民医連新聞

2023年6月6日

これでばっちりニュースな言葉 過度な海外依存でいのち危機食料自給率の向上こそ急務 こたえる人 農民運動全国連合会 常任委員 勝又 真史さん

 日本の食料自給率はカロリーベースで38%。国際紛争や異常気象で食料供給が不安定になるなか、輸入が止まると国民が飢餓状態になるとの指摘があります。農民連(農民運動全国連合会)常任委員の勝又真史さんの解説です。

■危機認識を欠く日本政府

 岸田首相は今年1月の施政方針演説で、「経済安全保障」を声高に掲げましたが、「食料安全保障」「食料自給率」への言及はなく、農業政策の目玉として輸出振興とデジタル化をのべるだけでした。
 さらに野村農林水産大臣は3月に国会で「米国、カナダ、オーストラリアからの(安定的な)輸入と日本の自給率を合わせて、8割を賄っている」などと答弁し、自給率向上を拒否しています。
 食料自給率が38%という世界的にも異常に低い日本。ウクライナ危機を契機に食品価格の引き上げが相次ぎ、国民の食料確保や国内農業生産に不安が高まっている今、国民の不安などどこ吹く風。これまでの輸入自由化政策に指一本触れない政治の危機認識の欠如、無責任さにはあきれます。
 与党や農水省に食料安全保障の検討会が立ち上げられたほか、農水省は国内の食料危機に備えた新たな法制度を検討し、「不測事態」に対策本部を設置する方針です。
 しかしこれらは、当面の飼料や肥料・原料をどう調達するかの議論が先に立ち、自給率をどうするかの根本的な議論が抜け落ちています。貿易自由化をすすめて、調達先を増やすのが、「安全保障」であるかのような議論では、根本的な解決にはなりません。

■深刻化する食料確保

 食料価格の高騰に加え、ウクライナ危機が勃発し、小麦をはじめとする穀物、原油、化学肥料などの高騰が相次ぎ、食料やその生産資材の調達への不安はますます深刻になっています。
 ロシアとウクライナで世界の小麦輸出の3割を占めます。小麦の自給率15%の日本は主に米国、カナダ、オーストラリアから小麦を買っていますが、これらの国に需要が集中して食料争奪戦は激化しています。さらに日本は化学肥料原料のリン、カリウムがほぼ100%輸入依存で、その調達も中国の輸出抑制で困難になりつつあります。肥料、飼料などあらゆる農業資材が高騰して農家の経営を圧迫しており、食料自給率38%の維持すら危ぶまれます。
 一方、異常気象で、世界的に食料の供給が不安定さを増し、原油高がその代替となるバイオ燃料需要も押し上げ、トウモロコシや大豆などが暴騰しています。
 今突きつけられている現実は、食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては、国民のいのちを守れないということ。
 国産率80%の野菜も種の90%は海外依存であり、物流停止で自給率は8%に陥る可能性もあります。鶏卵は国産率97%ですが、エサの輸入が止まれば自給率は12%です。また、主食用米を減らせと言いながら、飼料米、麦、大豆、牧草の作付けへの支援も減らすことになっており、離農を促進し、耕作放棄地を増やすだけです。
 酪農は、これまで機械設備を増強し、生産を大幅に増やさないと補助金を出さないとして、増産を強力に誘導してきました。その矢先に今では「過剰だから搾るな」と補助金付きの牛の淘汰(とうた)策まで生産者に押しつけています。
 さらに国内では「過剰」だとして生産者に米や牛乳の減産を押しつけながら、WTO(世界貿易機関)協定で「輸入機会を提供する」とした米の最低輸入量(ミニマム・アクセス)や、乳製品の低関税輸入枠(カレント・アクセス)を受け入れ、「義務」だとねじ曲げて米77万トン、乳製品13・7万トン(生乳換算)を輸入し続けているのです。

■持続可能なアグロエコロジー

 米や乳製品は過剰ではなく、買いたくても買えない人が増えて、本当は足りないという現実があります。日本は米や生乳を減産している場合ではありません。
 貿易自由化による農産物の輸送の増大が、地球温暖化を促進しています。化石燃料や化学肥料、農薬、遺伝子組み換えに頼った「工業的大規模農業」ではなく、家族農業を中心に生態系の力を最大限に活用する農業(アグロエコロジー)こそが求められています。

(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)

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