民医連新聞

2022年9月6日

医師と経営課題の克服・前進を 第45期第1回評議員会開く

 全日本民医連は8月20~21日、第45期第1回評議員会をオンラインで開催し、評議員82人(予備評議員含む)と四役理事、会計監査、傍聴者など合計173人が参加しました。2月の第45回総会から半年が経過し、コロナ禍で地域住民のいのちをまもる活動や医師や経営分野にテーマを絞り、議論しました。(長野典右記者)

 山本一視副会長は「パンデミック下、いのちを守ることに全力をあげ、視線を外さず、国に要求することで運動に確信を深めよう」と開会のあいさつ。
 9月11日投開票の沖縄県知事選挙で二期目の当選をめざす玉城デニー知事が、連帯と全国からの支援を呼びかけました。
 増田剛会長はあいさつで、「新型コロナ感染症の第7波のなか、岸田内閣の対応はほぼ無策で成り行き任せ。患者の状況に応じて、必要な検査・治療を確実にできる体制を構築するために、地域での協議をすすめ、連携の強化が必要」とのべました。
 岸本啓介事務局長が理事会報告。第1回、第3回評議員会方針は全面的な提起ではなく、課題を絞って提案、議論することとし、今回は医師と経営の課題で、転換期にある情勢の共有、問題の克服と前進を、県連と法人の重点課題にすることを強調しました。医師分野については、国に社会保障費の抑制、医師の絶対数の抑制を反対方向に大きく舵(かじ)を切らせるたたかいなしには前進しないとのべました。経営分野は、コロナ禍での受診抑制や健診の大幅な減少、生活困窮がひろがるなか、多くの人びとの受療権が脅かされ、「人権と公正を掲げて行動する民医連の役割として、アウトリーチをさらにひろげ、患者、利用者の結集をはかろう」と呼びかけました。
 また、「戦争がなければ核兵器が使用されることもなく、必要もない」とし、第45期運動方針で確認した憲法を守り抜くことを今期の最大の課題として、学習と大運動の必要性を強調しました。

全体討論

 全体討論では、40の発言と12のフリー討論、文書発言が7つありました。
 千葉の宮原重佳評議員は、ウクライナ難民の健診を報告。4月以降、まくはり診療所では154人の健診を実施。診察室やレントゲン室、トイレにウクライナ語の案内表示を出しました。閉所や暗所、大きな音に過敏になっていましたが、健診がすすむにつれて笑顔を見ることができたと発言。
 奈良の山崎直幸評議員は、奈良県におけるコロナ対応の特徴について報告。今年4月に知事が入院のトリアージを急きょ変更したため、基本は自宅、施設での療養に。転倒で手術対応が必要な骨折の入所者の救急搬送も受入先が見つからず、いったん施設で見ることになった事例を紹介しました。
 大阪の坂田進評議員は、都市部で初期研修の定数が削減されるなか、耳原総合病院、西淀病院で定数増員に転じさせたとりくみについて発言。両院は9年連続フルマッチで、増員を申請。事前提出した調査票で研修の質などが評価され、2年前の定数9人に戻せた経験を報告しました。
 神奈川の星野俊平評議員は、老健「樹の丘」の経営改善のとりくみと今後の課題について発言。「樹の丘楽活(たのかつ)プロジェクト」を定め、全職員からの提案はすべて検討し、「できることはすべてやる」方針で、ナイト浴、アロマテラピーなど楽しい企画を実施。近くに法人内診療所があり、医療と介護の複合体の強みを生かし、在宅復帰めざす患者の利用につなげていく経験を報告しました。
 1日目の最後、ピースボート共同代表、核兵器廃絶国際キャンペーン国際運営委員の川崎哲さんが講演しました。
 討議の後、第1回評議員会方針案、2022年度上半期決算・会計監査、45期の選挙管理委員を満場一致で決定しました。
 山田秀樹副会長が、閉会のあいさつを行いました。

