民医連新聞

2022年12月6日

診察室から 人にやさしいデジタル

 みなさんは、話した言葉が素早く文字に変換され、タブレットなどの画面に大きな文字で表示される、スマートフォンのアプリがあることを、ご存知でしょうか。
 当院では、聴覚障害のある患者が多く受診します。そのうちの多くの人には、診察に手話通訳者が同席しますが、なかには一人で受診する人もいます。本当は、私が手話を使って会話をすることができればよいのですが、現実には手話を学ぶ余裕がありません。そこで、冒頭のアプリを使うことを思いつきました。
 これによって、こちらの伝えたいことを患者に伝えることは可能になります。逆に、患者がこちらに言いたいことを伝えてもらうのは難しいのですが、医師が検査結果を説明する場合など、場面によっては筆談よりスムーズに意思疎通することができます。診察中にアプリを使用した聴覚障害者のなかには、笑顔でOKサインをつくって喜んでくれた人もいました。
 私は、聴覚障害者の人の診療が楽しみです。それは、彼らの豊かな感情表現に力をもらえるからです。しかし、現実には聴覚障害者の診察に長く時間を割くことは難しく、不十分な意思疎通になることも多いと思います。このアプリは、患者にとっては医師の説明を短時間で理解できる、医師にとっては会話にかかる手間を減らし、余裕を持って診察ができる、という2つの作用で、両者を笑顔にする手助けをしてくれます。
 医療現場では、デジタル技術の活用は「全」か「無」か、の議論になりがちですが、まずやってみて、問題があれば修正する方が、うまく導入できるように思います。その際に大切なのは、目的を明確にすること、そして、その目的が患者であれ、スタッフであれ、誰かの負担を減らすものになっているか、そこがポイントだと思います。
 私は、聴覚障害のある人が笑顔で診察室を出ていくことができるようにと願いながら、今日もタブレットを持って診察に向かいます。(和田陽介、兵庫・ろっぽう診療所)

(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)

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