民医連新聞

2022年10月18日

いのちとケアが大切にされる社会へ⑥ 介護現場からみる第7波 救えたいのちが犠牲に

 ピーク時、新規感染者数1週間平均が全国で22万人を超えた新型コロナウイルス感染症第7波。介護の現場では、何が起きていたのか―。東京の居宅介護支援と施設介護の現場で話を聞きました。(丸山いぶき記者)

居宅介護支援の現場で――

ハイリスクでも入院できず 119番がつながらない
東京ケアサポートセンター千住

 「発熱と息苦しさでもうろうとするなか、救急隊から『入院はできないと思う』と言われた。それでも、どこか期待していた。まさか、本当に入院できないなんて」
 そう話すのは、7月末に在宅で新型コロナウイルスに感染したAさん(69歳)です。肺気腫と間質性肺炎により、普段から在宅酸素を使用。居宅介護支援、生活保護を利用しながらのひとり暮らしで、肝硬変からくる腹水が肺を押し上げ、常に息苦しく、他に糖尿病と高血圧症も患っています。
 7月29日、Aさんは39度近い発熱と呼吸苦を訴え、往診医の指示で訪問看護師が20分以上119番に電話して手配した救急車で搬送されました。しかし、救急隊がようやく見つけた搬送先では救急車から降りることも許されず、PCR検査で陽性が出ても入院できず、自力で帰宅するように言われました。最初の救急要請から4時間以上、介護タクシーを営む友人の助けでなんとか帰宅するも、酸素飽和度88~90%、手足が震え在宅酸素電源が押せないほどの状態。訪看とケアマネジャーで相談し、疾患的ハイリスクであることから再度救急要請しましたが、1時間以上119番を鳴らし続けても、つながりませんでした。
 幸い救急搬送先で処方されたラゲブリオが著効し、次第に回復しました。「俺も、もうダメだと思った。必要なときに入院できる体制であってほしい」とAさん。

* * *

 ケアサポートセンター千住の石田美恵さん(ケアマネジャー)は、Aさんの事例を今年8月の全日本民医連第1回評議員会で報告し、「在宅療養の困難にも目を向けて」と訴えました。「独居高齢者に最後まで寄り添う訪問看護・介護、支援の隙間を埋めるケアマネの実態を伝え続けないと、行政は動かない」と石田さん。

クラスター介護施設では――

高齢者の「生活の場」を病床の補てんとして見ないで
東京・特別養護老人ホーム 葛飾やすらぎの郷

 特養・葛飾やすらぎの郷では、7月21日~9月7日の間で入居者92人中71人、職員27人が新型コロナウイルスに感染する、初めてのクラスターを経験しました。
 入院できたのはわずか1人。高熱、酸素飽和度93%以下、食事・水分摂取困難の著しい入居者を重度者として入院要請しても、入院どころか酸素ステーションやコロナ臨時医療施設にも入れません。救急車を呼んでもどこにも搬送できないため、患者を乗せずに帰っていったといいます。
 施設長の天野義久さん(介護福祉士)は、「施設内療養では在宅酸素や点滴が限界。これ以上何もできない状態のなか、入居者3人が亡くなった。見守った職員はもちろん、感染療養で現場を離れていた職員もそれ以上にショックを受けていた」とふり返ります。
 次々に感染し、ピーク時には職員は通常の半分に。入浴は清拭(せいしき)に切り替え回数を減らし、尿とりパッドはすべて夜間用に、食事の1食はチューブ式ゼリーで代用するなど、管理者の指示で業務を縮小しても、なお職員が足りず、さらなる対応を迫られました。

■職員の笑顔が救いに

 なかには、他人のマスクを食べてしまう認知症入居者も。同施設がユニット式ではなく、各階とも中庭を見下ろす開放的な回廊式だったことも、感染対策を妨げました。認知症入居者はゾーニングのバリケードを突破。結局フロア全体をレッドゾーンにして、職員は常時、感染防護具を着用することになりました。
 介護部長の福留孝枝さんは「真夏に換気して、滝のような汗をかきながら1日中ガウンで介護。何よりそれがつらかったという職員が多い」と言います。そんななかでも職員は時に笑い合い、「暗い雰囲気にはならなかったことに救われた」と福留さん。
 事務長の小又維鎮(しげやす)さんは訴えます。「認知症入所者の生活の場で感染症対応は無理。介護施設を病床の補てんとして見ないで」。

(民医連新聞 第1770号 2022年10月17日)

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