民医連新聞

2022年7月19日

フォーカス 私たちの実践 押しつけないアプローチでHbA1c値を改善 外来での糖尿病療養指導熊本・水俣協立病院

 糖尿病患者が長年のライフスタイルを変えるのは、容易ではありません。熊本・水俣協立病院の内科外来は、行動科学的なアプローチ法を学び、効果的に行動変容を促しました。第15回学術・運動交流集会で、清永利江子さん(看護師)が報告しました。

 当院には400人超の糖尿病患者が通院しています。治療は、食事・運動・薬物療法。優れた薬やインスリンが次々開発されていますが、食事や運動は自己流となりがちです。そこに外来看護師としてどうかかわるか、長年、療養指導の難しさを痛感してきました。
 多職種からなる当院の慢患グループのひとつ、糖尿病グループでも課題を共有し、外来看護師5人が地域糖尿病療養指導士の資格を取得。しかし、スキルを生かせていない現状もありました。
 そこで、業務改善をはかり、2018年6月より外来診療の待ち時間に療養指導を開始。毎月、検診科と連携してHbA1c8%以上の患者をリストアップし、カレンダーで対象患者の受診日の一覧を作成。月1回しかないアプローチを逃さないよう、対象患者が受診する午前は地域糖尿病療養指導士をフリーにするなど、指導体制を整えました。指導後は統一した指導ができるよう、外来看護師で情報共有をしています。

■LEARNのアプローチ

 【事例】Aさん60代男性、2型糖尿病、妻と2人暮らし。2019年2月よりHbA1c9%台で経過。5月の療養指導時は9・8%へ上昇、倦怠(けんたい)感や多尿あり。
 今回、糖尿病グループで学び、実践している「LEARNのアプローチ」を用いました。5つのステップ()で、押しつけを避け、より効果的に患者の行動変容を促すことができる方法です。
 L(傾聴):最近の生活状況を確認しました。Aさんは、もともと食欲がなく、食事は1日1食、夕食のみの食習慣。間食が毎日あり、食べ出したら止まりません。1日3回と指示されているインスリンは、低血糖を恐れ自己判断で「夕」しか使用していないことも判明。医師から入院を勧められましたが、Aさんは「環境が変わると眠れない体質だから」と拒否しました。
 E(説明):HbA1c値上昇の原因をいっしょに考え、なぜ改善しなければならないか、合併症のリスクもていねいに伝えました。
 A(相違の明確化):に、病識の欠如からくる治療に対するノンコンプライアンス(服薬指導不遵守)をあげました。
 R(提案):Aさんの意思を傾聴・尊重し、外来通院で毎月療養指導を受け、食事・運動・薬物療法の改善をはかる方針に。
 N(交渉):妻も交え「どんなことならできそうか」を聞き、5つの目標を明確化。(1)1日3食摂取、(2)間食は個包装化し食べた量や枚数がわかるように、(3)インスリンは3回指示量を確実に実施、(4)料理は薄味、(5)1カ月がんばって良くならなければ入院。自宅でのサポート体制も整いました。
 1カ月後の受診時、HbA1c8・9%へ。Aさんからは、「先月、看護師さんから話を聞いて、だいぶ生活習慣を改善できた。今日、HbA1c値も少し下がっていてうれしい」と笑顔が。短期間での行動変容の努力を賞賛しました。
 3カ月後にはHbA1c7・1%へ。食事は野菜中心で、間食も減少。継続して行動変容できていることを賞賛。その後も外来で療養指導を続け、現在、HbA1c6%台でコントロールできています。

■気づきを促す

 LEARNのアプローチ法で患者の枠組みをしっかり捉え、安心感を与える提案・交渉ができました。さらに、HbA1c値改善とともに患者から喜びの声が聞かれ、地域糖尿病療養指導士交流会で他院から評価を受け、看護師のモチベーションが向上する相乗作用も。患者のライフスタイルに沿った効果的なアプローチ法を、看護師が熟知した上で、サポートすることが重要であると学びました。
 とりくみを始めて4年、毎月の対象患者は約40人から約20人に減少し、効果が現れています。
 糖尿病グループは療養指導・患者教育のさらなる質向上へ、集団指導・教育入院クリニカルパスを導入、患者向け学習DVDの作成も計画。患者自身が、どう糖尿病と向き合えば良いかに気づけるようなアプローチを続けています。


表 LEARNのアプローチ

Listen(傾聴)
まずは相手の話を聞こう

Explain(説明)
共通語で話そう

Acknowledge(相違の明確化)
感情面に十分共感した上で疑問や問題点を話し合おう

Recommend(提案)
もっとも良いとされる提案を

Negotiate(交渉)
患者が実行可能な目標について話し合おう

(民医連新聞 第1764号 2022年7月18日)

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