民医連新聞

2022年1月5日

新春対談 Colabo代表 仁藤夢乃さん × 増田剛会長 かかわって、つくる 互いを尊重できる社会 ときにつらくとも省みて、向き合う人権

 全日本民医連は2月、第45回定期総会を迎えます。今年の会長対談は、コロナ禍の2年間、向き合ってきた人権について、Colaboの仁藤夢乃さんと語りあいました。(文・丸山いぶき)

総選挙をふりかえって

増田 昨年秋に行われた総選挙の結果を、仁藤さんはどのように受け止めましたか? 野党統一候補だった池内さおりさん(東京12区・共産)を、再び国会に送り出せず残念でしたね。

仁藤 ねー、本当に! 私もこんなに志を同じくして性暴力・性搾取の問題にとりくめる政治家は初めてだったので、熱い期待を寄せて、初めて応援演説もしました。
 でも、選挙結果を見て、この先も、国の責任として女性や子どもの人権を守っていこうという雰囲気にならないんじゃないかと、危機感が強まっています。

増田 一方で、投票率は55%余り。本当に困っている人にはまだ主張が届いていないと思います。
 この2~3年、ジェンダー問題での大きなうねりは、どんな妨害があっても変わらない。森元首相の発言に「私は、わきまえない」という人が止まらなかったですよね。私は仁藤さんの著書『難民高校生』を読み衝撃を受けました。同じようにジェンダー問題もまだ届いてない、必ず前進できます。

仁藤 諦めずがんばりたいです。

深刻さ増す少女たちの被害

増田 「周りから見たらフラフラしているように見えるかも知れないけれど、私たちは一生懸命生きている」―。本のなかのこの言葉はものすごく心に刺さりました。

仁藤 私たちColaboがかかわる子は、家出をして性売買にかかわっていたりもします。それは性搾取の被害で、福祉が機能していない結果であり、大人の責任です。でも、社会は「非行」として子どものせいにしてきました。みんな福祉や教育、医療からこぼれ落ちて、路上に出てきて性被害に遭います。助かりたいとも思わないほど諦め、大人に絶望しています。
 だから私たちはアウトリーチが必要だと考え、その子たちがいる場所に出向きます。ピンクのバスを新宿や渋谷の街に出して「10代女性限定の無料のカフェだよ」と。「支援臭」を消し、自由に気軽に来られる女の子たち自身の場所になるよう工夫もしています。

増田 埼玉協同病院の産婦人科にも、10代ではからずも妊娠して、産んでも育てられないという人が来ます。どういう支援ができるか、一生懸命考えています。小児科はチームで虐待を早めにチェックしようとしています。ただ、実態を正確につかむのは難しいと感じています。

仁藤 妊娠8カ月で久しぶりにバスカフェに来て、放心状態で「今日初めて病院行ってきた。堕ろしたい」という子もいました。赤ちゃんを埋めてしまった事件も聞くけれど、そうなるギリギリで気づけたということが日々あります。

増田 仁藤さん自身が「難民高校生だった」と、2013年に本を出した後も、少女たちの実態は変わっていないのでしょうか?

仁藤 深刻になっています。私が子どものころは、同世代と路上で群れながら変なおじさんから身を守り生き延びていました。でも、いまは群れさせてくれない。警察が補導して、安全じゃない家に帰され、また家出して「誰かに泊めてもらわなきゃ」「ホテルに入んなきゃ」と、より被害が見えにくくなっています。新宿や渋谷には毎晩100人以上の性売買あっせん業者がいるし、買春者が集まるスポットもあります。さらにいまは全国どこでも、SNSで…。

増田 居場所のない子たちに簡単につながれちゃうわけですね。

仁藤 街でもネットでも、そういう子につながろうとするのは、性搾取目的の人しかいません。

見えていないことがあるはず

増田 民医連も病院にかかれない人にどうやってつながっていのちを守れるか、全国で奮闘しています。Colaboと医療機関はどのようにつながっていけるでしょう?

仁藤 Colaboでは「アフターピル(緊急避妊薬)の相談のれます」など具体的支援策を発信することで必要な時に連絡が入り、背景にかかわりながら、その子に合う病院を、連携病院の中から紹介しています。そういう顔が見える病院はもっとほしい。同じ思いで医療・福祉の現場で働く人と、どんどん知り合いたいです。

増田 民医連は全国に事業所があるので、何かできるはずです。無料低額診療事業を行っていて、保険証がない人、持っていても窓口負担を払えない人など、困難を抱えた人にも多く対応しています。
 多職種で若い人も多い医療・介護の現場の職員に、意識してほしいことはありますか?

