民医連新聞

2022年10月18日

「たたかう経営」 経営課題にどう立ち向かうのか

 民医連が医療・介護事業を続ける上で、基盤となる経営。この間はコロナ禍や物価高騰、国の社会保障費削減政策の影響などで、さまざまな問題が浮き彫りになっています。民医連の経営課題と、今後求められるものを取材しました。(稲原真一記者)

物価高騰に地域で連携

 物価やエネルギー価格の高騰は、診療報酬で成り立つ病院経営にとって大きな影響があります。8月23日、長野・健和会病院では地域の病院と連携して、新型コロナ対応や物価高騰対策を求め、飯田市と懇談しました。同病院事務長の福澤敏惠さんは「理事会で『他の病院も状況は同じはず。いっしょに運動できないか』と提案があった」とふり返ります。
 同病院でもっとも影響が大きいのは電気料金で、冬期に向けて電気会社の試算表から、最大月500万円、年間3700万円の負担増が予想されます。他にもさまざまな値上げが影響し、「8月の事業収益は予算通りだったが、経費の大幅増で大きな赤字になってしまった」と福澤さん。
 同じ飯田市にある飯田病院、輝山会病院、飯田市立病院に懇談への参加を呼びかけたところ、飯田市立病院を除く2病院から「まったく同じ状況、ぜひ参加させてほしい」と快諾が得られました。飯田市立病院は立場上難しいとの返答でしたが、後日、「気持ちは同じ」との言葉が。
 懇談は当初、市長が対応予定でしたが日程が合わず、担当部長が対応しました。「想像以上の負担だとわかり、理事者や県に伝えたい。3つの病院が合同で要請されたことには、率直に驚いている」と反応がありました。
 その後、県連から県へ働きかけたこともあり、9月の県議会で1病床あたり2万円の補助金が予算化されました。福澤さんは「医療や介護は経費増でも価格転嫁できない。物価高騰前に決められた診療報酬では、水光熱費を賄うには到底足りず、公的な支援が必要」と指摘します。今後は市の医師会なども巻き込み、運動をさらに大きくする必要を感じています。

薬剤師業務に適正価格を

 近年、外来患者の減少や長期処方の増加の影響で、保険薬局の処方せん量は徐々に減少していました。そこにコロナ禍が直撃し、処方せん量は一気に15~20%減少。2021年度からは薬価の中間年改定が始まって、毎年5%以上の薬価引き下げが行われ、薬価差益()が大幅に減少しました。群馬保健企画の代表理事の野口陽一さんは「私の法人でも、20年度から21年度で薬価差益は約2600万円減り、事業収益の1%以上の減収。これが毎年続けば経営が持たない」と言います。
 19年度の消費税増税の影響も大きく、診療報酬では多少の引き上げがありましたが、コロナ関連の補助金は1事業所あたり20年度が最大70万円、21年度は7万円。減収分の補てんにはほど遠いのが現実です。物価・エネルギー価格の高騰や後発医薬品の供給不安定化が、薬の仕入れ値の増加や価格交渉の困難も引き起こしています。
 経営改善に向けた対応では、処方せんが減少した分、人員を対人業務に振り向け、さまざまな加算や在宅への対応など、経営の効率化をはかることが必要だと言います。対人業務は薬剤師の技量を引き上げ、患者や地域からの信頼で、処方せんの増加も期待できます。民医連の統一会計基準に則った経営、中長期計画の策定も大切です。
 「コロナ禍で奮闘している薬局や薬剤師業務を評価し、適正な技術料にしてほしい」と野口さん。薬価差益に左右される経営ではなく、薬剤師の技術料で成り立つ制度を求め、民医連としても訴えていく必要があります。

