未分類

2022年7月25日

第45期第1回評議員会方針(案)

2022年7月16日全日本民医連第45期第5回定例理事会

はじめに

第1章 いのち優先の社会へ 情勢の特徴と私たちの役割
 第1節 転換点にある時代1
  (1)核兵器廃絶・平和をめざす運動の前進
  (2)新自由主義の転換をめざす運動の前進
 第2節 2022年骨太の方針が示したもの~平和といのちに真っ向から対立する社会像
  (1)日本の軍事大国化路線を打ち出す
  (2)格差と貧困はさらに拡大する方向に
  (3)さらなる社会保障の解体へ
  (4)「次の感染症危機に備えるための対応の方向性について」の問題点
 第3節 力を合わせ、いのち優先の社会を
  (1)参議院選挙の結果と展望
  (2)軍事大国化と一体にすすめられようとしている社会保障解体にノー、人権としての社会保障のとりくみを強め、健康権を実現しよう
  (3)いのちの現場から憲法を守り生かし平和を実現しよう

第2章 全国の経験を学び合い、医師・経営分野での前進を
 第1節 医師分野
  (1)500-200-100の目標にこだわり、全職員の力を合わせて、医師の確保と養成を飛躍させよう
  (2)「かかりつけ医制度化」の問題を明らかにし、地域医療を守るための、より良い方向性を展望しよう
  (3)医師の働き方改革へのとりくみを加速させるとともに、医師増員の要求を正面に掲げ、地域から声をあげよう
 第2節 経営分野
  (1)21年度決算の特徴 ~複眼の視点で総合的に評価を~
  (2)22年度予算と中長期の医療・介護構想にもとづく中長期経営計画の確立
  (3)情勢の変化を的確に把握しての地域連携とたたかいの大きな前進を

おわりに

はじめに

 45回総会から半年が過ぎました。民医連は新年度になって多くの新しい仲間を迎え入れ、新型コロナウイルス感染症の第6波が継続するなか、全国の事業所で受療権を守り奮闘してきました。
 私たちは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争と、それに乗じて憲法9条を変えようとする危険な動きに対して、全職員で総会運動方針学習と合わせて、日本国憲法の学習をすすめてきました。そのなかで、「憲法9条と国連憲章の理念にもとづいた対話による外交でこそ、平和がつくられる」という確信と行動がひろがりました。また、45期運動方針に掲げた「人権と公正の視点」で、コロナ禍が続くなかでも「まず診る、援助する、何とかする」立場での、「医療・介護活動の2つの柱」(以下「2つの柱」)の実践、地域連携やアウトリーチのとりくみが旺盛に行われています。
 45期運動方針の基調は、人権を守り公正でいのちとケアが大切にされる社会の実現をめざし、すべての活動場面において、個人の尊厳とジェンダー平等を基本に据え、「2つの柱」を深め、前進をはかることです。そして、活動の重点を、共同組織とともに、①かつてない憲法の危機という認識のもと、平和憲法を守り抜くことを今期最大の課題とし、組織をあげて全力でとりくむこと、②切実さを増す医療・介護のニーズに応え、無差別・平等の医療・介護を一体的、総合的に、人権尊重・共同のいとなみの視点で創造し、それを通じ、健康権の実現と安定的な事業・経営の確立をめざすこと、③市民とともに地域の医療・介護、公衆衛生の体制をいのち優先に転換し、地球環境を守り平和でケア労働者が大切にされる社会の実現をめざすこと、④職員のいのちと健康を守り抜き、改定された職員育成指針にもとづき医師をはじめとした職員の確保と育成をすすめることです。
 総会後の半年間、45期の基調と活動の重点の重要性がますます増しています。
 参議院選挙の結果、憲法を変え、日本を軍事大国へと変質させ、コロナの教訓をくみとることなく新自由主義的な改革を推進し、暮らし、いのちを切りすてる国づくりが、政府によってすすめられようとしています。理事会は、評議員会でこの情勢について、全職員の共通認識をつくることが何より大切であると考えます。
 また、45期運動方針では「第1回、第3回評議員会では、重点を絞っての議案提起、第2回評議員会で1年間の総括と次総会への重点課題の議案提起など、改善をはかります」と決定しました。それをふまえて、評議員会を運営します。
 第1回評議員会では、45期運動方針の全体的なとりくみを前提に、医師、事業経営について議論を深めます。
 第1回評議員会の目的は、①総会以後の情勢について共通認識をつくり、軍事大国化・社会保障切りすてに抗して、いのち優先の社会をめざす展望と民医連の役割を深めること、医師・経営分野を中心に全国的な実践と課題を共有すること、②第45期選挙管理委員の選出、③決算の承認です。

第1章 いのち優先の社会へ 情勢の特徴と私たちの役割

第1節 転換点にある時代

 今、戦争か平和か、新自由主義の継続かいのち優先の社会かの大きな転換点(45期運動方針)にあります。総会後の半年間、市民の声と運動が、平和といのち優先の社会への前進を切りひらいてきました。

