民医連新聞

2022年6月21日

にじのかけはし 第6回 健康の社会的決定要因から考えるLGBT 文:吉田絵理子

 健康の社会的決定要因(SDH)という言葉を聞いたことはありますか? これまで多くの研究から、学歴、所得、ジェンダー、国籍といった社会的な要因が、健康状態に影響することがわかっています。その結果として、集団において健康格差が生じており、このような社会的要因をSDHと呼びます。
 さて、前回は異性愛主義や男女二元論についてお伝えしました。日常のなかにこういった暗黙の前提があることで、LGBTの人びとはマイノリティー・ストレスとも呼ばれる、特有の慢性的なストレスにさらされることがあります。また、いじめ被害の経験が多かったり、トランスジェンダーの人は就職の際に性自認に関する困難があるなど、セクシュアリティーは社会生活にも影響をおよぼしています。
 さらに、LGBTの人びとはシスジェンダーかつ異性愛の人びとに比べ、さまざまな健康のリスクにさらされています。例えば、不安障害・自傷行為・うつ病・希死念慮といったメンタルヘルスのリスクや、タバコ・酒の使用のリスクが高いことが、複数の研究で報告されています。日本では、LGBTの人びとのうち約4割の人がメンタルの症状で受診したことがある(日高庸晴、2022)、性同一性障害との診断で受診した人のうち生涯で死にたいと思ったことがあったのは72%(Terada S, et al. 2011)といった報告があります。私個人の体験としても、LGBTコミュニティーの中で自殺した人の話を聞くことは少なくありません。
 また、男性と性交渉する男性はHIV感染のリスクが高いことがわかっていますが、性教育で同性同士のセーファーセックスについて学ぶ機会が限られていたり、医療機関で性交渉歴を聞かれる際にも異性愛が前提となっていて、同性との性交渉について伝えにくいといった課題もあります。
 こういった現状から、セクシュアル・マイノリティーであることはSDHの1つと言わざるを得えず、医師として、また当事者として、このような状況を改善したいと強く感じています。
 次回は、LGBTの人びとが医療機関に受診した際に生じうる困りごとについて紹介します。


よしだえりこ:神奈川・川崎協同病院の医師。1979年生まれ。LGBTの当事者として、医療・福祉の現場で啓発活動をしている。

(民医連新聞 第1762号 2022年6月20日)

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