真の処遇改善が必要

 10月から診療報酬での対応になる看護職員の処遇改善。対象が新型コロナ対応をした一部の急性期病院のみの内容で、「職員間に分断と不団結を持ち込むもの。患者負担での処遇改善もおかしい」と指摘するのは、鹿児島医療生協専務理事の福峯清行さんです。
 同法人は、今年2月に国の処遇改善の補助制度について理事会で議論し、「対象外の職員が多数いるなど、現場の思いをくみ取らない不誠実な制度なので利用しない」と決定。経営協議会で労働組合に議論と決定の趣旨を説明し、理解を求めました。一方、コロナ禍で職員が奮闘してきたことに対しては、全職員一律で特別手当を支給すると決めました。この議論をもとに9月の理事会で、10月からの診療報酬での対応も行わないことを確認。労組にその意向を伝えました。
 同法人看護部長の本村隆子さんは、「医療に限らず多くのケア労働者は、社会生活を維持するため、制限のある生活を強いられてきた。職員間に差をつける国のやり方には憤りを覚える。処遇改善をいうのなら、すべての職員に行き渡る制度で」と訴えます。
 福峯さんは「職員の処遇を決めるのは理事会や法人だが、その前提になる診療報酬や介護報酬が上がらなければ、経営や処遇の改善もない」と言います。鹿児島民医連は、今年2月と9月に、国へ制度改善の意見を上げることや、独自の処遇改善制度を求めて対県交渉しました。「コロナ禍の分断を乗り越え、現場の声を政策に反映させる運動が必要」と福峯さんは強調します。

地域要求に応え前進

 コロナ禍で前進している法人もあります。「この2年半、地域の1番の要求は新型コロナ対応だった」とふり返るのは、大阪・同仁会専務理事の森高志さん。一方で、新型コロナ対応が通常診療に与える影響は大きく、同法人の基幹病院の耳原総合病院でも、「新型コロナ対応にどこまでかかわるのか」と議論が起こりました。
 医局や各部門内で対応について議論し「発熱や新型コロナ疑いも含め“断らない救急”の実践が、通常診療を守ることにもなる」と方針を決めました。森さんは「この時の議論があったことで、その後の感染拡大を乗り切れた」と指摘します。多数の在宅死が出た昨年4月の第4波では、診療所や介護施設とも方針を共有し、法人全体で新型コロナ対応と通常診療の両立をめざして奮闘しました。
 また同法人では、地震災害を想定したBCP(事業継続計画)を作成しており、コロナ禍ではそのBCPを準用して組織体制を決定。法人内のどの事業所で感染が起きても、すぐに専門の看護師や医師を総合病院から派遣し、クラスターを長期化させなかったことが、経営的な損失も抑えました。
 21年度、同仁会は新型コロナ関連補助金を除く事業損益において、5億5000万円の黒字で予算を超過達成。森さんは「地域要求に応え、通常診療と新型コロナ対応の両立を追求したことが、結果につながった」と分析します。
 コロナ禍を通じて地域の公的医療機関や救急隊、保健所などの行政と連携も深まり、発熱外来では多くの新患が生まれました。森さんは「これをどう生かしていくかが大切」と今後を見据えます。

民医連の原点に道はある

 民医連の医科法人は、20年度、21年度と過去最高の経常利益を記録。しかし、新型コロナ関連の補助金を除けば、大幅な赤字経営が実態です(図2)。医業収益にもコロナ関連の収益が含まれ、収支構造が見えにくくなっています。「経営実態を掴(つか)むには多面的な分析力と経営管理が必要。コロナ後も見据えて、経営実態を評価・認識できることが経営改善に立ち向かう大前提」と語るのは、全日本民医連経営部長の塩塚啓史さん。
 補助金を除いても好調な法人は「経営管理を強化し、地域、患者、他の医療機関からの要求に正面から応えていることが特徴。地域とともに歩んできた民医連運動の原点にしっかり立つことが、経営改善への道」と強調します。
 日本の病院の約7割は赤字経営で、民医連医科法人も経常利益率が1%にも満たないのが実態です。医療経営をささえる診療報酬の圧倒的な不足は明らかです。
 他方、コロナ禍で新たな地域連携も前進しています。「医療・運動・経営のすべての側面の“オール地域”の視点での本格的前進が必要」と塩塚さん。「物価高騰対策の追加交付金推奨事例に、『医療等』を明示させたのは運動の成果」としながら、「このままでは、各自治体で援助額に差が生まれることは明らかで、国が一律の基準で支援を行うよう、自治体も巻き込んで運動をひろげることが必要」と訴えます。

※薬価差益
 薬の仕入れ値と薬価(公定価格)の差で生まれる利益のこと。

(民医連新聞 第1770号 2022年10月17日)

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