民医連新聞

2022年6月7日

いのちとケアが大切にされる社会へ③ 『歯科酷書』第4弾 深刻さを増す 格差と貧困の実態を告発

 全日本民医連歯科部は、『歯科酷書』の第4弾を発表しました。「口腔崩壊は自己責任ですか? コロナ禍での、つながる、つなげる、人権としての歯科医療」と題して、実態をひろく発信し、いっそうの医科・歯科・介護連携で口腔保健を改善していくことを訴えています。(丸山いぶき記者)

 2009年発表の第1弾以降、『歯科酷書』は口から見える格差と貧困の実態を、衝撃的な「口腔崩壊」の事例を通して告発してきました。2018年(第3弾)以来となる今回は、民医連加盟歯科事業所より報告された47事例から、19事例をまとめました。

社会的困難はまず口に現れる

 歯科部は2020年4月~21年4月まで、2カ月に1回(計7回)、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う歯科影響調査」を実施しました。第4弾に報告された事例の多くは、同調査に社会的困難事例(のべ160事例)として報告されたものです。
 目立つのは若年層の事例です(図1)。編集にあたった榊原啓太さん(山梨・共立歯科センター・歯科医師)は「社会的困難は、若いうちから、まず口に現れ、働き盛り以降に手遅れ死亡事例につながってしまうのかもしれない。医科・介護の現場でも、口のなかへの気づきのアンテナをより高めてほしい」と訴えます。
 コロナ禍での解雇や失業、雇い止めで職を失った人、仕事が減り経済的な苦難を抱える人、コロナ以前から困窮していた事例も38%ありました(図2)。
 第4弾で報告された事例から、2事例を紹介します。

事例1 子どもへ貧困が連鎖

 40代の母親と10代の娘。祖母らと2世帯、5人暮らし。母親のアルバイトで生計を立てていたが収入が安定せず、家賃も滞納。娘は不登校気味。保険種別は国保。
 院内の地域連携室から歯科につながり、スクールソーシャルワーカーとも連携することで、継続受診できている。無料低額診療事業(以下、無低診)で治療。母親の主訴は「10年以上歯科を受診しておらず、歯を治して定職に就きたい」。娘は「前歯が黒くなっているので治したい」。母親は重度の虫歯が多数あり、根だけになった歯が11本、歯周病も進行。娘は前歯に重度の虫歯、歯肉炎も進行し、歯周炎一歩手前だった。

事例2 つながるも治療中断

 30代男性。建設関係で働いていたが、1年前にコロナの影響で会社が倒産。その後、就職できていない。無保険、独居。
 社会福祉協議会の総合支援金・緊急小口資金の借り入れ150万円で生活。退職前から国保の保険料を滞納しており、市役所で「滞納額が大きいため、国民健康保険短期被保険者証は発行できない」と断られたが、無低診の話を聞き、受診につながった。
 歯科から市役所へ口腔内の状況を伝え、3カ月の短期被保険者証を取得できたが、それ以降本人と連絡不通になり、治療中断。歯の神経まで進行した虫歯が20本あった。

歯科医療は人権

“食”の総合的な支援を

 事例に対応した事業所の多くは、無低診を活用し、国民健康保険法44条による一部負担金減免の対応や、保険証発行の援助なども行いました。
 ただ、追跡調査の結果、47事例中21事例(44%)が治療中断に。継続治療が難しい理由について榊原さんは、高額な歯科治療費、窓口負担の問題を指摘します。
 45期運動方針は「地域の“食”を総合的に支援しよう」と掲げています。「生きる上では口から食べることが重要。食べられる口をつくろうとすると、かならず歯科治療、口腔ケアの壁に直面する。民医連として、人権としての歯科医療をすすめるために、『歯科酷書』を多くの人の目に触れるように活用してほしい」と榊原さん。

* * *

 歯科部は全職員へ「『歯科酷書』を学習し、患者を診る視点(SDHの視点)や患者になれない人たちのことを考え、連携・協働で運動をすすめること」「参議院選挙の要求実現運動にも活用すること」などを呼びかけています。

(民医連新聞 第1761号 2022年6月6日)

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