民医連新聞

2022年12月6日

いのち、暮らし脅かす介護保険制度の第改悪

 「介護の社会化」をかかげ、2000年に始まった介護保険制度。これまでも度重なる制度改悪が行われてきましたが、今さらなる大改悪が議論されています。政府のねらいとあるべき制度の姿とは。(稲原真一記者)

負担は増、給付は減

 介護保険制度は3年に1度、大きな見直しが行われ、次は2024年です。政府内では、すでに見直しの議論がすすんでいますが、その中身は負担増が目白押しです(表1)。特に大きな影響があると見られるのは、「利用者負担の原則2割化」「ケアプランの有料化」「要介護1・2の総合事業への移行」の三大改悪です。
 介護保険の利用者負担は制度開始当初、原則1割負担でした。しかし、介護保険の利用がひろがるにつれ「制度の持続可能性」を口実に、負担割合を増やしてきました。所得上位層には、15年に2割負担を、18年に3割負担を導入。そして今、原則2割化や2、3割負担の対象者拡大までねらわれています。また現在、ケアプラン作成は自己負担なしで利用できます。これは専門知識を持つケアマネジャーが利用者の適切なサービス利用を保障するためで、制度開始から維持されてきました。もし有料化されれば、利用控えの増加や、本当に必要なサービス利用ができなくなると、多数の関係者から懸念の声が上がっています。
 総合事業は地域住民のボランティアなどによって運営され、公的な介護保険制度とは内容・質ともまったくの別物です。すでに要支援1・2の訪問介護、通所介護は移されており、政府は要介護1・2のサービスまで対象をひろげる検討をしています。露骨な給付削減のサービス外しであり、「軽度者」の重度化も危ぶまれます。

保険あってサービスなし

 全日本民医連は、9~10月に現在1割負担で介護サービスを利用する人を対象に、介護保険・利用料負担の見直し案に対する緊急調査を実施。施設入所者への調査では、負担増になれば「施設を退所する、もしくは退所を検討する」が13%。在宅サービス利用者では、「サービスの利用回数や時間を減らす」「サービスの利用を中止する」などとした人が、合わせて30%もいました(図1・2)。
 自由記載欄には利用者や家族から、「2倍になって利用料が払えなくなれば退所せざるを得ず、家族と共倒れになるしかない」「すでに年金だけでは支払えず、子どもに頼っている。負担が増えれば子どもの生活にも支障が出る」など深刻な声が寄せられています。
 介護保険料も年々値上がりしており、65歳以上の人の保険料は月額約6000円と、制度開始当初の2倍以上になっています。影響調査からは、それだけの保険料を払っても、次の改悪でサービスを受けられない人が多数生まれることが予想され、まさに「保険あってサービスなし」の制度になろうとしています。

社会保障の充実こそ必要

 11月22日、中央社保協、全日本民医連、全労連が合同で、「介護保険制度の改善を求める11・22署名提出行動」を衆議院第2議員会館で行いました。署名は、介護保険制度の改悪の中止、介護従事者の処遇改善、コロナ対応の強化、国庫負担割合の引き上げなどを求めています。全国から13万7638筆が集まり、会場に駆けつけた賛同する国会議員に手渡しました。
 オンラインで発言した新婦人神奈川県本部の原綾子さんは、地域で負担増にひろがる不安の声を紹介し、「介護保険料は死ぬまで払うのに、サービスが受けられないなんておかしい」と訴えました。
 政府は「全世代型社会保障」の名で「社会保障費の増大が財政悪化の原因。高齢者偏重の給付を見直す」と、世代間対立をあおっています。しかし、高齢者も含め、日本の社会保障支出は先進国で最低水準です(表2)。
 全日本民医連事務局次長の林泰則さんは「給付費が保険料に跳ね返る仕組みや、低すぎる国庫負担が問題。いまこそ軍事費ではなく、社会保障費の増額が必要」と指摘します。

(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)

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