挑戦する民医連の実践 評議員会の発言から

情勢を切りひらくとりくみ

 沖縄・座波政美評議員は、9月11日投開票の沖縄県知事選挙について発言しました。
 7月29日、沖縄民医連は、県知事選挙勝利をめざす「全国連帯集会」を全日本民医連とともにオンラインで開催。集会には、全国の民医連職員はもちろん、辺野古新基地建設反対の立場を堅持し、知事選への立候補を表明している玉城デニー知事本人からもメッセージが寄せられました。座波さんは「全国の民医連職員、共同組織の心がひとつになれば、この選挙はかならず勝てる」と力を込めて「熱い支援を」と訴えました。
 福岡・佐賀民医連は、民医連外の法人・事業所などにも署名やアンケートを依頼し、情勢に関するリーフレットなども送付しています。同県連の田中清貴評議員は、このとりくみで「介護ウエーブ署名では、民医連外の事業所の管理者が熱心に署名を集め、民医連以上に集めてもらったこともあった」など、起こっている反応、変化を紹介。署名の返送とともに、賛同や実情を訴える声が添えられることも増えたほか、県連として、新型コロナウイルス感染拡大による医療経営への影響に関するアンケートや、看護職員処遇改善の署名とアンケートの協力をお願いしてきたことも話しました。
 北海道・佐藤秀明評議員は、北海道勤医協本部の青年職員が中心となって発足した「無料低額診療プロジェクト」の実践を報告。きっかけは「新型コロナウイルスの影響で、経済的に困難な人が増えているのに、なぜ無低診の利用が増えないのかという問題意識を青年職員と共有できたこと」。事例をもとに、漫画をツイッターやインスタグラムで発信。職員向けの学習会や、領収書の裏に無低診の案内を載せるなどの工夫も。
 この活動は、参議院選挙に向けた「選挙に行こう3分間スピーチ」のとりくみにつながりました。毎日の朝会で体験や思いを語るもので、「本部に来てすごいと思ったのは、困っている人や起きている問題をそのままにせず、行動を起こす先輩たちの姿。自分も焦らずに続けていけば、何かを変えられるかもしれない。選挙も同じ」などの思いが語られました。
 福井・奥村宗市評議員は、福井民医連が「事例から見えるSDHの視点」をテーマに開いた、社保事例検討会を紹介しました。検討会では9演題の報告があり、歯科の事例も。この歯科の患者は、被用者保険と併用している生活保護がもうすぐ打ち切られるとのこと。日給のため、収入が安定せず、生活保護打ち切りが治療中断につながるケース。無低診で対応し、治療を完了しました。
 奥村さんは、全日本民医連歯科部が作成した『歯科酷書』の積極的活用を訴えました。

119番がつながらない コロナ禍における在宅の現状

 東京・石田美恵評議員は、在宅における新型コロナウイルス感染症対応の実態を語りました。
 ある間質性肺炎の患者は一人暮らしで、生活保護を利用。39度の発熱があり、訪問看護師が救急車を呼ぼうと119番に電話しても20分以上つながりません。その後、なんとか救急車は手配できたものの、搬送先の病院探しで3時間。病院到着後も「発熱があるので救急車から出すな」、PCR検査で陽性がわかると「帰宅してほしい」と言われました。帰宅しようにも、介護タクシーなどを利用するお金はないため、知人にかけあって車で帰宅。帰宅後も熱はあがり、在宅酸素を使っても酸素飽和度は80%。再度119番に電話するもつながりません。幸い、新薬のラゲブリオが著効しましたが、一時は「在宅での看取りを覚悟した」と石田さん。
 石田さんは、国に対し、新型コロナウイルス感染症の在宅療養における困難の実態を明らかにする重要性を強調しました。