(1)核兵器廃絶・平和をめざす運動の前進
 6月21~23日に、ウィーンで開催された第1回核兵器禁止条約締約国会議は、核兵器禁止条約の内容を実現するため、「ウィーン宣言(核兵器のない世界への私たちの誓約)」「ウィーン行動計画」を採択しました(参加:締約国49、NATO加盟国4、世界の非政府組織85、日本の政党参加は日本共産党のみ)。
 「ウィーン宣言」は核戦争の脅威をなくすためには核兵器の全廃以外にないと、核抑止力論の誤りを厳しく指摘。日本などの一部の核兵器をもたない国が核抑止力を擁護し、核兵器の継続的な保有を推奨していることに懸念を示しました。「私たちは、最後の国が条約に参加し、最後の核弾頭が解体・破壊され、地球上から核兵器が完全に廃絶されるまで、休むことはないだろう」と力強く結ばれました。
 こうした国際的な核兵器廃絶の運動の高揚に対して、唯一の戦争被爆国である日本政府は、「禁止条約は保有国と非保有国の対立をいっそう深化させる(岸田首相)」「核兵器を直ちに違法化する禁止条約に参加することは、米国による核抑止の正当性を損ない、国民を危険にさらす」と禁止条約を事実上敵視し、参加しませんでした。こうした対応に、日本政府の「核保有国と非保有国の橋渡しをする」という立場について、「橋渡しの資格はない」などと批判されました。
 締約国会議はロシアが核兵器使用の威嚇をくり返し、他の核兵器保有国も核兵器の強化を唱えるなかでも、核兵器のない世界へ向かう揺るぎない世界の意思を示しました。こうした成果をつくりだしたのは、核兵器の非人道性を訴え続けた日本の被爆者、核実験被害者、被爆3世ら若者たちの声、訴えです。
 ロシアによるウクライナ侵略は、ウクライナの主権を大規模に侵害した国連憲章違反(憲章第2条4項 武力による威嚇又は武力の禁止)の暴挙です。また、核兵器禁止条約が禁止している、核先制使用での威嚇や原発への攻撃、民間人の虐殺など、多くの戦争犯罪も行われており、断じて許されるものではありません。
 解決の鍵は国連憲章にもとづく国際社会の結束にあります。3月2日に国連が緊急特別総会で採択した決議(表1)の全面的な履行こそがその指針です。軍事同盟強化が議論されたNATOの会議では、多くの平和団体・個人、気候正義の実現をめざすフライデーズ・フォー・フューチャーの若者が合同して「NATOとプーチンにノー、平和にイエス」「軍事費を医療・教育に」と、デモ行進がくりひろげられました。
 私たちは民医連綱領で、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす民医連の使命の一つは「人類の生命と健康を破壊する一切の戦争政策に反対し、核兵器をなくし、平和と環境を守る」と掲げています。また、国際経済社会理事会協議資格を持つNGOとしても、国内外で連帯し、直ちにこの侵略戦争を中止することを強く求め、声をあげ続けます。

(2)新自由主義の転換をめざす運動の前進
 新自由主義の社会は、大企業のもうけを最大限にするものです。そのために非正規雇用を拡大し、低い賃金を固定化しました。社会保障の企業負担を減らすように政府に要求し実行させ、税負担では大企業と富裕層に減税、逆進性が強く不公平な消費税を導入し税率を引き上げてきました。日本では役員報酬最高所得者の時給は209万円(22年3月期東京商工リサーチ調べ)、最低賃金加重平均は930円です。その差は2248倍と格差と貧困が大きく拡大、コロナ禍ではさらに深刻となりました。また社会保障の縮減により、医療現場、保健所などの公衆衛生は弱体化し、感染拡大時には必要な医療が受けられない状況が頻発し、医療崩壊とも言える事態を招きました。
 こうしたなか、新自由主義の転換を求める声がさまざまにひろがっています。生活必需品も高騰するなか、すでに90カ国以上が、さまざまな形で消費税(付加価値税)を減税し、6月のG7サミット(先進7カ国首脳会議)では、多くの市民がG7首脳に対し、「巨額の利益を上げる大企業・富裕層に課税を強化し、世界的な食糧危機や格差是正のために資金をまわせ」と声をあげています。
 コロナ禍でも、世界の最低賃金は大きく引き上げられています。アメリカの20の州では「購買力を高め経済を強くする」と引き上げが行われ、ロサンゼルスでは2240円となりました。カナダ、イギリス、フランス、ドイツも1500円前後、オーストラリアは2010円、日本の930円の2倍以上となっています。

第2節 2022年骨太の方針が示したもの~平和といのちに真っ向から対立する社会像

 こうしたなかで、岸田内閣は「大軍拡・防衛費の際限なき拡大と社会保障大改悪」の国の姿を描き、22年「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」としてまとめました。その内容は、①日本の軍事大国化によりアジアでの緊張を拡大し、戦争する国づくりへ暴走する危険に満ちている、②医療提供体制の縮小など、社会保障の解体と国民の大規模な負担増をよりいっそうすすめ、医療と介護をさらに国民から遠ざける、③経済政策は、「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」「成長だけでなく分配にも目配りする方針」は取りやめ、格差と貧困をひろげたアベノミクスを全面的に評価し、国民生活の困窮をさらにひろげるものとなっています。

(1)日本の軍事大国化路線を打ち出す
 「大軍拡」をはかるため、ロシアのウクライナ侵略、中国を念頭に台湾問題を最大限利用して、防衛力を5年以内に抜本的に強化し、NATOの軍事費を引き合いに出して「日本の防衛費を2倍化、GDP比2%にする(約6兆円増)目標」を示唆しています。
 6兆円は、消費税をさらに2%に引き上げる規模に相当します。その規模を防衛費でなく社会保障に使えば、窓口負担をゼロ、年金を年間12万円増やすことが可能で、学校給食の無償化、大学学費の無償化などは簡単に実現できる規模です。私たちがめざす社会の姿はこちらです(表2)。
 そもそも日本の防衛費を2倍にすることで、平和を守ることができるのでしょうか。
 2倍化されると日本は世界第3位の軍事大国になります。日米安保条約で軍事同盟を結んでいるアメリカ(軍事費世界1位)と3位の日本が、軍事基地を無制限にひろげて強化し、敵基地攻撃能力まで持つもとでは、中国などのアジアの国ぐにとの軍事的緊張は拡大し、戦争勃発の危険がますます大きくなるだけです。
 ロシアのウクライナ侵略の最大の教訓は、軍事同盟=抑止力の強化では戦争は防げず、引き金となったことです。戦争は絶対に起こしてはなりません。戦争を避けるために大切なのは、対話による外交です。日本は憲法9条を携え、77年間一度も戦争を起こさなかったという、素晴らしい実績を持つ国です。この教訓を外交に生かし、「先制攻撃はしない」という安心を供与すること、つまりは9条の理念をアジア全体、そして世界にひろげることこそが、平和を守るための日本の役割です。
 現在、自民党、公明党と一部の野党は翼賛体制的な様相で、ウクライナ情勢を最大限に利用して危機感をあおり、日本を戦争に巻き込む大軍拡を主張し、9条の形骸化に突きすすもうとしています。9条改憲は、日本を何の制約もなく戦争に突きすすみ、国民生活、社会保障を際限なく切りすてる社会に変えるものです。9条によって、防衛費ではなく、教育や社会保障に国の財政を振り向けることができます。第二次世界大戦末期(1944年)、日本の国家予算のなかで軍事費は70%を超えていました。医療は破たんし、国民は食べるものもなく、戦禍だけでなく、飢餓状態に追い込まれました。こうした社会に二度と戻さない、国を守るためにと言われ、私たちの当たり前の生活すべてを差し出す社会に戻さない力が、9条です。

