民医連新聞

2022年9月20日

相談室日誌 連載526 石綿ばく露の労災申請 家族と軌跡をたどって(東京)

 入院相談時に受け取る、診療情報提供書の診断名から「石綿ばく露が原因? 労災申請は?」と思う人がいます。
 Aさん(80代)もそのひとりでした。「石綿肺+びまん性胸膜肥厚」と診断。Aさんに尋ねると、「就職した時に、職場でアスベストは取り扱っていたが、会社からは何も聞いていない。連絡の取れる同僚はもう誰もいない」と、酸素を導入している状態のため、息を上げながら話しました。
 家族は、「アスベストという言葉も聞いたことがない」といいます。石綿による疾病の労災認定の可能性を伝えたところ、「できるだけのことはやりたい」と話し、60年以上もさかのぼっての確認となることが想定されました。そのため、患者団体の「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の協力も得ながら、すすめていくことの了解を得ました。
 その後、当時の業務記録が20数冊見つかったことや、コロナ禍であるためオンライン面会も駆使して、職歴とばく露歴の確認を続けました。60年前の業務記録を慎重に扱いながら、石綿ばく露が疑われるページを家族とともに探し出し、Aさんの発言と記録をもとに家族の会の支援者の協力で、自己意見書を作成し、労働基準監督署へ提出しました。
 Aさんの軌跡を家族とともにたどるなかで、Aさんが誇りを持って仕事に従事していた姿が思いうかびました。
 Aさんのように何も知らされず、知らないままに晩年になって石綿肺を発症する人の数は計り知れません。また、労災を申請するまでにどれだけのものを証明しなければならないのか。その把握も本人や家族だけでは極めて難しいことと思います。そのためにもまずは、疑い患者を見過ごすことのないよう、そして、申請を成し遂げられるまで励まし、ともにとりくむことが必要であることをあらためて認識しました。
 Aさんの申請の結果はまだ届いていません。結果を報告できないままAさんは先月、家族に見守られ、静かに息を引き取りました。遺志を引き継ぎ、被害者救済のため、家族の支援は今後も続きます。

(民医連新聞 第1768号 2022年9月19日)

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