医師の確保と養成のとりくみ

 栃木・工藤鉄明予備評議員は、数年間で常勤医師を11人へと倍増させた経験を紹介。工藤さんは医師増の要因として「(1)職員全員での民医連医療を常に行っていること、(2)10年、20年先を見すえた医師数への危機感と対策を取ってきた」ことをあげました。
 国立病院との家庭医療後期研修プログラムのうち、1年間を宇都宮協立診療所で受け入れ、「職員全員で患者に寄り添い、考える民医連医療」にふれる時間をつくっていることも紹介しました。同プログラムを通じて入職した医師に理由を聞くと「医師もスタッフも、患者を取り巻く環境を含めて人を丸ごと見るという信念があり、実践している」「どんなに困難な患者でも真剣に向き合う指導医のもとで働きたいと思った」などの声が。奨学生(医学生)も増やし、前進しています。
 和歌山・佐藤洋一評議員は、8月15~17日に和歌山県立医科大学の主幹で開催し、のべ450人の参加で成功した「第65回医学生ゼミナール」(以下、医ゼミ)について報告しました。
 和歌山民医連は、再結成された同大の医療系サークル「みかんの会」(以下、会)の活動内容について相談に乗り、信頼関係を築いてきました。他大学の医ゼミスト(医ゼミに向けて学習を続ける学生)や医学連中央執行委員との橋渡しも行い、医ゼミの主幹に至ったことを語りました。
 「医ゼミ成功の大きなカギは、みかんの会の新入生歓迎活動が成功したこと」と佐藤さん。あわせて、会の再結成にかかわった研修医が現在、大学のローテート研修の一環として、和歌山生協病院で研修していることや、会のメンバーから医学連中央執行委員が誕生したことも話しました。
 京都・中川洋寿評議員は、診療所長養成のために実施してきた「所長セミナー」と「診療所セミナー」の2つのとりくみを紹介。
 所長セミナーでは、“組織にささえられている所長”という意識が生まれていることや、「現在の診療所像がわかった」などの声が出ています。
 診療所セミナーは、所長が他の診療所とも連帯感を持ってステップアップできるように、診療所の課題を話し合い、交流できる場として開催。「会を追うごとに内容も多様に、多職種が参加して議論する場となっている」と語りました。
 広島・佐々木敏哉評議員は、県連として四役、理事、委員会の女性比率の向上にとりくむこととし、県連のすべての委員会でジェンダーについての学習を行うこと、委員会やイベントを平日の業務時間内に実施し、時間も短縮することなどを方針にしていることを報告。理事会の女性比率も、現在の2割台から4割台への改善をめざしています。佐々木さんは、人権感覚を磨き、男性目線の医師労働の考え方や組み立てをあらためる働き方改革の重要性も指摘しました。
 北海道・小市健一評議員は、「医師政策の策定と実践」の中心的な企画として、昨年12月よりオンラインで開催している「医師の未来づくり会議」について発言。「みんなして未来の話をしよう」とのスローガンを掲げ、全道の医科法人・9病院の現状と課題を知り、医師政策づくりにつなげることを目的として行っていることを紹介しました。

職員の力を集めて経営改善

 大阪・河原林正敏評議員は、同仁会について「昨年度、純利益で27億円と法人史上かつてないほどの黒字を確保し、債務超過を1年早く解消できた」と報告。その要因として、コロナ関連補助金とともに、「コロナ対応という地域における当面の切実なニーズに正面から向き合った成果」でもあり、その証左として「補助金とは関係ない事業の損益でも黒字を確保できた」と語りました。
 また、5年後、10年後を見すえた中長期の医療・介護構想の具体化をすすめることが重要と語り、コロナ後の地域の医療・介護のニーズもみきわめ、「医療・介護事業の展開を変化」させていく必要性を強調しました。
 山梨・内田芳枝評議員は、山梨勤医協の経営改善の実践を報告。2021年度は上半期で対予算比マイナス1億3000万円の到達。この現状を打開するため、10月に管理者を集めて集会を開催しました。「各事業所の到達と法人全体のリアルな経営状況を伝えた」ことで、職責者が危機意識を持つきっかけに。ある病院では、管理部が師長会、主任研修会、医事課職員などに「地域医療を守って行くためにも、自分たちが奮起することが必要だ」とくり返し訴え、病床稼働率の向上などにつなげたことを発言しました。

(民医連新聞 第1767号 2022年9月5日)

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