民医連新聞

2022年9月20日

診察室から 産婦人科医の憂うつ②

 当院がある埼玉県川口市は、2020年6月、在留外国人が多い市町村ランキング第1位です。人口60万人に対し約4万人の外国人が暮らしています。中国、ベトナムのほか、特異なところではトルコから来たクルド人が多いことです。産婦人科の診療もその影響を色濃く受けています。コロナ禍でベトナムの技能実習生が妊娠し、誰にも相談できずに週数がすすんでしまい、支援団体の人と駆け込んできたこともありました。
 クルド人は国を持たない最大の民族と言われ、トルコ、イラン、イラクなどにまたがって暮らしています。トルコで政治的に迫害を受け、国外に逃れてきているのです。川口周辺に約2000人が集まり、日本にいるクルド人の8割を占めると言われます。日本の難民認定は19年時申請1万375人に対して44人=0・4%と極めて厳しく、ほぼ絶望的(ドイツ26万人=41%、フランス2万4000人=21%、アメリカ2万人=62%)。却下されると収容施設に拘束(国連人権規約違反との指摘あり)されますが、一定の条件下で収容を停止され、「仮放免」という状態で生活しています。仮放免では就労が禁止され、健康保険証もありません。その中でも男性は解体業などの日雇いで生計を立て、女性は10代で結婚して妊娠する人が多くいます。
 仮放免の人は妊婦健診の公費負担も適用されません(「仮滞在」者の場合は保険証があり公費負担も適用)。入院にあたっては、自治体の判断で入院助産という公費負担の制度が適用されることがほとんどですが、適用されずに緊急帝王切開となり自費負担が100万円を超えてしまう人もいます。産まれてきた子どもたちは義務教育までは受けられますが、高校に進学しても就学支援金などは対象外な上、卒業後も就労が許されず貧困が連鎖してしまいます。
 外国人の人権はその国の人権レベルのバロメーター。日本政府の人権意識の希薄さにがく然とし、産まれた子どもたちの未来を思い、憂うつを抱えています。
(芳賀厚子、埼玉協同病院)

(民医連新聞 第1768号 2022年9月19日)

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