仁藤 Colaboの子たちにとっては高校を卒業しているだけでエリート、医療機関のみなさんはおそらく、ちがう世界を生きる大人です。上から目線の支援に拒絶感を示す子は多い。「見えてないことがあるんじゃないか?」といろんな活動現場に出かけてください。具体的な選択肢を複数示しリスクの乗り越え方もいっしょに考えられる、ソーシャルワークのできる医療関係者が増えてほしいです。

Colaboの関係性を求め

仁藤 コロナ禍でColaboへの相談は増えました。2019年度の590人から20年度は約1500人、今年はもっと増えています。

増田 仁藤さんの活動が有名になって相談が増えている面もあると思いますが、やはりコロナの影響はかなりあるんですか?

仁藤 増えた1000人は自分から助けを求めてきた、相談する力のある子です。これまでColaboがつながろうとしてきた子とは階層がちがう。コロナで困窮する大学生にも業者は接近するから、被害に遭う層がひろがっています。当事者団体であるColaboの対等な関係性、当事者目線で積み上げてきたものが、より良い支援として選ばれている側面もあります。

増田 民医連がつながっている困窮者支援、外国人医療支援の人たちもみんな「一生懸命やるほど、直接支援を求めてくる人が増える」と言います。でも本来、社会保障や人権保障は国の責任です。それが憲法の理念です。
 仁藤さんは、大人に対して「個人として向き合ってほしい」と書いていますね。心を開いてもらう接し方を、もっと学ぶべきだとつくづく思います。個人の尊厳を尊重して向き合うことは簡単なことではありませんね。

仁藤 いまの日本社会では自分も尊重されてないから余計に、ですよね。女の子たちも支配と暴力のなかで生きているから、支配しようとしてきたり、暴力的になってしまうこともある。私たちは互いを尊重し合える関係をつくりたいと向き合います。
 スタッフ間でも、例えば男性スタッフがキャベツを切っていて、40代の女性スタッフが「すごいね」と言えば、私はすぐその場で「それはColaboがつくりたい関係性じゃないですよね」と指摘します。男性がいかにケアされるのが当たり前のなかで生きているか知ってほしいから。Colaboでは逆に私がバリバリ前に出て、男性が後ろで「俺がささえている」とも思わず自然にしている姿から、男性による支配以外の関係性もあることを女の子たちに感じてもらえたらいいな、と思います。

増田 すばらしい。「そういう関係性が良い」と思ってもらいたいということですね。

仁藤 そうです。女の子たちと対等になりきれない部分もあるけれど、それも大人が自覚した上でどうかかわるか。政治にも通じますが、権力を持つ側がその意味をちゃんと理解して、だれのために使うか、ですよね。

増田 人権感覚が研ぎ澄まされると、自分を省みたり、いまの日本では苦しく感じることもありますよね。

仁藤 でもみんながそうなれば、お互いを尊重できる社会はつくれます。私は活動の中で、同じ経験はしてないけど、同じ思いでともに考えたいという大人がいる! と知りました。そう思えないから女の子たちは絶望する。どんな問題もかかわりを通して、自分事になっていくといいなと思います。

身近にこそジェンダー平等

仁藤 支援の現場にも男女格差を感じます。エリートなおじさんがいっぱいいて代表も男性が多い。でも、女性は「本当はやりたいこと」とのはざまで苦しみながら、家庭に閉じ込められています。
 Colaboで活動していたメンバーのなかにも、「バスカフェの活動日は、赤ちゃん見るよ」と言う夫に期待したけれど、なんだかんだ夫は仕事を休めず自分がやるしかないと、泣きながらを辞めていった女性がいます。

増田 民医連にとっても人権やジェンダー平等は、運動の大きな柱です。知らないうちに体に染みついたものを一つひとつ見直す作業が必要です。世の中に対して人権を叫ぶのも大事だけど、自分たちの組織や家庭はどうかですよね。

仁藤 正直、今回の対談も「またおじさんと対談か…」と(笑)。
 でも、こういう組織の代表の男性にこそ、先陣を切ってほしい。おじさんからの呼びかけこそ、ダメなおじさんに響くはずです。

増田 すばらしいメッセージをもらいました。Colaboの関係性は世界の主流になっていますよね。それが日本でも普通になるように力を合わせていきましょう。民医連もいろんなところとつながりながら、日本で暮らす人が幸せになれる社会をつくっていきたい。

仁藤 性売買あっせん業者から妨害もあるので、大きい組織と連帯しているというだけでも心強いです。よろしくお願いします。

増田 こちらこそ!


プロフィール
にとう・ゆめの

 10代女性をささえる一般社団法人Colaboの代表。自身も中学生の頃から街をさまよい、2011年にColaboを設立。著書は『難民高校生 絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』(ちくま文庫)、『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』(光文社新書)。TBS系「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演。

(民医連新聞 第1751号 2022年1月3日)

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