民医連新聞

2022年5月6日

寄稿 9条の大切さを伝える好機 ワクワクしながら平和な社会をつくろう

力の論理はすでに破たん

 ロシアがウクライナを侵略してから街角で「憲法9条を守ろう」と呼びかけると、通行人から「9条で国が守れるか!」と罵倒されて黙ってしまった…という声を聞きます。ひるんでいる場合ではありません。むしろ憲法9条の大切さを知らせる好機です。今こそ9条の出番です。
 考えてみてください。ウクライナは9条を持っていません。軍隊を持っていても侵略されたのです。「軍隊で国が守れるか!」と言うならわかりますが、「9条で…」というのはお門違いでしょう。
 そう指摘すると「だから大規模な軍隊を持たなきゃダメなんだ」と言われます。では、どこまで大規模にすれば気が済むでしょうか? 「相手と対抗できるくらい」という答えが返ってきます。相手と同等の軍備を持てば敵は攻撃を控える、という考え方を抑止論と言います。
 ならば日本は対中国で、中国と同程度の軍事力を持たなくては安心できないことになります。しかし、中国の軍事予算は27兆円規模で、すでに日本の防衛予算の5倍です。そのうえ習近平政権は米国に追いつくと言います。
 米国の2023年度の軍事費は101兆円です。中国がそこまで軍拡するなら、日本もそうしますか? 日本の年間予算がちょうど100兆円規模です。予算のすべてを防衛予算に使いますか? そんなことはありえないでしょう。
 そう、日本を取り巻く状況で、抑止論はすでに破たんしているのです。
 もう一つ。軍隊はかならず敵を想定します。「国を守る」と発想すれば、国境の向こうは敵であり、敵ならば殺していいと考える。すると相手だって同じように考えますよ。国籍や民族の違いを理由に、いつか衝突しかねません。いったん衝突すると、今回のウクライナのように大勢の人が亡くなり、私たちの街はがれきの山となります。それでいいのですか?

守るべきものは人間性

 だから、問いたい。私たちは何を守るべきなのでしょうか?
 私たちが守るべきは、人間性です。自分たちも、国境の向こう側の人びとも、安心して生活したいことに変わりはありません。お互いを敵視するのでなく、お互いが信頼してだれもが安心して生きていけるようにしよう。それが憲法9条の考え方です。
 そのために日本が率先して憲法で戦力の不保持を明記し、平和国家の見本を示しました。世界のすべての国が軍隊をなくせば戦争しようにもできない、という人類史始まって以来初の国家哲学を76年前に打ち出したのです。残念ながらその精神が政府によって踏みにじられてきました。しかし、憲法は今も生きています。改憲させないことが必要です。
 いま、世界中の人が「戦争反対」と声を上げています。ウクライナの惨状を見た世界の人びとが「命こそ宝」と訴え、憲法9条の精神を支持しているのです。今こそ9条を世界に知ってもらい、ひろげるチャンスです。
 足りないことがあるとすれば努力です。憲法第9条の1項に「日本国民は…国際平和を誠実に希求し」とあります。私たちは国際平和に向けて「誠実に」努力してきたでしょうか? 憲法で戦力を放棄した国に対しては、国連や世界の大国が安全を完全に保障するという、明文化された国際的な制度が必要です。それがないから9条だけで大丈夫かと疑心暗鬼になるのです。
 だから日本政府がなすべきは、軍拡とは真逆です。平和憲法国家になった方が安心できる国際的な環境を整え、それによって平和国家を増やすことです。

私たちにできることは

 国内で私たちができることは、憲法9条の大切さを訴えることです。4月に私は『非戦の誓い~「憲法9条の記念碑」を歩く』(あけび書房)を著しました。12年かけて全国23の憲法9条の記念碑を見て回った記録です。9条を目に見える形にしてみんなに知ってもらおうと、沖縄から北海道までの市民が9条の碑を建てたのです。
 たとえば民医連の病院の入口に9条の碑を建ててはいかがでしょうか。デザインはそれぞれの地方の風土に沿った特色を出し、子どもたちから公募してもいい。石碑でなくてもポスターの形でもいいのです。すでに山梨県北杜(ほくと)市の金野奉晴さんがポスターの原案をつくってひろめています。運動は楽しくやりましょう。ワクワクしながら平和な社会をつくっていく作業をすすめれば、病も去っていきそうです。


国際ジャーナリスト 伊藤 千尋さん
 朝日新聞記者として40年間、国際報道に携わった。退職後も取材、執筆、講演などに積極的にとりくむ。『非戦の誓い』(あけび書房)ほか、著書多数

(民医連新聞 第1759号 2022年5月2日)

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