声明・見解

2006年7月14日

【声明2006.07.14】「救急需要対策に関する検討会報告書」、「救急搬送業務における民間活用報告書」の発表を受け、改めて安全・安心の救急医療拡充を求める

2006年7月14日
全日本民主医療機関連合会
会長 肥田 泰

はじめに

 総務省消防庁は「救急需要対策に関する検討会報告書」(以下需要に関する報告書)「救急搬送業務における 民間活用報告書」(以下民間活用報告書)を本年3月に発表した。両報告書は、年々増加する救急需要への対応策を中心に昨年来検討しまとめたものであるが、 本来求められる救急体制の強化・拡充問題にはふれず、逆に需要抑制と効率化さらには有料化も視野に入れた内容であり、救急業務の充実を求める国民の要求と 乖離し、結果、国民生活を不安と混乱に陥れる要素を多く含んでいる。

 われわれは、昨年4月に救急車の有料化や民間委託に反対する声明を発表したが、昨年の声明に加え、以下「需要に関する報告書」のポイントを中心に、両報告書の問題点を指摘し、救命救急医療の拡充を求めるものである。

1、緊急度・重症度の選別(トリアージ)導入等の問題点

 総務省は、救急需要増大の中で「救命率の向上」を図るために、119番受信時や現場到着時に搬送対象者の 緊急度・重症度の選別(トリアージ)の導入を検討しているが、東京消防庁の調査では、病院に運ばれ、医師が重傷と診断した患者の35%は、救急隊員が症状 を中等症や軽傷などと過小評価しているとの結果がでている。また、武蔵野赤十字病院が救急隊に行ったアンケートでは、救急隊員の7割が、傷病者が心筋梗塞 かどうかの判断ができないとの回答がある。救急隊や本人が軽度と判断しても、実際に医師が診断すると重症であることが判明することは医療現場では決して少 なくない。

 本来「トリアージ」は、多数の傷病者が一度に発生する大規模な災害や事故など特殊な状況下において有効な 手法であるが、119番受信時および救急隊員が現場で行うトリアージによる病状把握と搬送は、誤った判断や容態急変への不充分な対応・病院等への搬送の遅 延を招くおそれがあり、患者のいのちを脅かす危険性がある。

 平時の救急要請において、「効率」「搬送抑制」を目的としたトリアージは、救命救急医療にはなじまないものと考える。安易なトリアージ導入の検討でなく、全搬送を基本とした安全・安心の救急システム構築の検討を要請する。

 また、高齢者の救急搬送増加と頻回利用が問題視されているが、搬送された高齢者の多くが中等症以上の状態であることは総務省も認めるところであることから、利用抑制ではなく、医療機関と行政が連携した適正利用の指導強化が求められる。

 今後さらなる高齢化がすすむ中で、救急需要への対応とともに、24時間対応の「見守りネットワーク」や「在宅ケア・システム」など、高齢社会に対応したシステムの整備と、総合的な住民サービスの視点で検討することが必要である。

2、救急「有料化」「民間委託」の問題点

 報告書では、「有料化」について海外の例(*アメリカ・ニューヨーク市で約5万円程度、フランス・サンド ニ県で30分3万4千円(1回パッケージ料金)、ドイツ・ミュンヘン市では基本料金6万7千円など)を参考に検討がすすめられているが、そもそも、全国の 自治体において「有料化」は慎重に検討すべきとの意見が多数出されていることを真摯に受け止めるべきである。

 「民間委託」の問題では、東京都の「民間救急コールセンター事業」で搬送業者を利用した際に、「都内大学 病院から千葉県までの搬送で5万円を請求された」、「結核患者を搬送した際に、搬送費に加え、搬送後の消毒費、及び搬送後稼働不能時間分として計10万円 を請求された」など、多額の費用出費となった問題が報告されている。

 また民間への患者等搬送業務は「救命技能の認定を受けている運転手等が乗務するタクシーを速やかに配車で きること」等が条件となっているが、救急技能の認定を受けるには、心肺蘇生法や自動体外式除細動器(AED)の使用法を学ぶのみ、時間にすればわずか3時 間の講習となっている。

 充分な知識と経験を持った救急隊員でさえ、傷病に対する正確な判断を行えないとしているにもかかわらず、僅かな時間の講習を行った者に傷病者の搬送を委託するのは危険である。

 「有料化」「民間委託化」は患者・国民の受療権の侵害につながり、救急需要増加の調整策として導入することが適策でないと考える。

3、病院救急車の活用の問題点

 両「報告書」では、病院救急車の活用について述べているが、活用がすすまない背景には、病院救急車での搬 送業務に発生する費用が病院の負担になっていることが挙げられる。病院間の転院搬送業務において使用した救急車の費用について診療報酬上で位置づけ補償す るなどの対応が必要と考える。

 また、病院救急車運用モデルとして、運転業務を民間事業者に委託し、係った費用を複数の病院で負担するとしているが、民間委託をすすめている東京都で、安全性及び費用負担問題などで様々な問題と混乱が発生している現状を真摯に受けとめ、慎重に検討すべきである。

おわりに

 119番通報をすれば無料で救急車が短時間に駆けつける現在の消防救急制度は、世界に誇るべき制度で日本の救命救急医療に不可欠の制度である。

 しかし一方で、現在多くの救急隊員が、十分な休憩時間を確保することができず、過重労働を重ね、心身共に疲弊し限界の域に達している状況もある。

 救急隊不足に対する充分な施策を早急におこない、供給体制の拡充をはかるべきであり、財政事情等を理由に した「有料化」及び「民間委託化」、効率化を目的としたトリアージ導入などは、救命救急医療に対する国民要求と相容れないものである。地方自治体への財政 支援を強化し、「無償方式」の堅持と、公的責任による救急体制整備・強化をおこない、国の責任で安全・安心の救急医療の拡充をはかることを求めるものであ る。

以 上

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