(2)格差と貧困はさらに拡大する方向に
 経済政策の柱として、「人への投資と分配」に「資産所得倍増プラン」が盛り込まれました。岸田首相は、昨年の自民党総裁選で「新自由主義政策の転換」として「令和版の所得倍増をめざす」としましたが、骨太方針では「資産所得倍増」に変わってしまいました。それは、家計金融資産2000兆円を貯蓄から投資に回すために、一部の非課税制度などを拡充するというだけのものです。
 家計の実態は、国民の賃金が下がり続け、非正規雇用の増加や減額され続ける年金、一方で消費税率の引き上げ(3%↓5%↓8%↓10%)など、税、社会保険料の負担割合は増え続けてきました。88年のバブル期に3・3%であった貯蓄ゼロの世帯は、19年には23・6%、4世帯に1世帯へと増加しています。政策の順番が明らかに誤っています。今、必要なのは最低賃金の引き上げ、年金削減をやめ元に戻す、医療・介護の負担を軽減、消費税を5%に引き下げるなど、国民の所得や、個人消費を増やすことを可能にし、日本経済を成長させ、景気もささえていくことです。
 まともに家計を支援しないまま、「国は投資の支援制度を拡充したのだから、貯蓄をしなかったのは自己責任。その困窮を救うために税金を使う必要はない」、という自己責任論が飛び交う社会にしてはなりません。

(3)さらなる社会保障の解体へ
 全世代に負担増を押しつける全世代型社会保障改革の堅持、10月からの75歳以上の医療費窓口負担2倍化の強行、病床削減をすすめる「地域医療構想」の推進など、第45期運動方針で示した「これからねらわれる社会保障改悪メニュー」(表3)をすべてすすめる方針です。
 こうした背景にあるのは、5月に発表された財政審「建議」にあるように、「社会保障の増大が財政悪化の最大の要因」と位置づけ、本来、高齢化など医療の必要性によって決められるべき医療給付費の伸びを「日本の経済成長率に合わせる」とする現政権の考え方です。
 また、現在の社会保障制度について、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」と言って、社会保障の構造と世代間の対立をあおり、老人保健施設、介護医療院、介護療養病床の室料を保険給付外とすることなど、国民負担をさらに増やし、「公的医療保険」「介護保険」の変質をすすめようとしています。
 「建議」がこうした極端な社会保障費の削減路線をすすめるため、これまでの急性期病床を中心とした効率化に加え、さらに外来医療のあり方にも触れ、コロナ禍を利用して「かかりつけ医機能が発揮される制度整備(法制化)」を持ち出していることに注意が必要です。
 コロナ禍で発熱など症状があっても検査を受けられず、医療にかかれない事態が広範に起こりました。「建議」は、その要因として「世界有数の外来受診回数の多さをもって我が国医療保険の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分機能しなかった可能性が高い」とのべ、かかりつけ医の機能が効果的に働かなかったことに要因を求め、法的強制力によって解決するという考えを示しています。
 しかし、コロナ禍の医療崩壊の原因は、長期の社会保障費の削減、病床削減、保健所や保健師を大幅に削減してきた政治にあります。その責任にふたをし、かかりつけ医に責任を転嫁する今回の提案は言語道断です。
 また、診療所の医師は1人体制で、発熱外来の体制確保や自身が感染した場合の業務代替がきかない、動線分離も小さな施設ではできないことなど、感染症診療のハードルは極めて高いものがあります。こうした現実を見ない「建議」の指摘は的外れです。
 医師が絶対的に不足している現在、かかりつけ医の要件である、①地域の医師、医療機関との協力、②休日・夜間も患者に対応、③在宅医療推進、のすべてを担う医師を、すべての地域に配置することは困難です。無理な配置は、かえって医師偏在をひろげ、医師不在の地域を生み出し、結果として医療へのアクセスが制限され、地域医療を崩壊させることにつながりかねません。
 また、「診療報酬体系が現在の出来高払いから患者数に応じた包括払いになり減収となる」との報道もあり、診療報酬の包括化よる医療費の抑制につながる可能性も危惧される点です。こうしたなかで、日本医師会は「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化する」ことが「医療費抑制のために国民の受診の門戸を狭めるということであれば認められない」と批判しています。

