いつでも元気

2022年6月30日

まちのチカラ 
マリンライフと棚田の輝き

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

富士山をバックに相模湾を周遊するヨット(株式会社葉山マリーナー提供)

富士山をバックに相模湾を周遊するヨット(株式会社葉山マリーナー提供)

 神奈川県の三浦半島にある葉山町。
 美しい相模湾の向こうに富士山を眺めることができ、風光明媚で温暖な気候から別荘地として人気があります。
 マリンスポーツをはじめ、鮮度が命の生しらす、森戸の夕照などの絶景、海だけでなく里山の魅力も巡りました。

感染対策をしたうえで取材しています

 東京から直線距離で約50km、車を約1時間半走らせて葉山町に到着しました。相模湾に面した南北4kmの海岸線は砂浜と岩礁の美しい景観が続き、海の向こうには富士山や箱根・江ノ島が見えます。海辺の別荘地として人気が高く、海岸沿いには格式高い別荘が建ち並んでいます。天皇や皇族が静養に訪れる御用邸があることでも知られています。
 リゾート気分を味わおうと、まず向かったのはマリンスポーツのメッカ葉山マリーナです。「これだけの数のヨットやボートを見ることができて、非日常を味わえる場所は他にはないですよ」と案内してくれたのは、葉山マリーナ企画営業部の高橋隆宏さん。
 ヨット・ボートヤードにはディンギー(船室のない小型ヨット)から大型クルーザーまで約250隻を収容でき、数多くのクラブレースも開催。誰でも気軽に楽しめる「江ノ島・裕次郎灯台周遊クルージング」も運行されており、約45分間の海上散歩が体験できます。
 定員50人の豪華モータークルーザーに乗り込み、昭和の大スター石原裕次郎の名がついた裕次郎灯台から湘南のシンボル江ノ島を巡るコースです。日常を忘れ、船出に心が躍るマリンライフをお楽しみください。

漁師の店で絶品しらす

 町唯一の漁港真名瀬漁港から揚がる海の恵みといえば、しらすやさざえ、わかめ、ひじきなど。なかでも古くからしらす漁が盛んです。名物の味を求めて、真名瀬漁港の目の前に店を構える漁師の店勇しげを訪ねました。
 朝、日の出とともに出港するゆうしげ丸は一隻の船で網を曳く一艘曳きで漁を行います。しらす漁は二隻の船で網を曳く二艘曳きが一般的ですが、一艘曳きは1回の水揚げが少ない代わりに、短時間で済むため鮮度が高く、しらすを潰さないのが利点だといいます。
 「生きたまま揚がったしらすは透明で、シルバーのように光り輝くんですよ」と語るのは有限会社ゆうしげ丸専務取締役の矢嶋幸一さん。貴重な生しらすは水揚げがあった日に、捕れた分だけ直営飲食店で提供されます。
 さっそく生しらす丼を注文すると、丼の下の酢飯が見えないほど生しらすが艶やかに盛られています。プリッとした歯触りの良い食感と、口の中に広がる優しい甘みがたまりません。
 しらすの漁期は3月~12月までですが、併設する加工場では独自の製法と冷凍技術によって一年中おいしいしらすを釜揚げします。ぜひ、網元ならではの味をご賞味ください。

棚田を救う甘酒アイス

 海のイメージが強い葉山ですが、豊かな里山も魅力のひとつ。上山口の棚田は湧き水を利用し、葉山牛の牧舎で使うワラから堆肥を作ることが評価され「にほんの里100選」に選ばれました。ここで収穫したお米からこだわりのアイスを製造しているBEAT ICE(ビートアイス)の山口冴希さんを訪ねました。
 2015年、都内から移住した山口さん一家は、上山口地区に棚田を残そうと米作りをするグループにボランティアとして参加。そこで棚田が抱える厳しい現実を体験します。
 棚田は山の斜面にあるため一枚の耕作面積が小さく、大きな農機具を使うことができません。平野の田んぼに比べて多くの人力が必要ですが、後継者不足が深刻。加えて収穫量が少ないため、地元の人でも棚田米をなかなか食べることができません。
 わずかな棚田米を多くの人に食べてもらい、美しい棚田の保全につなげたいと、山口さん夫婦は加工品の開発を始めました。さまざまなアイデアを出し、試行錯誤してたどり着いたのが、お米を発酵させた甘酒を使ったやさしい風味の葉山アイス。アイスの売上の一部が、棚田の保全活動を通じて還元される仕組みをつくりました。
 夫婦の活動は葉山にとどまらず、全国の棚田の課題解決に貢献できると他地域からも声がかかり、各地の棚田米を使った「棚田アイスシリーズ」へと発展しました。「日本の宝である美しい棚田を、アイスを通じて世界に発信できるものにしていきたい」と、山口さん夫婦の夢は膨らみます。

頼朝ゆかり森戸の夕照

 相模湾に夕日が沈むころ、森戸海岸沿いに建つ森戸大明神にはカメラを持った観光客や地元住民が集まります。
 森戸大明神は約850年前に源頼朝によって創建され、相模湾に広がる富士山、箱根、伊豆の山々を一望できる風光明媚な景勝地として将軍家や御家人たちにも愛されてきました。
 神社裏の森戸海岸から拝める夕景は森戸の夕照と呼ばれ、「かながわの景勝50選」に選ばれています。クルーズで見た裕次郎灯台や沖合の赤い鳥居があかね色に包み込まれていく光景はまさに絶景。時を忘れていつまでも眺めていたくなります。
 夏が似合うまち、葉山町。今年はどんな思い出が生まれるのでしょうか。

■次回は福島県北塩原村です。

まちのデータ

人口
3万2786人(5月1日現在)
おすすめの特産品
葉山牛、しらす、わかめ、しょうが
夏みかん
アクセス
東京駅から逗子駅または逗子・葉山駅まで電車で約1時間、車で約1時間半
問い合わせ先
葉山町観光協会 046-876-1111

いつでも元気 2022.7 No.368

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