民医連新聞

2022年11月8日

私がここにいるワケ 送迎から見えてくる患者、社会、そして連帯 東京・柳原腎クリニック 木村 尚武 さん 車両課運転手

 民医連で働く多職種のみなさんに、その思いを聞くシリーズ2回目は、日々、透析患者を送迎している、東京・柳原腎クリニック車両課の木村尚武さんです。(丸山いぶき記者)

 同クリニックでは、患者の状態に合わせた無料送迎サービスをしています。車両課職員は8人(2022年10月現在、常勤3人、パート5人)、始業は午前6時半です。車いすの患者2人がそのまま乗り降りできるリフトを備えた大型の特殊車両4台と、乗用車、計5台を駆使して毎日5コース、5人がワンマンで乗務して、患者宅の玄関先まで送迎しています。
 木村さんは運転手として働き始めて6年余り。以前は診療所の医事課で勤務した経験もあります。「こちらに来て、患者さんの家まで行って、初めて見えてくることがあると知った。朝一番に会うのが運転手という人もいる。私たちは技術系専門職ではないけれど、感じることは多い」と話します。

■運転手に語る患者の本音

 送迎車への乗り降りの際などに、患者の身の上話や「透析治療がつらい」「本当は毎回、針を刺されるのが怖い」「水分摂取コントロールに失敗した」「入院したくない」といった声も聞きます。
 患者のほとんどは週3回、月・水・金曜日か火・木・土曜日のサイクルで、1回につき平均4時間かかる透析治療を受けています。
 「前回の透析から丸1日以上空いているので、みなさん、朝はかなり体調が悪そう」と木村さん。
 以前は車まで歩けていた人が、車いすになり、入院をくり返すようになるなど、あっという間に状態が悪くなっていくさまを見てきました。「技術が進歩したとはいえ、治らない上にだんだん悪化する病気とずっと付き合っていく。治療へのモチベーションの維持も難しい。素人目にも大変な病気だと感じる」と話します。

■余裕がない社会

 送迎を利用するのは、60~90代の高齢者。なかにはアパートで独居、訪問介護サービスや生活保護を利用している人もいます。
 交通状況によっては、送迎時間が遅れることもあります。そんな時、持ち家で家族が待っていてくれる患者は、比較的寛容です。
 しかし、特に独居で訪問介護を利用して生活している患者は、敏感になります。「送迎時間に合わせて予定が組まれていて、遅れればその分、身体介助や生活援助を受けられる時間がなくなるから。制度上、受けられる介護サービスが限られてきていて、ご本人も、提供者側にも余裕がない。送り迎えをしているだけでも、“ギリギリ”を痛感する」と木村さん。
 また、「すれ違う医療・福祉系の送迎車両の運転手は、年配の人が多い。職場でも47歳の私が一番の若手。パートの人はみんな60代」だといいます。高齢になっても働かなければならない現実が、身近にある職場でもありました。

■民医連の仲間とともに

 差額ベッド代を徴収せず、無料低額診療事業にもとりくむ東京・健和会グループの事業所として、「私たちも、その理念を強く意識して乗務している」と木村さん。
 他院で断られた人や生活困窮者にも、「その人をまるっと受け入れ、日曜以外は祝日関係なく稼働して、生きていくために不可欠な医療を提供している専門職の思いに応えたい」と話します。
 同時に、「医療・福祉のフィールドはすごくひろくて、特に民医連は清掃や配食サービスまで、さまざまな職種が連携してささえている。厳しい医療情勢のなか、必要なら事業を立ち上げ、地域に求められる医療・介護を提供し続ける民医連ならでは」と木村さん。
 当紙にも積極的に投稿を寄せ、特にコロナ禍、機関紙を通じて仲間の存在に、励まされているといいます。「私も、医療現場では自粛生活が続いているのに…と、家族や世間との認識のズレを感じる。紙面で同じ気持ちでいる人をみつけるとうれしい。大変だけど、がんばりましょう」。

(民医連新聞 第1771号 2022年11月7日)

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