(4) 「次の感染症危機に備えるための対応の方向性について」 の問題点
 岸田首相は、21年12月の所信表明演説で、「これまでの新型コロナ対策を徹底的に検証する」と方針を掲げ、「有識者会議」を設置し、検証を行いました。検証は日本医師会への意見聴取は5分、対策分科会・アドバイザリーボードは14分、第三者による評価であれば当然対象となる政府自体は聴取すらされてないなかで、有識者会議のまとめが出されました。それを受けて6月17日、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」(以下、「方向性」)が、新型コロナウイルス感染症対策本部で決定されました。
 今後、必要な法律案が国会に提出されます。秋の臨時国会、来年1月からの通常国会に向けて、運動を強めていく必要があります。
 第1の問題点として、今後の感染症危機発生時の病床の対応は、病床を増やさず、現在の病床数のなかで行うとしていることです。
 具体的には、新興感染症などに対応する病床を提供する協定を結ぶ仕組みを法定化し、感染症危機発生時には、協定に従い医療を提供するとしています。今回のコロナ禍で一般医療も含めて崩壊した原因である、まったく余力のない医療提供体制、その原因にある医療費の抑制策はそのままにして、次の感染症危機に備えられるはずはありません。
 公立・公的病院、特定機能病院については協定締結を義務化し、履行状況を公開。協定履行できない場合は、特定機能病院の承認の取り消しなどのペナルティーを検討するとしています。指示や命令で強制するのではなく、余力のある病床体制を準備しておくことこそが、必要な対策です。
 第2に、医療が機能しなかった決定的な問題は病床の確保だけでなく、人的体制の不足でした。しかし、人材確保については医師、看護師の絶対的不足や今後の養成には触れず、広域での人材派遣ですすめるとしています。看護師については、マイナンバーを活用した人材活用システムの構築と潜在看護師の活用、またタスク・シフト/シェアの着実な推進などとし、医療従事者の増員を行う意思も計画もありません。
 第3に、自宅・宿泊療養者などへの医療提供体制の確保は、医療機関との委託契約とし、感染まん延時に都道府県が医療関係団体に法にもとづいて要請し、履行状況についての公開、右記と同様にペナルティーによって対策をすすめることとなっています。
 第4に、保健所、公務員や保健師の削減など、保健所業務の破たんの原因には一切触れず、感染症危機発生時は、あらかじめ応援体制や外部保健師の派遣(IHEAT)などを計画し、乗り切るとしています。これまでの破たんした対策の焼き直しです。
 第5に、検査体制については都道府県、保健所設置市、特別区が必要な体制を整備する責任を持ち、民間も含めて協定を締結しておくとの記述で、実行計画や必要な検査体制などの方針はなく、自治体任せのものとなっています。
 有識者会議に対策分科会・アドバイザリーボードから提出された内容は、「今回の総括の核心部分として、『2010年の新型インフルエンザ対策総括会議報告書』に明記されていた『パンデミックに備えた医療体制を整備すべき』などの中心的な教訓が生かされないままコロナに直面した」と厳しく指摘しました。地域ではコロナ禍による医療崩壊、それ以前からの医師不足による無医地区が生み出されてきました。経済の観点からつくり出されてきたまったく余力のない現状の医療提供体制を放置し、強制により医療関係者を動員する今回の「方向性」については撤回を求め、医療関係者と住民の合意で、真に「次の感染症危機に備えるための対応方針」となるよう、働きかけていきます。

第3節 力を合わせ、いのち優先の社会を

(1)参議院選挙の結果と展望
 7月10日、第26回参議院選挙が投開票されました。民医連は憲法の理念を生かし、平和で人権が尊重される公正な社会の実現を求め、「民医連の要求」を掲げて奮闘しました。
 獲得議席数では、自民党が議席を増やし、自民、公明の与党で非改選(70議席)と合わせて、参院定数の過半数を維持。改憲に前向きな日本維新の会、国民民主党などと合わせ、非改選を含め改憲発議に必要な3分の2(166議席)を維持しました。この一つの要因は、これまで2回の参院選挙で実現してきた32ある1人区での市民と野党の共闘にささえられた野党候補の一本化が崩れ、1人区で3人の当選にとどまったことがあげられます。
 総会運動方針は、平和憲法を守り抜くことを今期最大の課題として、組織を上げて全力でとりくむ、としました。参議院選挙の結果、ますますこの方針が大切になりました。
 議席の上で危険な改憲の発議が近づいているとも見えますが、参議院選挙に託した有権者の願いは、経済、社会保障、暮らしです。憲法改正は今回もわずか5%(NHKの出口調査)に過ぎません。また、改憲志向の4党の改憲内容に一致点はなく、改憲案発議の条件は整っていません。
 与党が国政選挙は当面ないと考え、苦しい暮らしの安定を求める声が渦巻くなか、防衛費増額のために暮らしや社会保障の削減や、国民が望んでもいない改憲など、賛否の別れる課題について、世論を無視して実現できると考えるのは、おごりです。
 この間、福岡民医連をはじめ、各地で、医療・介護、コロナ禍のさまざまな運動などを通して、常に地域の医療・介護事業所などに働きかけて運動を前進させてきました。多くの県連、地域で同様の連携がひろがっています。
 共同組織とともに、全国と地域で暮らしと医療・介護を壊す大軍拡・戦争ノー、憲法を守り生かそう、医療・介護報酬の抜本的引き上げ、地域医療構想見直しなど、すべての課題を、地域ぐるみで総がかりの運動としてすすめ、要求を実現しましょう。第1回評議員会では、第2回評議員会へ向けた運動の柱を提案し、社保委員長会議などで具体化をすすめていきます。

(2)軍事大国化と一体にすすめられようとしている社会保障解体にノー、 人権としての社会保障のとりくみを強め、 健康権を実現しよう
 ①後期高齢者医療費の2倍化、地域医療構想の見直しなど、政府のすすめている全世代型社会保障に対抗する運動を強めましょう。
 ②いっそうひろがる生活困窮のもと、医療・介護活動のなかで「まず診る、援助する、何とかする」ことを貫き、アウトリーチ・いのちの相談所の拡大、地域の医療、介護事業所とともに、受療権を守る制度の拡充を求める運動をひろげましょう。
 ③「介護利用料2割・3割負担の対象拡大」「要介護1、2の生活援助の総合事業への移行」「ケアプランの有料化」など、通常国会に向け、「改悪法案をつくらせない、国会に上程させない」をスローガンに、改悪にストップをかけましょう。新たな処遇改善は、公費の投入により介護施設・病院などの就業場所や職種を問わず、早急に全介護従事者の給与を全産業平均水準まで引き上げることを求めましょう。
 ④新たな民医連の医療・介護の提言づくりをすすめ、一定の段階で、医療・介護団体と共同してシンポジウムなどにとりくみます。

