民医連新聞

2003年12月1日

患者さんの生活知って職員は育つ―訪問の日常化めざす 坂総合病院付属成人病クリニック・坂総合病院付属北部診療所(宮城)

「なんで来ないの?」と簡単に電話してたけど、見方が変わりました

 

 「月間」で「地域に出よう」の活動が各地でとりくまれています。坂総合病院・同附属成人病クリニック・同 附属北部診療所(宮城)では、先頭にたった看護部のとりくみに励まされ、「全職員が一回以上、気になる患者訪問を」目標に掲げました。訪問することで深 まった患者の困難や生活への理解が、職員を育て仕事の改善にもつながっています。訪問を日常化させ、病院の活動を地域に知らせようとの試みです。(小林裕 子記者)

 「明日は必ず病院に行きます」。畑野みゆきさん(五〇・仮名)は訪問した三人に約束しました。糖尿病でインシュ リン自己注射の必要な彼女は九月初旬からクリニックの受診を中断。予約を電話で何度も延期する畑野さんが気になり、看護師の伊藤美砂さん、大沢由美子さん と、鈴木留美子看護師長は一一月一七日に訪問しました。

 「二日注射していない」という畑野さんの血糖値は、簡易測定器では「Hi」に。高すぎて測定不能。会話から治療代に困っていることを察した鈴木さんは「相談に乗るから」と言葉をかけました。

 畑野さんの家は車で四〇分もかかる山間地。受診の日はバス、電車を乗り継ぎ一日がかりです。伊藤さんは訪問して見方が変わりました。「なんで来ないの?」と簡単に電話していたけど、「来てくれたんだ」と思えたと。

 鈴木さんは言います。「中断して糖尿病を悪化させてしまう患者さんは、家族の無理解、仕事、経済的な負担などで困難を抱えています。外来では聞けないことも、訪問するとわかってきます。スタッフの視点が少しずつ変化してきました」。

 一〇月に訪問した別の糖尿病患者は、電灯もつけない暗い家に、高血糖でふらふらの状態で。すぐ病院に運び、治療と生活上の相談につなげました。

「患者訪問に行きたい」

 「気になる患者訪問」は従来は断続的でした。今回は「全職員で継続的に」が目標。看護部は、勤務に組み込んで計画的にすすめています。

 回復期リハ病棟(三〇床)では、一六人のスタッフすべてが訪問しました。看護師長の提案にスタッフは「行きたい。自分たちの仕事の結果を見たい」と答えました。退院後、介護保険をどう利用しているか、も聞いてくることになりました。

 介護福祉士・坂本謙一さん(24)が訪問したのは、入院中に担当していた胃ろう・気管切開の患者さんでした。 「二~三時間しか起きていられなかった人が、一日中しっかり起きていました。生きいきして、生活能力が伸びていた」。家族の「胃ろうがどうなっているの か、入院中に見たかった。ショートスティの空きがなく困っている」という声も聞いてきました。

 佐藤良子看護師長は、訪問の結果から、「患者さんは服を着る・食べる・排泄する、この三つができれば、自尊心を 保ち上手に暮らせるのです。そしてデイサービスをよく使っていることがわかりました」と説明します。患者さんはデイを通じて社会とつながり、家族はデイを 頼りになんとか働き続けていました。

 そこで佐藤さんは職場会議に、「退院前に三つの能力を重視して訓練しよう、デイの紹介を従来の見学・試し参加よりもっと具体的にしよう」と提起。スタッフはチームをつくって検討することになりました。

気づきが職員を育てる

 「患者さんはこうやって生きているんだ。食事一つとってもガマンの連続なんだ」(呼吸器病棟)、「こんな一言が 辛かったとは。家族への気配りを考えなくては」(整形・内科の混合病棟)「胃ガン末期の患者さんに食欲が出ていた。とても喜んでくれた」(消化器病棟)な ど、各病棟の経験が集まっています。

 斎藤弘子副看護部長は「訪問の経験は患者の気持ちにそって、先を見て仕事をするのに、生きます。後の看護にも生かせます。話を聞き、悩みを受け止め、気づくことが職員を育てます」と断言します。

「訪問」を日常活動に

 今回のとりくみを前に、合同の社保・共同組織強化推進会議が開かれ、課題を確認しました。

 困難を抱えた患者に、どう手を差しのべるか。患者が求める「医療の質の水準」にどう応えるか。そして来年一月着 工予定の新病院建設、地域支援病院をめざす課題をどう推進するか。地域の人たちからは平均在院日数一六・五日、紹介率三八・九%の同院に、「長く入院でき ないの? 気軽に見てもらえないの?」との意見もあります。

 社保・共同組織の課題と医療活動を分離させず、トータルに前進させるには? そこで「気になる患者訪問」を新たな位置づけで展開することに。「地域に出て患者の要求をつかもう。病院の活動をよく伝えよう」。

 推進会議事務局長の佐藤孝一成人病クリニック事務長は「日常の医療活動に社保のとりくみを結びつけたい。患者・地域と密接な関係になることは病院の『生命線』ですから」と言います。期間限定でなく、日常にしよう、という発想です。

 事務でも「未収金を通じて地域を知ろう」と訪問を計画。診療圏二市三町の行政サービス比較リストの作成も準備しています。事務局では、技師など他職にも「自分たちの仕事をみつめて対象を考えてほしい」と提起、全職員参加にむけた働きかけを強めています。

(民医連新聞 第1321号 2003年12月1日)

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