いつでも元気

2022年4月28日

まちのチカラ 
奄美の大自然と伝統をつむぐまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

町東端の赤尾木集落の海岸。干潮の時だけ姿を現す「ハートロック」は人気スポット

 鹿児島市から南西へ約380km。
 奄美大島の北部に位置する龍郷町は、海洋亜熱帯気候の森に囲まれ奄美固有の動植物の宝庫。
 世界三大織物の一つ「大島紬」のまちとして発展し、島の郷土料理「鶏飯」や伝統行事「秋名アラセツ行事」など独自の文化も魅力です。
 この島にしかない宝、自然と文化を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 成田空港から飛行機で約2時間半。奄美空港に到着すると南の島らしい日差しと潮風が迎えてくれました。早くも南国の明るい気分に。
 奄美大島は鹿児島市と沖縄本島のほぼ中間に位置し、周囲は約460km。島の面積のほとんどを占める山間部には、アマミノクロウサギやアマミイシカワガエルなど、固有種や絶滅危惧種が多くすんでいます。昨年7月には世界自然遺産に登録されました。
 まずは空港から車で約40分、町の自然公園奄美自然観察の森を訪ねました。園内には遊歩道が整備され、植物や野鳥、昆虫などを観察しながら気軽に散策できます。バードウオッチングの聖地として知られ、「ツピーツピー」「チュリリリリ」などと可愛らしい野鳥の鳴き声が森に響きます。
 「森を見渡すと椎の木がたくさんありますね。椎の木は野鳥や動植物に衣食住を提供する、奄美の自然を作る根源となっているんですよ」と、指導員の納明朗さんが解説してくれました。
 奄美の森の7割から8割を占める椎の木は、ルリカケスをはじめとする野鳥や、シダ植物の一種シマオオタニワタリなどのすみかとなり、椎の実は森に集まる動物や野鳥の餌となるそう。都会では体験できない近さで、島の貴重な生態系を感じることができます。

泥で染める大島紬

 龍郷町といえば、世界三大織物の一つに数えられる大島紬の地。大島紬の伝統的な銘柄である「龍郷柄」と「秋名バラ」は同町が発祥で、自然の草花などがモチーフとなっています。
 約1300年の歴史を誇る伝統工芸品を見ようと、町東部の施設大島紬村に向かいました。約1万5000坪の敷地内では大島紬の全製造工程を見学できるほか、泥染め体験もできます。
 製造の要は、世界で唯一の染色方法「泥染め」にあります。島に自生する低木シャリンバイ(車輪梅)の幹から2日間かけて煮出した汁を、絹糸に20?30回染み込ませる「テーチ木染め」の後、泥染めの工程へ。泥染めは粒子が細かくぬめっとした肌触りが特徴の粘土質の田んぼの中で行われます。
 「泥の鉄分とシャリンバイのタンニン酸が化学反応を起こして美しく光る黒へと変化するんですよ。出来上がりを見るのが楽しみです」と、泥染め職人歴35年の平勝也さん。茶褐色に染まった糸を泥の中に漬け込み、やさしく全体に馴染むように染めます。
 島の自然が育んだ泥田で丁寧に手をかけて生まれる大島紬。最高峰の絹織物とされるゆえんと、その奥深さを感じることができました。

おっかんの鶏飯

 シマジュウリ(=島の家庭料理)を味わえるお店を島のお母さんたちが運営していると聞き、町北部の荒波地区にあるあらば食堂へ。「うがみんしょうらん(=こんにちは)」と奄美の方言を交えた元気な声で案内してくれる食堂では、島の食文化を伝えています。
 「奄美大島の出身者が昔お家で食べていたような、はげぇ(=すごく)懐かしいと感じる島料理をお客さんにも味わってほしい」と明るく語るのは、森吉喜美恵さん。
 メニューは地場産の食材を生かした「おっかんの旬替わり定食」や「おっかんの鶏飯」など、女性たちが受け継いできた家庭によって少しずつ変わる味付けを大切にしています。
 鶏飯は奄美大島を代表する郷土料理。ご飯に鶏むね肉、錦糸卵、しいたけ、パパイヤなどの具材をのせ、熱々の鶏ガラスープをかけて食べます。黄金色に輝くスープと混ざり合った彩り豊かな地場食材をすすると、口の中でうまみと優しさが広がり笑みが溢れます。
滋味深い鶏飯と島のお母さんたちの人柄に、胃も心も満たされることでしょう。

神秘と豊穣 アラセツ行事

 最後に紹介するのは町に残る伝統行事。約450年以上前から行われている秋名アラセツ行事は、町の北部にある秋名集落と幾里集落で収穫に感謝し五穀豊穣を祈る儀礼で、1985年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
 アラセツ(新節)、すなわち旧暦8月最初の丙の日(新暦の8~9月)に、明け方のショチョガマ祭りから始まります。稲田を見下ろす丘に築いたわらぶき屋根に100~120人の男たちが乗り、「ヨラッ、メラッ」の掛け声と太鼓の音と共にこれを揺さぶり倒す迫力満点の儀式。「高倉が潰れるほどの豊作」を願って行われます。
 もうひとつは夕刻の平瀬マンカイ。海辺に突き出た神平瀬、女童平瀬と呼ばれる2つの神聖な岩の上が舞台。ノロ(神女)役が神平瀬に、グージ(宮司)役などが女童平瀬にそれぞれ上り、海の彼方(ネリヤ)の神々へ祈りを捧げま
す。岩の上での唄の掛け合いや太鼓、浜での八月踊りなど、奄美大島特有の唄や踊りの文化がうかがえます。
 町には希少な大自然や、長く深く島人の中につむがれてきた歴史と文化があります。それは現代社会で失われつつある、島の誇るべき“豊かさ”なのかもしれません。

■次回は特別編。第15回全日本民医連共同組織活動交流集会が行われる山梨県を紹介します。

まちのデータ

人口
6042人(2月末現在)
おすすめの特産品
大島紬、黒糖焼酎、鶏飯
ドラゴンフルーツ
アクセス
飛行機で羽田空港または成田空港から奄美空港まで約2時間半、空港から車で約20分
問い合わせ先 
龍郷町役場 企画観光課
0997-69-4512

いつでも元気 2022.5 No.366

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