(3)いのちの現場から憲法を守り生かし平和を実現しよう
 ①辺野古新基地建設中止、日本を戦争に巻き込まない、全国の平和の願いを実現するために沖縄県知事選挙勝利に連帯しましょう。
 ②「被爆者とともに、核兵器のない平和で公正な世界を~人類と地球の未来のために」をテーマに開催される、原水爆禁止2022年世界大会を成功させましょう。
 ③職場を軸に憲法を学び、すべての事業所での平和宣言・九条の碑設置運動など、全日本民医連結成70年(23年6月)へ向けとりくんでいきましょう。

第2章 全国の経験を学び合い、医師・経営分野での前進を

 半年後の第2回評議員会で全日本民医連結成70年の記念式典を予定し、歴史に学び、未来へ向けた記念事業をすすめていきます。病院長会議の定期開催、次世代の事務幹部養成、BCP(事業継続計画)研修会など、総会運動方針が新たに提起した課題も実践が始まりました。
 コロナ禍で傷んだ地域において、人権と公正を掲げて行動する民医連事業所の役割は絶大です。医療、介護、生活支援、居場所づくり、保健予防など、総合的な役割を担える「人権の砦(とりで)」として、大いに奮闘すること、これらの一つひとつに、個人の尊厳とジェンダー平等の視点を据えてとりくむこと、自らの事業所内で多様性を認め合い、みんなにとって働きやすい職場環境になっているか、障害者やLGBTQ、高齢者や認知症患者とその家族、外国人を含む社会、経済的に困難を抱える人びとにとって、利用しやすい環境を用意できているかなど、足元から点検し、本格的に、人権の感度を高めていきましょう。
 コロナ禍でのコミュニケーション不足が続くなかだからこそ、感染対策を施し、以前よりも、学び、話し合い、民医連への確信をひろげていきましょう。くり返し第45期運動方針に立ち返り、全国のなかまの実践に学ぶことは、なんのために、誰のためにがんばるのか、その羅針盤を見失わずにすすむ土台です。各県の月間の到達に立ち、総会運動方針を学ぶことをあらためて呼びかけます。「職員育成指針21年版」の学習が始まり、職場づくりに学習を位置づけ、人権と共同のいとなみを大切にする組織文化の発展をめざして、議論が始まっています。地協単位でも交流をはかり、全県連での論議・具体化をすすめましょう。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、第7波の様相を示し始めています。民医連内でもクラスターが発生し、沖縄協同病院への看護支援など、全国的な連帯をすすめてきました。「第44期新型コロナウイルス感染症への取り組み」(『民医連資料』別冊22年5月)に学び、全国・県連に結集し、地域の受療権、職員を守り抜いていきましょう。
 全県連で、45期の折り返しとなる第2回評議員会へ向け、総会運動方針の全面的な実践を呼びかけます。今回の評議員会では、医師と事業経営の2つのテーマに時間をあて、議論します。2つのテーマは総会運動方針実践の上での要であり、情勢から時限の決まった分野でもあります。そして、すべての県連・法人・事業所での前進が必要な課題です。全国の経験と教訓を交流し、前進へ向けて希望の持てる評議員会としましょう。

第1節 医師分野

 医師分野では、①45期運動方針であらためて提起した私たちの目標、奨学生500人―初期研修医200人―後期研修医100人確保をどうめざすのか、②財務省財政制度等審議会の建議や2022骨太方針で打ち出された「かかりつけ医」法制化、③スタートまで2年を切った医師の働き方改革へのとりくみ、の3点について、おおいに議論し、今後の展望を切りひらきましょう。9月に行われる医師委員長会議で、ひきつづき議論を深めていきます。

