いつでも元気

2022年8月31日

けんこう教室 
不妊治療(上)

沖縄・とよみ生協病院 婦人科 町田 美穂

 今年4月から不妊治療が保険適用の対象になりました。
 どんな治療が対象になったのでしょうか。
 心配なことや周囲が気をつけるべきことはあるのでしょうか。
 沖縄・とよみ生協病院の町田美穂医師が解説します。
 2回連載の1回目は、「そもそも不妊治療とは?」

 「不妊症」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交渉を行っているにもかかわらず、一定期間妊娠しないことをいいます。日本産科婦人科学会は、この期間を1年と定義しています。
 国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)によると、不妊症の検査や治療を受けたことがあるカップルは18・2%に上ります。
 妊娠するために必要な条件とは何でしょうか。まずは男女が健康で、身体の中で成熟した精子と卵子を作り出せていることが必要です。また月1回の女性の排卵日近辺で、性交渉を持てていることが大切な条件です(資料1)。女性の体の中で精子と卵子が出会い、受精して子宮の中に着床するプロセス(精子、卵子、卵管、子宮内膜、子宮頸管など)に問題がない状態で、ようやく妊娠が成立します。

さまざまな原因

 不妊症の原因を探すための検査について、資料2に代表的なものをまとめました。頻度が高いものとして、女性側の排卵障害や、男性側の精子の数が少なかったり運動率が低いなどの要因があります。
 不妊症の約半数は男性側に原因があると言われています。不妊症の治療の場合、女性だけが来院することも多いのですが、男性にも早めに検査を受けていただきたいと思います。精液検査などの結果によって、どの治療法を選択するかが決まります。
 最近はED(勃起障害)や腟内射精障害も増えていますが、一番多い原因は心因性のものと言われます。排卵日にタイミングを合わせなければいけないというプレッシャーで、男性にとっても女性にとっても辛くなってしまうのです。
 明らかな原因が見つからないのに、なかなか妊娠できないという人もいます。検査で問題がなかったとしても、女性の年齢が高くなると妊娠は難しくなってしまうものです。
 女性が43歳を超えると、生殖補助医療を受けても、妊娠して子どもを出産できるのはほぼ1~2%以下の確率です。そのため次回に詳しく触れますが、保険適用の年齢には制限が設けられています。

一般不妊治療

 資料3に代表的な治療法をまとめました。
 不妊治療の第一歩は「タイミング療法」です。女性の月経10~12日目頃に経腟超音波(エコー)検査で排卵日がいつになりそうかを確認し、どの日に性交渉を持つと妊娠しやすくなるかを推測します。これはほぼ自然妊娠と変わりないと言えるでしょう。
 タイミング療法でなかなか結果が出ない場合に「人工授精」に進みます。この「人工」という言葉に抵抗を持つ方もいますが、精子や卵子自体を操作するわけではありません。排卵しそうな日に合わせて精液を回収し、その中でも元気な精子を集めて、注入器で子宮の中へ届けます。精子の数が少なかったり運動率が少し低い場合、また女性のおりものが少ない方に適した治療です。
 このタイミング療法と人工授精は「一般不妊治療」と呼ばれます。タイミング療法については以前から保険適用されていましたが、今年4月から新たに人工授精が保険適用の対象になりました。

生殖補助医療

 次のステップの「生殖補助医療」(体外受精・顕微授精)もまた、新たに保険適用の対象になりました。読者のみなさんが想像される“高額な不妊治療”というのは、こちらのほうだと思います。
 生殖補助医療は月経2~3日目から連日、排卵誘発剤などを注射して卵巣を刺激し、卵胞を複数個育てます。成熟した卵子を排卵直前に採取し、その日のうちに精子と受精させます。
 この卵巣刺激にはいくつか方法があり、それぞれの女性の卵巣機能に適した方法を選びます。受精の方法は2つあり、卵子に複数の精子をかけ、精子自身の力で受精させる「体外受精」と、精子を直接卵子の中に届ける「顕微授精」があります。
 受精反応を確認した上で、数日後に受精卵(胚)を子宮の中へ戻します(新鮮胚移植)。また、凍結しておいた受精卵を数カ月後に融解して子宮に戻すこともあります(凍結融解胚移植)。
 この治療法は、採卵数が多ければ受精卵を獲得できる可能性が高くなる半面、卵巣刺激の影響でホルモン過剰の状態となり、重篤な合併症を引き起こすこともあるため、慎重な管理が必要です。

相談しながら治療

 最初から妊娠率の高い生殖補助医療を希望する方もいますが、妊娠率の高い治療というのは費用がかかるだけでなく、体への負担も大きくなります。そのため、始めは一般不妊治療から開始し、結果が出なければ次のステップへ進むという流れになります。
 男性の方にお願いしたいのは、ぜひ病院へ足を運んでいただきたいということです。不妊症は一人ひとり原因やその程度、優先すべき治療も違います。女性から伝え聞くだけではなかなか理解できないことも多いと思います。担当の医師に直接会って、二人で説明を聞き、治療について相談していくことがとても大切です。
 次回は不妊治療が保険適用になることで考えられるメリットとデメリット、心配なことや周囲が気をつけるべきことについて話します。


不妊治療についてもっと詳しく知りたい方は、次のホームページを参考にしてください
日本生殖医学会 http://www.jsrm.or.jp/
日本産科婦人科学会 https://www.jsog.or.jp/

いつでも元気 2022.9 No.370

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