いつでも元気

2007年10月1日

カムカム健康法(22) インプラント なぜ、保険がきかないの?~読者からの質問に答えて

遠藤高弘(北海道・勤医協札幌ふしこ歯科診療所)

Q:インプラントは歯列矯正などと同様、なぜ保険が適用されないのでしょうか?

 

A:答えはなかなか複雑です。次のようなことが考えられます。

 

(1)歯冠補綴(冠をかぶせる)、欠損補綴(ブリッジをかける、入れ歯、インプラント)、歯列矯正は、歴史的に保険給付が制限されてきた

 実は医師免許を持っていれば、歯科医師でなくとも歯を抜くことや、歯周病の治療をおこなうことは資格上なんら問題がありません。しかし補綴や矯正は資格上歯科医師しかできない専門技術として発展してきたいきさつがあります。
 日本が健康保険制度をスタートさせたのは一九二七年ですが、当時先進諸外国でも補綴に対して保険給付しているところはほとんどなく、日本でも財政的な事 情もありますが、「医療」とはやや異なる性質をもつものとして給付は制限されていました。一九五九年の時点では、補綴給付をしていなかった保険組合は五 三・三%にも達していました。(『社会保険歯科医療小史』榊原悠紀田郎)
 一九六一年に国民皆保険制度となりますが、噛むことの意義や全身への影響などが学術的に明らかにされる中で、日本歯科医師会の働きかけや国民要求の高まりにより、「一定の」補綴には保険が適用されるようになりました。

(2)自由診療あるいは差額診療で、歯科は生計を成り立たせてきた経緯がある

 補綴は、同じような医療効果に対する方法、材料などが多様な上、患者さんの主観や希望などが加わると大変選択肢が増えます。使用する金属だけでも、金や白金などの貴金属から、ニッケル、クロム、チタンなどまで多種多様です。
 また古くから自由診療は歯科医師の生計を成り立たせる重要な要素であったため、保険導入については歯科医療業界内部でも賛否がぶつかり、戦後、苦渋の策 として差額徴収制度が容認されました。その後差額徴収制度は、国民の大きな不満を招き、一部を除いて撤廃されましたが、医療費抑制政策のもと、保険外負担 が復活して現在に至っています。

(3)歯を失うのは自己責任、という考え方

 世界の動向は? というと、イギリスでは定額制(いくら治療しても保険から出る額は同じ)で歯科医療の質が低下したと報告されています。アメリカは抜歯 などを除くほとんどが自費(根の治療で一万円以上)です。福祉の充実しているスウェーデンでも一九九九年の改正で、成人の歯科医療費は上限なしの自由価格 に。その代わり成長期の予防管理は国費で徹底しておこなっています。
 日本の歯科保険制度は、韓国などに比べても保険給付の範囲がずっと広く優れた面も多いのですが、国が医療への支出を抑制する中で医療上・口腔機能上必要なものでも、保険適応にならないものがたくさんあります。また新技術などはほとんど保険が適応されていません。
 いま、「保険でよい歯科医療を」という全国的な運動がはじまっています。医療にもっと税金を回し、少ない患者負担でよい歯科医療を提供したい。みなさんも、ぜひ私たちといっしょに、とりくんでください。

いつでも元気 2007.10 No.192

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