民医連新聞

2023年2月21日

避難者に寄り添う活動をさらに 原発事故から12年 京都・避難者集団健診

 2011年3月11日の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故からまもなく12年。福島県では、県外2万1392人、県内6392人がいまなお避難生活を続けています(2022年11月現在。福島県公表)。放射線による健康への影響をおそれて避難してきた人たちの不安な気持ちに寄り添おうと、京都民医連は、保険医協会や「内部被曝から子どもを守る会・関西健診プロジェクト」(以下、プロジェクト)とともに実行委員会をつくり、年1回、避難者集団健診を続けています。(多田重正記者)

健診が避難者のささえに

 昨年12月4日、会場となった京都民医連太子道診療所には、原発事故当時18歳以下(胎児含む)で、今も京都府内で避難生活を送っている23人が受診に訪れました。原発事故から10年以上たったとあって、中学生や高校生のほか、20歳を超えて就職した人も。事故当時の居住地は福島県が11人で最多ですが、残りは群馬、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川と、関東全体にまたがっています。
 血液、尿、甲状腺エコー検査を実施。大きな異常は認められず、甲状腺エコーの結果も、異常なしとされるA1とA2がそれぞれ5人と18人。精密検査が必要とされるB判定、C判定の該当者はおらず、ひと安心という結果でした。
 当日はアンケートも実施。「毎年受診し、健康を確かめていただいているので、安心して一年を過ごしている。親として、子どもたちが明日を希望を持って迎えられるようにしてあげたい」などの声が寄せられました。

「あと10年は続けて」の声

 11回を数える集団健診ですが、受診者は減り続けています。2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の流行もあり、コロナ前(2019年度、45人)と比べても、今回の受診者は約半数です。
 「それでも続ける」というのが実行委員会構成団体の総意です。原発事故から10年となった2021年、保険医協会やプロジェクトとともに健診活動をふり返る作業の過程で、過去の健診受診者からアンケートをとりました。34人が返信し、24人が「健康不安が軽減」、27人が今後も健診は「必要」と回答。「避難者に関心を持ってくれる人たちがいることはうれしかった」「東日本大震災自体を政府が過去のこと、解決したこととして扱うのが腹立たしい。あと10年は続けてください」などの声が寄せられました。
 このふり返りでは、2020年度までの健診データも分析し、甲状腺エコーの結果は同じ受診者でも変動しやすく、追跡する必要性があることが明らかに。2021年度の健診では、初めて甲状腺がんが1人見つかり、専門医療機関の受診につなげ、無事に手術を終えました。
 「放射線による健康被害は、まだまだわからないことが多い。だからこそ、健診データを集め、追跡していかなければ」と、あさくら診療所所長の河本一成さん(京都民医連被ばく対策委員長)は強調します。

SDHの視点も重要

 同時に河本さんは、健康不安だけでなく、生活支援の重要性も感じています。「夜眠れない」など、ストレスが体調悪化の原因となっていると思われる受診者、保護者もいるからです。夫を残して子どもと避難した家族も多く、「コロナ前は離婚の相談も多かった。その子どもの表情も非常に暗かった」と河本さん。ほかにもアレルギーなど、もしかしたらストレスなどが影響しているのでは、と思われるケースがあると言います。
 「原発事故避難者への公的支援の乏しさや、経済的な困難など、SDH(健康の社会的決定要因)の視点も重要」と河本さん。「健診に、もっと若い医師に参加してほしい。そして生活支援など、避難者に寄り添う活動を普段から多職種ですすめる。それが民医連の使命だと思います」と前を向きます。

(民医連新聞 第1777号 2023年2月20日)

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