「まん延防止等重点措置」が出た8月以降、小学生は希望者のみ、中学生は午後8時までと以前より時間を早めて開いています。
 みのりの運営を通して地域のさまざまな方と関わっていますが、金沢市は観光業で働く人も多くコロナ禍の経済的な影響が深刻。夫婦ともに仕事が減りパートを掛け持ちするなど、もともと大変な家庭がさらに大変になっているのを実感します。
 金沢市は都会に比べると人の眼を気にする人が多い。フレイルにならないよう、患者さんに「家の周囲でも構わないので歩いてください」と言っても、人の眼を気にして自宅で息を潜めている。公共施設も休館中が多く、「行くところがない」と話す人もいます。

―編集部は創刊30周年を記念し、「レッツ体操」をまとめたパンフレットを発行しました。13万部を作りましたが、注文が相次ぎ残りが5000部を切りました。パンフを使って家の中でも体操をして、皆さんの健康づくりに役立てていただければ幸いです。
山下 みのりでは友の会の支部の班会やサークルが活動していますが、食事会とうたごえは休止、体操は換気など感染対策を徹底して続けています。

原点へ立ち返る

―元気の表紙には「あなたと民医連をつなぐ月刊誌」と書いてあります。原先生は創刊時からの読者ですね。
 元気が誕生した1991年は、私が全日本民医連理事に選出された時期と重なります。83年の山梨勤医協の倒産を契機に共同組織の重要性が強調され、民医連と共同組織をつなぐ雑誌として創刊されました。
 理事会の国際部担当として海外にも行きましたが、外国人に民医連を紹介しても理解してもらえない。民医連は地域住民が出資し、運営にも参加していると言っても、「公的な医療機関と何が違うのか」と聞かれます。
 海外にも医療関係のNGOがありますが、住民を支援するという一方的な活動。国際的にみても住民が出資し運営にまで関わる、そして医療や福祉、ひいては政治を良くする活動まで取り組む団体は少ないと思います。

―時間がたったり組織が大きくなると、当初の理念が薄れてしまうこともあります。創刊30年を機に、改めて元気は何のためにあるのか、その原点に立ち返らなければいけないと考えています。
 私が理事になった当初、先輩理事から「戦後すぐの時期には侵略戦争に加担したことを反省し、民主的な国づくりのために頑張ってきたものの、その後の歴史のなかで保守的な方向に変わってしまった団体も多い。民医連が変わらないのは、一貫して働く人や地域住民に支えられて運動を続けてきたからだ」と教えられました。
 民医連も世代交代が進み、職員数も増えてきた。元気の誌面でも、改めて民医連そのものの成り立ちを取り上げてほしいですね。

強みは読者はがき

―誌面の印象はどうですか?
山下 10年前から元気を読んでいます。以前に比べ、誌面が随分明るくなりました。中身も高齢者が読んでおもしろいだけでなく、幅広い世代を対象にしている。私が好きなのは「巻頭エッセイ」。さまざまな分野の人が登場しており、読むのが楽しみです。
 2008年から編集委員を務めていますが、民医連の雑誌ということで以前は硬い印象を受けました。編集委員会で「ダサい」という指摘や、「正座をして読まなければいけない」という意見もありました。元気は機関誌ですが、やはりお金を出して読んでいただく雑誌なので、読者の評価が大切です。

―3カ月に1度開く編集委員会(別項)で、誌面に対してさまざまな指摘をいただきます。また、元気の強みは読者はがき。毎月700~900通もはがきが届く雑誌は全国的にも例がありません。はがきは編集部全員で目を通し、誌面づくりに活かしています。
 共同組織の皆さんに読んでいただくのに、以前は字が小さかった。字が小さいと文字数が多くなり、難しい論文を読んでいるような感じになる。編集委員会で字を大きくするように提案したところ、徐々に改善されてきて文章もしまってきた。写真とのバランスも良くなって、とても読みやすくな
りました。最近は“垢抜けた”雑誌になった印象です。

