いつでも元気

2023年1月31日

コロナ禍の民医連病院

文・新井健治(編集部) 写真・酒井猛

 新型コロナの第8波のなか、全国で医療機関と介護施設の奮闘が続いています。
 石川県内で最も多く発熱患者が受診する民医連の城北病院(金沢市、300床)は陽性と診断され帰宅手段のない患者を無償で送迎しています。

 新型コロナ第7波のピーク時(昨年7~8月)、城北病院には大勢の患者が押し寄せた。陽性患者数は7月が717人、8月は877人と県内で最も多かった。
 「発熱があると診てもらえない」「予約が必要」「電話してもつながらない」という状況のなか、同院は予約なしで夜間の救急でも対応。金沢市内のある保育園では、「発熱したら城北病院へ」というプリントが保護者に配られたという。
 検査後に陽性と分かると、患者はバスやタクシーなど公共交通機関を使えない。そこで困るのが帰宅手段。家族や知人がいれば送迎してもらえるが、独居や夫婦のみの高齢者、単身の若者は自力で帰らなければならない。
 城北病院は昨年7月から、こうした帰宅困難患者の送迎を無償で始め、11月までで23人を送迎した。患者の年齢は10代から90代まで、土日や祝日、深夜や早朝の時間帯も。9月8日は修学旅行中の中学生(15歳)を午前1時にホテルへ送迎。9月11日は日曜日にもかかわらず、午前5時と午後10時、ともに88歳で独居の高齢者をそれぞれアパートまで送迎した。
 送迎は事務管理職の当番が交代で担った。事務長の西村昭郞さんは「夜間や早朝に呼び出される職員も辛いが、呼び出す方の職員も辛いと思う」と振り返る。
 帰宅困難患者に対する他の医療機関の対応は不明だが、城北病院では陽性と診断された患者に必ず帰宅手段を聞く。送迎の際、職員は厳重に防護服を着て運転し使用した車は消毒しなければならない。それでも送迎するのは患者を黙って帰すわけにはいかないから。
 「本来は行政が対処すべき問題。職員からも『民医連らしいと美談で終わってはいけない』との声も出ています」と西村さん。

記者会見で現場の声

 昨年8月のお盆明け、城北病院の発熱外来には1日100人の患者が受診した。救急外来看護師長の崎山真古都さんは「朝から晩まで発熱患者の対応。いったいいつまで続くのかと、疲弊感が募りました」と振り返る。
 7月中旬には病院でクラスター(集団感染)が発生。入院ベッドを確保できず、「断らない」を掲げていた救急搬送を断らざるを得ない事態も起きた。「毎日、毎日、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」と崎山さん。
 石川民医連は昨年8月25日に県庁で記者会見を開いた。「第7波下で医療・介護の現場は限界!」と書いた横断幕をバックに、医療機関や介護施設の厳しい現状を訴え、県に対策の強化と財政的な支援の拡充を要望。当日の様子はNHK金沢で放映された。
 記者会見に出席した城北病院の大野健次院長は「発熱外来がごった返し、初診の患者をお断りせざるを得ない」と話した。家庭内感染や濃厚接触による医療・介護従事者の人員不足、介護施設では陽性患者が入院できない問題も指摘した。
 一般の医療機関や介護施設がなかなか声を挙げられないなか、民医連は各地でこうした会見を開き自治体に要望書を提出してきた。
 神奈川県横浜市では、戸塚病院の住岡智子さん(総看護師長)が帰宅困難患者の問題にいち早く気付き、市議会議員を通して同市に要望。市は2020年12月に、シールドなどを付けた感染対策用の移送車両を20台確保した(当時、現在は変更)。

城北病院の発熱・風邪専用待合スペース

城北病院の発熱・風邪専用待合スペース

物価高への対策を要望

 コロナ禍のなかでも、共同組織は工夫を凝らして活動を継続してきた。石川県健康友の会連合会金沢北ブロック副責任者の桑原和子さんは「病院に協力しようと感染対策を徹底するとともに、健診の受診者を増やす努力もしました」と振り返る。
 病院は地元で「城北さん」の愛称で知られ、住民の信頼も厚い。帰宅困難患者の送迎も「目の前に困った人がいたら、放っておけないという病院の姿勢そのもの。こういう人はたくさんいるはず。友の会も一緒になって県に対応を呼びかけていきたい」と語る。
 帰宅困難患者の問題では、記者会見の効果で一定の前進があった。ホテル療養に移る陽性者のタクシーを保健所が手配、透析患者の移動の際は県が送迎手段を確保するが、根本的には解決していない。
 コロナの第8波とともに、物価や光熱費の高騰で、医療機関の経営がひっ迫している。全国的には補助をする自治体もあるが、石川県では実現していない。石川民医連は昨年11月15日、県に対して物価高騰に関する支援の要望を文書で提出した。
 看護師長の崎山さんは「冬場は肺炎など重症の患者が増える。インフルエンザの同時流行も心配。職員の健康も守らなければいけないし不安は尽きません」と言う。
 西村事務長は「第8波以降もさまざまな問題が起きる可能性があるが、その都度、声を挙げていきたい」と話した。

いつでも元気 2023.2 No.375

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