民医連新聞

2022年5月24日

フォーカス 私たちの実践 秋田版MLPを構築 司法アクセス高め 患者の権利擁護へ 法テラスと医療機関の連携 協働秋田・中通総合病院

 医療機関には、さまざまな社会的問題を抱えた人が来院します。特に多重債務や離婚、DVや虐待対応で法的な知識や支援の必要が生じる事例も多く、SWだけでは解決が難しいこともあります。秋田・中通総合病院は、患者の権利擁護のための体制を強化しようと、全国に先駆け「法テラス(※1)」と連携協定を締結。第15回学術・運動交流集会で塩谷行浩さん(SW)が報告しました。

 SWは、病院の中で治療以外の諸問題をカバーする職種です。心理的、社会的な支援を行い、多岐にわたる生活上の問題にダイナミックにアプローチします。支援においてはあらゆる社会資源を活用し、既存の社会資源で対応できない問題は行政に対して政策提言を行い(ソーシャルアクション)、新たな社会資源を自ら開発して、患者の権利擁護に努めています。
 法的な問題を抱える事例では法律家との連携が重要です。
 しかし、そうした連携は個々のSWの実践でつくられるつながりが頼り。顧問弁護士でも報酬の発生や条件が気になり、法律相談はハードルが高いのが実態でした。

■権利擁護へ思いは合致

 そんななか、日本司法支援センター(通称‥法テラス)の無料の「情報提供」業務を利用して、直接解決につながった事例、法的根拠として活用し間接的に役立った事例、さらに深い法律相談や介入が必要と判断され、「民事法律扶助」業務(※2)につながった事例が。連携の価値を認識し、連携強化の必要性を実感しました。
 他方、連携した弁護士側からも「法律相談を活用してほしいが、なかなかハードルが高い、司法ソーシャルワークを推進したい。もっと気軽に相談して」との声が。
 患者・依頼人の権利擁護という目的は共通しており、うまく連携できればWin―Winの関係を構築できる、連携強化をはかりたい、との意向が合致しました。

■連携を 「形」 に

 医療機関と法律家との連携は、メディカル・リーガル・パートナーシップ(以下、MLP)として1993年、米ボストン市立病院にて創設され、低所得の小児科患者の親や家族を支援するために開始されました。背景に医学的な介入だけでは患者を救いきれない現実、SDH(健康の社会的決定要因)の視点がありました。
 ただ、アメリカ同様のMLPは困難でした。職員として雇用される病院内弁護士の場合、立場や報酬面などの問題が生じます。
 そこで、秋田版MLP構築へ、できるだけ速やかに連携を「形」に、と模索。先行事例の集積や研修、企画立案、協議を経て2020年3月、法テラス秋田法律事務所と連携協定を締結しました。
 秋田版MLPの特徴は3点。(1)既存の資源を活用し、法テラスの「情報提供」業務を円滑に活用できるようにしました。新たな報酬は発生しません。また、(2)協定には「自立支援」「医療機関は社会的問題が顕在化しやすい場所であることの認識」「社会資源としての質の向上」と、ソーシャルワーク的視点のキーワードを組み入れました。(3)医療機関と法テラス間の協定としては先進例です。法テラスとの連携協定の先行事例は、福祉事務所や地域包括支援センターにはありますが、医療機関では見つかりませんでした。

■体制整備でハードル下がり

 協定締結後、法律相談への心理的ハードルはぐっと下がり、困難事例も解決につながりやすくなりました。多職種協働による問題解決の促進、リスクマネジメント、未収金の防止、在院日数の短縮にもつながると考えられます。公の協定にもとづく連携協働体制を整備したことで、新人SWでも相談ができ、個人情報の提供に関する患者の同意など、曖昧になりがちな問題にも根拠をもって臨めます。個々のSWが実践している連携、日常業務の成果を「形」にすることの大切さも実感しました。
 弁護士側も相談者が増え、社会的役割を果たすことができ、医療側に情報提供を求めることもあります。通常2~3年で入れ替わる法テラスの弁護士とも、良好な関係を構築。若手弁護士が多く、「医療機関は社会的問題が顕在化しやすい場所」であることを、意識高く感じとってくれます。
 すべては患者の利益のために。連携協定による支援で、患者の権利擁護につながっています。

* * *

 当院は法テラス秋田法律事務所から徒歩圏内にあり、好条件にも恵まれましたが、他県でも同様の連携は可能だと考えます。SWの解決能力を高めながら、機関内外のネットワークにより問題解決を促進することが重要です。その点、法テラスとの連携協定は有用でした。ソーシャルアクションで県弁護士会に協力を依頼するなど、別の形でも連携が深まっています。司法との連携の価値をあらためて確認し、連携の幅をひろげていきたいと考えています。

(※1)全国どこでも法的トラブル解決に必要な情報やサービスの提供を受けられるよう、総合法律支援法にもとづき2006年に設立された法務省所管の公的な法人
(※2)経済的余裕のない人に無料で法律相談を行い、必要な場合、弁護士・司法書士費用などの立替えを行う

(民医連新聞 第1760号 2022年5月23日)

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