誌面を通して班会が活性化

―新聞をはじめ、紙の雑誌や本は年々部数が減少し、インターネットに取って代わられています。
山下 紙の雑誌だからこそ、届けることで読者の皆さんに会うことができる。記事の読み合わせや体操、脳トレに一緒に取り組むなど、誌面を通して班会も活性化します。元気は情報を提供するだけでなく、友の会の会員同士をつなぐ役割を果たしています。
 共同組織の皆さんは60~80代の方が多く、まだまだ紙の雑誌の方が親しみやすい。ネット上の記事は情報の深みがないし、フェイクニュースも多い。雑誌は多くの人手をかけて記事ができるので、信頼感があります。

―コロナ禍のなかの活動の工夫について教えてください。
山下 会議や集会がオンラインになったので、遠方の会員さんも気軽に参加できるようになった。ただ、何でもオンラインにしてしまうと交流が減ってしまう。兼ね合いを間違えると、つながりが断たれるようで怖い気もしています。
 医師は何かと忙しく、これまで友の会の班会などで講師をお願いしてもなかなか難しかった。でも、リモー
トになったことで、「30分くらいなら、なんとかなる」と言う医師もいます。オンラインを併用して班会を開いてはどうでしょう。
 元気の誌面が良くなったのも読者の声が大きい。編集部の公式ラインなどソーシャルネットワーク(SNS)を作り、読者からいつでも感想を送ってもらえるようにすれば、より身近になると思います。
山下 石川県内の子ども食堂のなかにはラインを使ってお知らせしている団体もあり、寺子屋もラインを作る予定です。子育て世代はラインやインスタグラムを利用しています。編集部ももっとSNSを活用すれば、購読につながるかもしれません。

これからも読者とともに

―30周年記念パンフの発行は読者の要望がきっかけでした。編集部が北海道の友の会で講演した時、会場から「レッツ体操を冊子にしてほしい」との意見がありました。最後に誌面への要望を教えてください。
山下 友の会とともに活動している「健生クリニック」(石川勤医協)は、築57年で建て替えを予定しています。ほかにも建て替え時期を迎えている民医連の施設が多いと思います。誌面で全国の成功事例を紹介してもらえると、参考になります。
 コロナ感染拡大のさなか、各地の民医連事業所と職員が奮闘する記事は、私自身も励まされましたし、きっと共同組織の方々も感動されたと思います。
 現場は大変な状況ですが、共同組織の方々と一緒に医療や介護に取り組むのが民医連の原点。現場を共有するために、職員の側からもっと情報発信があればいいですね。
 また、コロナ禍によって社会の在り方が問われました。いのちと暮らしが大切にされる社会についても考えたい。今後の元気に期待しています。

―ありがとうございました。創刊40年、50年を迎えられるよう、これからも読者の皆さんとともに歩んでいきます。

共同組織 健康友の会や医療生協など民医連とともに活動する住民組織。全国に約370万の仲間がいる


『いつでも元気』編集委員会

3カ月に一度、記事の評価や誌面方針を話し合う。共同組織の代表者や全日本民医連役職員、編集部、誌面を制作する光陽メディア社員ら16人が参加

第44期編集委員会メンバー(敬称略)
・共同組織選出
布施仁(東京・代々木健康友の会)
高橋順子(埼玉・医療生協さいたま)
清原巳治(京都・乙訓医療生協、吉祥院健康友の会)
早川高子(岡山・倉敷医療生協)
鷲北栄治(神奈川・川崎医療生協)
・全日本民医連
原和人(石川勤労者医療協会)
内田てる美(東京勤労者医療会看護部長)
木下興(全日本民医連事務局次長)
宮澤洋子(全日本民医連常駐理事)
田中翔太郎(全日本民医連共同組織連絡会担当)
新井健治、楠本優、武田力、安長建児
(以上『いつでも元気』編集部)
・制作会社
古館志門、加藤優花(以上光陽メディア営業部)

いつでも元気 2021.12 No.361

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