民医連新聞

2022年8月16日

診察室から 指談と出会って

 大学卒業後すぐに山梨勤医協で小児科医師となり44年。現在、身体障害を含めた発達障害児を月の実患者数で約400人、セラピスト約10人とともに診ています。
 昨秋、脳炎後遺症による脳性麻痺(まひ)のAさん(36歳)の家族からの紹介で、Bさんの作品展を見に行きました。重度身体障害があり発語もできないBさんが、介助者にささえられ、絵も字もかいた作品の数々! 私は、学生時代から、話せなくても視線やしぐさで意思表示ができる人がいることを知っていました。なのに、自分の患者さんたちに対し、一人の人間として真に向き合ってきただろうか?ショックと、視界が急に開けたような希望を同時に感じました。
 その後、やはりAさんのお母さんの誘いで、「指談」で行われる当事者の会に参加しました。司会はAさん。ささえられた指で書くひらがなを、介助者が手のひらで読み取って通訳していました。しかし、手慣れた介助者の読み取りは速すぎて、にわかには信じられず私はまったく読み取れません。「私も読めるようになりたい。特に34年もそばにいたAさんの指談を読みたい」と思いました。
 来院のたびに指談の練習をお願いし、Aさんの手の動きの特徴やこちらのささえ方がわかってきました。少しずつ読めるようになり、私の読み取りが合ったときのAさんのうれしそうな表情! 今は解熱剤の剤形希望を聞くなど、やっと実用的になってきました。彼の記憶や判断がしっかりしていることも確認できました。
 重度の障害者が意思表示できるなら、その意思を尊重しなければなりません。残念ながら、それを手放しで喜べるほど、家庭や学校には余裕がありません。その前に「重度障害者は意思を持たない」という思い込みから解放されるという一歩が、私たち医療従事者にこそ求められます。
 この方法を知ってから、リハに来ているどの子も輝いて見えるようになり、より楽しく仕事をしています。この事実と方法を多くの人にひろめたいと思います。(宇藤千枝子、山梨・石和共立病院)

(民医連新聞 第1766号 2022年8月15日)

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