声明・見解

2022年11月4日

【会長声明2022.11.01】さらなる負担増・給付抑制を進める介護保険改定案の撤回、及び介護保険財政の抜本的な見直しを強く要請する

2022年11月1日
全日本民主医療機関連合会
会  長  増田  剛

 厚生労働省は 10月31日、介護保険制度の次期改定に向け、「給付と負担の見直し」に関する論点を社会保障審議会・介護保険部会に正式に示した。この間の「骨太方針」、財務省の「建議」、改革工程表などを下敷きに、「一定以上所得、現役並所得の判断基準(利用料負担)」、「要介護1、2の生活援助サービス等に関する給付のあり方」、「ケアマネジメントに関する給付のあり方」、「施設多床室における室料負担」、「補足給付に関する給付のあり方」などが論点として挙げられている。
 このうち利用料負担については、現行の「一定以上所得」「現役並所得」の判断基準額を引き下げることによって、利用料2割負担、3割負担の対象をそれぞれ拡大することが提案されている。現行の1割負担においても経済事情によって必要なサービスを利用できないケースが後を絶たない中、さらなる利用料の引き上げが介護サービスの利用控えを加速させ、世帯の生活を後退させることは確実である。私たち民医連の調査でも、「今でも年金だけでは足りず介護者が負担している。利用料が2割になるとサービスを利用できなくなり、自宅では看れないことになる」「物価が上がり、年金は増えない中で利用料が引き上げられれば、生活はさらに厳しくなる」などの切実な声が寄せられている。
 要介護1、2の生活援助サービスを総合事業に移行させる案が示されているが、総合事業に移されることによって提供されるサービスの量、質が低下し、これまでの在宅生活を維持できなくなる事態が広がることが予測される。特に要介護1、2の認定理由の多数を占め、初期の段階から専門職の支援を必要とする認知症の高齢者・家族に困難が集中することになる。そもそも各市町村において総合事業の整備自体が進んでいない中で、非現実的な提案をいわざるを得ない。
 「ケアマネジメントに関する給付のあり方」の見直しでは、ケアプランへの自己負担導入が提案されている。介護保険の「入り口」に費用負担を組み入れることは、認定を受けても経済的な事情によりケアプランを作ることができない、ケアプラン作成の前段階での様々な相談支援を受けられないなど、介護保険制度自体にアクセスできず、最初から排除されてしまう高齢者を大量に生み出すことになりかねない。
 その他にも、施設多床室での室料徴収の対象拡大(特養だけではなく老健施設、介護医療院においても室料を徴収する)、昨年8月から資産要件、食費が見直され、施設入所の継続に深刻な影響をもたらしている補足給付(市町村民税非課税世帯を対象とする施設居住費・食費の負担軽減制度)のさらなる見直しなどが提案されている。
 これらはいずれも大幅な負担の引き上げと給付の抑制を図る内容であり、コロナ禍や物価高騰のもとで苦しんでいる利用者・高齢者にさらなる困難を強いるものである。また、費用負担の見直しについて、対象となる利用者・高齢者が果たして負担可能なのか、その十分な検証が行われないまま提案されている点も重大である。今回示された「負担と給付の見直し」案を撤回することを強く求める。
 合わせて、新たな論点として高所得者の1号保険料の引き上げが追加された。高齢者の介護保険料(基準額の全国平均)は、スタート時の2,911円から、現在(第8期)は6,014円と倍以上となっており、年金の減額や医療費等が引き上がる中、高齢者の介護保険料の負担はすでに限界に達している。介護給付費に連動して介護保険料が上昇していく仕組みのもとで、このままでは介護給付費の増大に見合った介護保険料の引き上げが困難になるという、保険財政の維持が困難になる事態が生じかねない。介護保険料の上昇を抑えるためには介護保険財政の抜本的な見直しが必要であり、国庫負担の割合を大幅に引き上げ、高齢者の負担割合を圧縮することは、「払える保険料」の設定を可能とする上でも、また制度の持続可能性を確保し、今後増えていく介護需要に応えていくためにも不可欠な課題であると考える。「高額所得者の保険料の引き上げ」という一時凌ぎの対応策にとどめず、今回の改定を機に、介護保険財政(公費・保険料の構成割合)を抜本的に見直すことを要請する。

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