民医連新聞

2022年8月2日

相談室日誌 連載523 増える無縁や疎遠 求められる柔軟な支援(熊本)

 Aさんは70代男性。プラント工場の設計の仕事をしていましたが、時代の流れとコロナ禍のあおりで仕事は減り、好きなお酒に時間を費やすようになりました。
 Aさんは、次第に泥酔しては警察の世話になるようになり、家族からは距離を置かれるようになりました。ふらふらと出歩いては転倒し、救急搬送が続くようになり、とうとう家族から完全に見放されてしまいました。帰る場所をなくし、しばらくビジネスホテルなどを利用していたようですが、どうしても寝具を汚してしまい、身を寄せる場所がなくなりました。そこで地域包括支援センターより当院へ相談があり、支援を開始しました。
 Aさんは、急性硬膜下血腫術後、2型糖尿病、高血圧症に加え、歩行障害、中等度の認知機能低下、排せつの問題がありました。現役の頃は収入が多く、独居可能なほどの厚生年金を受給していましたが、金銭管理が難しくなり、税金や医療費の滞納、カードローンが多額にあることも認識しなくなっており、無料低額診療事業をすすめました。
 入院中に、住まいの確保、家電や寝具類は無償提供を募り、社会福祉協議会やケアマネジャーもいっしょに環境整備を行いました。裾が長い不格好なカーテンも笑って受け入れてくれるAさんはとても朗らかで、就労意欲もとても高い人でした。
 現役のような働き方は難しいですが、Aさんの気持ちをくんでくれる就労支援事業所と繋がり、ボランティアとして受け入れてもらえました。施設のご厚意で送迎と入浴、食事もつけてもらい、日課と役割を持つことができました。生活になじむまでは、支援者みんなで声かけや見守りをしばらく続けました。
 現在、Aさんは、定期的に当院の外来に通院しています。介護サービスも利用し、訪問介護の回数も増え、ボランティアも継続しています。社会福祉協議会が成年後見制度で保佐人となり、金銭管理と債務の整理もすすんでいます。
 専門職として支援の限界が頭をよぎることもありますが、葛藤から一歩踏み出した柔軟な対応や行動力は、独居など家族機能が低下するこれからの時代に則した支援として、実践していきたいと考えています。

(民医連新聞 第1765号 2022年8月1日)

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