民医連新聞

2022年5月24日

相談室日誌 連載518 気兼ねなく受診できる医療 経済的事由での困難事例(新潟)

 60代前半のAさんは、体動困難で救急搬送され入院しました。数カ月前から体調不良がありましたが、入院するまで受診はしていませんでした。
 数年前に親が亡くなってからは独居。退職し、年金で生活していましたが借金もありました。親の収入があった頃は借金を返済しながらも生活ができていましたが、その後は経済的に苦しい状況となりました。
 国民健康保険料の未納もあり、短期被保険者証を所持していました。医療費が高額になることを心配して受診や救急要請をためらっていましたが、ついに限界になりました。普段はかかわりのない知人に電話で相談し、説得されて救急要請となりました。
 元々は社交的な性格で友人との交流もありましたが、体調が悪くなってからは友人の訪問を断っていました。親族はいますが、長年かかわりはなく、普段のAさんの様子がわかる人は誰もいませんでした。
 体調が悪化してからは家事もできなくなり、自宅内は床に物が散乱している状態でした。入院の数日前からは食事が取れず動けなくなり、入院時には褥瘡もできていました。
 入院後の精密検査で悪性腫瘍が見つかりましたが、すでに予後1カ月程度の状態で、その後2週間ほどで亡くなりました。
 Aさんは「借金返済で手元にお金が残らず、入院費を払えるかどうかが心配」「借金のことは今まで誰にも相談をしてこなかった。どうにか借金を解消したいと思うけれど、どうにもならない。絶望です」と語っていました。
 Aさんのように、親の死などの家族状況の変化を境に、生活が立ち行かなくなってしまうケースは多々あります。また、Aさんの場合は最期に医療につながることができましたが、体調が悪くてもどこにも受診ができないまま、いわゆる「孤独死」として亡くなる人もいるでしょう。Aさんもここまで病状が悪化する前に受診ができていれば、状況は変わっていたかもしれません。
 経済的な理由で受診や相談を躊躇してしまう人が、地域で埋もれないためにはどうしたらよいのか、考えさせられるケースでした。

(民医連新聞 第1760号 2022年5月23日)

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