(1)500―200―100の目標にこだわり、 全職員の力を合わせて、 医師の確保と養成を飛躍させよう
 45期運動方針では、「これからの私たちの目標」として、あらためて「奨学生500人―初期研修医200人―後期研修医100人」を確認しました。奨学生500人については、20年度7月に500人に到達したものの、22年度(7月時点)は432人に減少しています。500人達成に向けての、数年間におよぶ奨学生を増やす大運動の教訓は、掲げた数値目標にこだわってやり切ることにありました。各県連で掲げている新規奨学生獲得目標を合計すれば、500人は可能です。これからの粘り強いとりくみで、目標をやりとげることを第一義的な課題にしましょう。
 22年4月、民医連での初期研修をスタートした医師は186人、22年3月に初期研修を修了し、4月から民医連での専門研修(基幹型、あるいは連携型となっているプログラムおよびトランジショナルイヤー(TY)研修)にすすんだ医師は、初期研修修了者189人中80人(42・3%)、新たに3年目から民医連に合流した医師13人を含め93人となりました。
 500―200―100の目標を達成することは、民医連が組織的に発展するための前提条件です。しかし、その目標を達成したとしても、自県連・法人の医療活動を維持していく体制が確保できないところもあります。自分たちの活動を守るために、どれぐらいの医師確保が毎年必要となるのか、どんな手立てを尽くす必要があるのかを、あいまいにしないことが重要です。
 コロナ禍での医学対活動で、医学生と対面で会い、真正面から民医連を語ることに困難が生じています。病院実習も大幅に減少しています。それでも、医学生のなかに「仲間とともに学び合い、交流したい」との要求の高まりがあり、その要求に奨学生活動がマッチし、奨学生決意につながった例もあります。WEBを活用した企画や学習会をはじめ、さまざまな工夫で新しい出会いの機会がひろがり、高校生1日医師体験のWEB企画に参加した学生が、民医連の医療活動に共感し、他県の大学合格後に自ら奨学生の申し込みを行った例も生まれました。
 医学生と職員が協力しての無料塾立ち上げ、食糧支援活動への参加、投票を呼びかける「GO VOTE参院選プロジェクト」など、医学生の社会活動への参加も豊かにひろがっています。
 医学生運動では、要求実現運動やWEBを活用した全国医学生ゼミナールの開催と成功、入試差別や医学部地域枠をめぐるとりくみなどで、医学連への新規加盟や加盟を希望する自治会が増えるなど前進しています。この2年間、3~4割の医学生担当者が交代となりました。従来の医学対活動を体験していない担当者が多数となり、医学対活動の再構築が求められています。奨学生や医学生の多面的な学びの要求を取り上げると同時に、定期的な医師面談や実習、全国・地協での企画への参加を積極的に位置づけ、医学対活動の2つの任務にもとづいた活動をすすめましょう。
 25年に初期研修医定員は、医学部定員の約1・05倍まで縮小されます。募集定員枠を守ることは200人受け入れ目標に必要なことであり、私たちの未来をかけた、たたかいでもあります。すべての臨床研修病院でのフルマッチをめざすために、地協内、地協を超えた協力と連携を強化しましょう。大都市部のシーリングはひきつづきすすめられることから、定員を増やせる条件がある県連は増員も検討すること、定員削減の動きや、厚生労働省も認めていない定数1への削減に対しては、地域医療対策協議会を通じて、根拠を示して認めないためのたたかいが必要です。
 どの臨床研修病院もほぼマッチする時代を迎えた時、医学生時代にかかわりのなかった研修医が、民医連に合流する可能性が、さらに高まります。新専門医制度下で医師の流動化がすすむなか、民医連に理解と共感を持つ医師を増やしていくためには、奨学生時代に民医連を学んだ研修医の存在と、民医連医師として成長することができる「人権と共同のいとなみを大切にする組織文化(初期研修フィールド)」が重要です。毎年実施している初期研修医満足度調査では、「社会情勢を反映して、地域における事業所の存在意義、社保・平和のとりくみ、震災支援・被ばく医療など、民医連医療の実践・理念への共感が深まっている」との結果が示されています。社会情勢が大きく変化した今、「2つの柱」を実践する事業所で研修を行い、人権と公正の視点を養い、社会そのもののあり方や医師としての生き方を考えることには、大きな意味があります。あらためて、民医連だからこその研修とはどのようなものか、多職種で検討し、研修内容を深化させて、すべての研修医の成長を促していきましょう。
 医師の確保と養成の課題は、一部の医師や医学生担当者だけが担う課題ではありません。民医連組織をあげ、全職員が参加し、とりくみをつくることが必要です。そして、そのとりくみを推進するためには、①幹部集団・医師集団のなかで、医師課題についての本質的な議論(何を大切にするのか)をくり返し行う、②ハラスメントのない心理的安全性の高い組織づくりを実践する、③法人・事業所がどう地域に貢献するかという事業構想・中長期経営計画に、医師の確保と養成の目標と方針を明確に定め、全職員とその目標を共有する、の3点が重要です。

(2) 「かかりつけ医制度化」 の問題を明らかにし、 地域医療を守るための、 より良い方向性を展望しよう
 コロナ禍において、多くの医療機関が現場から声をあげるなかで、国民の目にも医療崩壊の根本に、医師・看護師不足があることが可視化されました。しかし、政府・財務省は「発熱・検査難民」や「自宅療養死」などの原因が医療機関側にあるとし、「なんちゃって急性期病床」「低密度医療」「外来医療での患者選別」などの言葉を、マスコミも利用して発信することで医療機関を攻撃し、医療費抑制政策・医療提供体制のさらなる縮小を徹底しようとしています。
 この流れのなかで、骨太方針において、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」ことが明記され、呼応するように、日本プライマリ・ケア連合学会理事長の「受診の自由と診療の確実性、どちらを優先するのか」「登録制の導入」と言った発言も出されています。また、立憲民主党も21年6月、「家庭医制度の整備の推進に関する法律案(日本版家庭制度法案)」を衆議院に提出し、コロナ禍で浮き彫りになった医療提供体制の課題として「かかりつけ医」の不在をあげ、かかりつけ医を家庭医と明確に定義し、地域包括ケアシステムのなかでプライマリ・ケア機能を発揮し、予防を中心とした医療体制を整備するものとしています。
 かかりつけ医については、13年、日本医師会と四病院団体協議会が合同で提言をまとめ、医療提供体制・病床機能のあり方を論じるなかで、かかりつけ医の定義や機能をまとめ、日医かかりつけ医機能研修制度を開始し、研修をすすめてきた経過があります。今回の動きは、かかりつけ医の認定制や制度化、人頭払い制の導入などをねらっている点で、これまでとは明らかに異質な提案となっており、自由開業医制やフリーアクセスなど、医療提供体制の根幹にかかわる問題をはらんでいます。さらに、医師という職能の統制につながり、プロフェッショナル・オートノミー(個々の医師が診療に際して、外部の第三者ないし個人から、不当あるいは不適切な影響を受けることなく、自らの専門的判断を自由に行使するプロセス)への介入も危惧されます。
 「かかりつけ医」機能の欠如は、コロナ禍での医療崩壊の本質的な原因でなく、「かかりつけ医の法制化」は、民医連がこれまで考えてきた「総合医の育成」と同じ方向を向いているものでもありません。制度化の問題点を明らかにし、見解を取りまとめる予定です。地域のなかで医療団体などと積極的に懇談することで、政府のねらいや現状認識を共有し、より良い方向性を展望していきましょう。

