民医連新聞

2022年9月6日

気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ③脱炭素社会へ国内最大の課題 文:気候ネットワーク

 日本は温室効果ガスの削減目標を2030年に46~50%、2050年までに実質排出ゼロをめざすと宣言し、その後改定された「エネルギー基本計画」や「地球温暖化対策計画」にも示しました。しかし、2030年の削減目標が1.5℃目標に整合していないだけでなく、対策の具体化で排出構造の転換にも踏み込んでいないため、46%削減すら達成できないことが懸念されます。
 現在の日本の温室効果ガスの排出構造は、全体の約7割を産業界など大口の排出事業者が占めており、この構造は長年変わっていません()。特に全体の約3分の1を占めるのが火力発電所からの排出で、これを廃止できれば大幅な削減につなげられる分野でもあります。電力が再生可能エネルギーになれば、その他の産業分野でも「電化」によるエネルギー転換を実現できます。例えば、欧州はガソリン車から電気自動車への切り替えを急速にすすめていて、電源の再エネ化が実現できれば自動車からの排出もゼロになる、という具合です。
 火力発電所は、石油、石炭、天然ガスなどさまざまな発電所がありますが、そのなかでも石炭は炭素含有量が多いため、CO2の排出係数がもっとも高く、天然ガス火力の約2~2.5倍も排出します。そのため、1.5℃目標の達成には、先進国は遅くとも2030年までに石炭火力を全廃する必要があるとして、国連も対策をとるべき国にたびたび要請しています。
 その要請国の筆頭が日本です。日本は将来の「脱石炭」を宣言しておらず、昨年決定した「エネルギー基本計画」では、2030年の電源構成で石炭火力を19%も残すとし、国際社会で批判の的となりました。東日本大震災以降、新規石炭火力の建設がすすみ、現状で国内に石炭火力は169基(5254万kW)もあります。今後も新たに7基もの石炭火力が稼働する予定で、気候変動対策に逆行する異常な事態になっています。古い石炭火力の廃止計画もほとんどなく、政府の政策では、事実上の経営の補助にあたるような「容量市場」(次回、解説予定)が導入されたり、石炭火力にバイオマスやアンモニア燃料の混焼を促し、古い石炭火力の多くが延命されて、CO2を削減できない状況が続いています。「2035年までの電力の脱炭素化」は、G7サミットの合意文書にも盛り込まれましたが、その道筋が描かれていないのが、国内対策の最大の課題となっています。(桃井貴子)

 


気候ネットワーク

1998年に設立された環境NGO・NPO。
ホームページ(https://www.kikonet.org

(民医連新聞 第1767号 2022年9月5日)

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