(3)医師の働き方改革へのとりくみを加速させるとともに、 医師増員の要求を正面に掲げ、 地域から声をあげよう
 医師の働き方改革は、コロナ禍を経ても、24年4月スタートの予定です。全体のスケジュールからいえば、時間外労働上限規制A・B・C水準のいずれを選択するのか、そのための勤務実態調査ならびに労働と研さんの切りわけ方の整理が必要な局面です。勤怠管理システムの検討、コンサルタントの導入など、各事業所でとりくまれています。B・C水準を選択するにあたっては、厚生労働省から今年4月に出された「医療機関の医師の労働時間短縮の取組の評価に関するガイドライン」 (評価項目と評価基準)に沿って、医療機関勤務環境評価センターの評価と都道府県の指定を取らなければなりません。
 宿日直届け出について、大学より届け出がなければ非常勤派遣を来年度から打ち切る旨の通達が届いた事業所もあり、申請の遅れているところは対応を急ぐ必要があります。一方で、日本医師会・四病院団体協議会・全国有床診療所連絡協議会は、今年3月に宿日直許可の基準緩和など、医師の業務の特殊性をふまえて対応することなどを、厚生労働省に要望しました。医師の健康といのちを守る観点からは、大きく後退する要望であると同時に、地域医療を守りながら医師労働を抜本的に改善するには、働き方改革への対応だけでなく、医師増員が必要であることを如実に示すものとなりました。宿日直許可の判断基準について、各地域の労働基準監督署によって対応がまちまちであることがわかっており、新しく設置された厚労省相談窓口に、この間、各地から寄せられた事例をもとに交渉を行います。
 働き方改革は、全職員の課題であり、法人幹部がイニシアチブをとらなければ前進できない課題です。タスク・シフト/シェアについては、21年9月、厚生労働省から「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」の通知が出されていますが、具体化には課題があります。県連、地協などでとりくみを共有し、事業所の活動に活かせるようにしましょう。
 18年に行われた常勤医師確保のための全国会議では、医師確保のポイントを、①理念と医療活動への共感、そのための医療構想や医師政策づくりとそのアピール、②労働環境整備・医師の多様性の尊重と援助、③生涯学習・学びへの援助、④処遇と評価、の4点にまとめています。国のすすめる働き方改革への対応のみに終始することなく、総合的な視点で準備をすすめましょう。病院長会議や、今年度開かれる常勤医師確保のための全国会議(仮称)で、課題の共有と対応を加速させる予定です。
 働き方改革は、地域医療を守りながらすすめなければならない課題です。私たちは、その根本的な解決策である医療費抑制策の転換と医師増員の要求を正面から掲げ、各地域から声をあげることで、大きな波を起こしていきましょう。

第2節 経営分野

 第1回評議員会では21年度決算状況もふまえて、経営の実態をどう認識するか、経営を取り巻く情勢変化をどう読み解くかなど、22年度の活動方針にもとづく予算編成や、第1四半期の経営課題のとりくみの教訓、課題は何かについて、大いに交流していくこととします。評議員会での議論もふまえて、全日本民医連として、第45回総会運動方針第4節で確認した、経営困難を打開する3つの基本方針(①全日本民医連が提起する医療・介護活動方針に沿って活動の質・量の充実をめざすこと、②経営の改善は管理の改善であることを掲げて、経営管理の力量を学習と討議、実践を通して大きく引き上げること、③経営の視点からの多様な連携をすすめ、地域全体の医療・介護の事業を守り抜き、「たたかい」の前進で診療報酬、介護報酬の大幅引き上げを実現すること)と、5つの重点方針(①22年度予算編成の水準引き上げと中長期経営計画の確立、②民医連統一会計基準改定版、予算管理テキストを活用した学習と総点検・改善の推進、③患者増、利用者増のとりくみの抜本的強化、④経営課題での地域連携とたたかいの前進、⑤地協、県連経営委員会ミニマムの全面実践)を軸とする実践について、秋の地協・県連・経営委員長・経営幹部会議にて到達点や課題を集約するとともに、23年度以降に向けての課題や方針提起を行います。

(1)21年度決算の特徴~複眼の視点で総合的に評価を~
 21年度決算は医科法人合計で、20年度の経常利益率2・9%を上回り、過去最高の経常利益となる見込みです。経常利益予算達成法人も7割と、過去最高(速報値)となっています。この2年間、新型コロナウイルス感染症の入院患者を受け入れてきた病院への空床確保料を中心とするコロナ補助金、コロナ禍での費用減により、利益・資金ともに大きく膨らむ状況となっています。コロナ禍での活動と減収補てん確保のたたかいの成果である一方、実態としての収支構造は患者減などによる収益減少など、大きく後退しています。非常に特殊な状況下で、経営の実態が見えにくい状況にあることをふまえて、自らの法人・事業所の経営を複眼で多面的に捉え、コロナ禍を経て変化している地域のニーズや受診動向とずれていないか、総合的に評価しなければなりません。
 コロナ補助金の集計やその影響について、把握できていない法人も一部に見受けられます。単年度での経常利益超過達成や、一時的資金増による経営管理に緩みはないか、19年度以前からの収支構造の問題解決をあいまいにしていないか、あらためて確認しましょう。
 保険薬局法人は、この2年間大きく経営が悪化しています。民医連保険薬局・短期指標該当法人も一定数発生しており、報告にもとづき全日本民医連経営部と全日本民医連保険薬局小委員会で、協力して対応することとしています。社会福祉法人の経営困難もあります。地協・県連経営委員会などでの把握と評価を、きちんと行うことも課題となっています。医科法人、保険薬局法人、社会福祉法人が一体となって、地域住民のいのちと健康を守るため、地域における民医連の事業と経営を守り抜くことが求められます。
 県連内、地域でいかに民医連経営を守るか、各法人の経営トップが論議すること、県連・地協が役割を発揮することが重要となっています。

(2)22年度予算と中長期の医療・介護構想にもとづく中長期経営計画の確立
 中長期経営計画の中心は、利益計画と資金計画、計画期間の貸借対照表(財政状況)の想定策定です。重点方針として提起した、中長期経営計画にもとづく22年度予算づくりは、一定の前進はあるものの、十分な到達にはなっていません。22年度経常利益予算が、予算編成方針などで提起された利益に届かないまま確認されている医科法人も、少なくありません。保険薬局法人、社会福祉法人でのとりくみは、医科法人よりも遅れています。「必要利益」に届かず、「しかたない」という状況が継続すれば、経営に行き詰まるという当然の認識を、今一度しっかり持つことが必要です。
 また、中長期経営計画があるといっても、機関会議での未確認、担当者レベルでの作成、数値の根拠の検証議論の欠如、基礎的知識不足による不十分さなど、多くの課題を残しています。普及がすすんでいる『予算管理テキスト』の学習と内容を、自らのものとするとりくみをすすめましょう。現状の民医連経営の多くが、資金需要から算定された「必要利益」と実力との間に、大きな開きがあるのが実態です。法人・県連で、あらゆる知恵を集めて議論し、これならできるというところまで、あきらめず追求しなければなりません。
 コロナ補助金、緊急融資などにより、一時的に今までにない資金残高となっている法人でも、その資金の活用と実態としての収支構造の把握も含めた、中長期の資金計画を持たなければなりません。現状の実力を正確に認識し、収支改善の必要性や課題をあいまいにすることのないよう、注意が必要です。今後の経営戦略のもとに方針・計画を持ち、それを全職員の共通認識とするとりくみをすすめましょう。
 コロナ禍による大幅な受診抑制、健診の減少が発生しています。また、ひきつづく生活困窮のひろがりのなか、多くの人の受療権が脅かされています。今こそ、民医連の事業所にたどりつけていない、多くの住民へのアウトリーチが必要です。また、政府のすすめる社会保障改悪のなかで、私たちの経営を取り巻く情勢も大きく変化しています。22年度は経営課題としても重要な年となります。「人権の砦」として役割を鮮明にし、すべての法人で、経営戦略の見直しと事業所のポジショニングの再検討をすすめましょう。
 22年度診療報酬改定による10月以降の対応や、その影響と見通しを持たなければなりません。また、24年度からの第8次地域医療計画(6年間)、第9期介護保険事業支援計画(3年間)、第4期医療費適正化計画(6年間)、第4期特定健康診査等実施計画(6年間)など、この間の政府がすすめる社会保障改悪を前提とした、計画の見直し論議が始まることになります。これらは、医療、介護、予防、健康づくりを含めた、総合的なとりくみの推進を目的としており、診療報酬・介護報酬と密接不可分な関係です。24年度は診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスなど、報酬のトリプル改定の年です。医師の働き方改革の実施も24年度です。たたかいで政府の改悪をストップするとりくみとともに、必要な対応や活動の見直しが求められる課題でもあります。こうした経営を取り巻く情勢を的確につかみ、どんな情勢下でも民医連経営を守り抜く展望を切りひらくためにも、中長期経営計画をすべての法人で確立しましょう。

(3)情勢の変化を的確に把握しての地域連携とたたかいの大きな前進を
 経営にかかわる課題でのたたかいの鍵も、地域の医療機関・介護事業所との連携の前進です。この間すすめられている社会保障改悪による矛盾や不満は、多くの医療・介護経営での共通認識となっています。今こそ、共通認識のひろがりを生かしたとりくみを前進させるチャンスです。診療報酬・介護報酬のもたらす現場での矛盾を告発し、抜本的引き上げをめざした運動の構築をすすめましょう。
 当面する緊急課題として、光熱費・食材費などの急速な高騰に対する医療・介護経営への国家的財政支援、分断と不団結を生む看護師等処遇改善加算の見直しにとりくみます。また、四病院団体がとりくむ食事療養費の増額などの課題を、多くの医療・介護事業所や関係団体と協力して運動をすすめましょう。この間すすめている全日本民医連経営部による、医療関係団体担当部署との、経営課題での対話を積極的にすすめます。
 全国の病院の建物の25%が法定耐用年数(39年)を超え、30年超えは40%(「総合メディカル」調べ)といわれるなかで、建築資材の高騰による建設費の断続的高騰が続いています。リニューアルが避けて通れない課題となっている民医連法人も含めて、なんらかの財政支援を求めるとりくみをすすめます。また、新型コロナウイルス感染症などの新興感染症拡大に備えた、病床確保などの財政支援はコロナ対応に偏り、地域全体の医療・介護事業所や職員の分断を深めています。そのあり方などについての検討と、政策提起の検討もすすめます。

おわりに

 沖縄で6月23日に行われた、本土復帰50年にあたる今年の沖縄全戦没者追悼式で、小学校2年生の児童の自作の平和の詩「こわいをしって、へいわがわかった」が朗読されました。
 家族で美術館に出かけ、何枚かの77年前の沖縄戦の絵を見て、「こわいよ かなしいよ かわいそうだよ せんそうのはんたいはなに? へいわ? へいわってなに?」と考え、「せんそうがこわいからへいわをつかみたい ずっとポケットにいれてもっておく ぜったいおとさないように なくさないように わすれないように こわいをしって、へいわがわかった(抜粋)」とつづりました。
 平和であってこその医療であり、介護です。私たちが、決して譲ることができないものです。
 第2回評議員会へ向かう半年間、世界と日本が戦争か平和かの岐路にあり、いのち優先の社会を実現していくとても大切な時期です。健康に留意しながら、全国が団結して仲間をささえあい、大切にしてがんばっていきましょう。

以 上

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