いつでも元気

2023年6月30日

まちのチカラ 長崎県小値賀町 祈りと“ただいま”の島

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

白い砂浜とコバルトブルーの海が美しい野首海岸(野崎島)

白い砂浜とコバルトブルーの海が美しい野首海岸(野崎島)

 長崎県の西部、五島列島の北端に浮かぶ小値賀町。
 笑顔の島民が行き交う漁師町が懐かしい小値賀島。
 かつてキリシタンたちが暮らした歴史の残る野崎島。
 町ならではの暮らしに触れる民泊体験。
 忘れられない風景に出会える島の魅力を探しに行きました。

 佐世保港(長崎県佐世保市)からフェリー「いのり」でおよそ3時間、ゆったりとした船旅で到着したのは小値賀島。五島列島の北端に位置する小値賀町は17の島で形成され、そのうち6つの島に集落があります。
 町の中心である小値賀島は、太古の昔に海底火山の溶岩が流れ出てできました。その雄大な景観と海岸美から、島全体が西海国立公園に指定されています。なだらかな赤い大地が耕作に適し、遠浅の海は良好な漁場です。
 島の玄関である小値賀港ターミナルから徒歩で町を散策すると、古い木造の家、少し錆びたトタン屋根、干し魚など、漁師町の風景が広がります。
 道行く島の人にあいさつをすれば「どこから来たとね?」と人なつこい笑顔で応えてくれます。猫がごろんと寝転がり、なんだか温かくて懐かしい気持ちになりました。

郷土料理作りを体験

 町では小値賀島に流れ着いた海洋プラスチックを利用したワークショップなど、島暮らしに触れられる数々の体験型ツアーが魅力です。今回は町の特産品である落花生の加工体験をしようと、町中心部の農産物加工施設を訪ねました。
 「島特有の赤土と太陽の光で作る落花生は、甘くてコクのある美味しい豆に育つんですよ」と迎えてくれたのは、栽培から加工販売まで行う「小値賀町担い手公社」の岡野耕己さん。白いエプロンに着替えて、郷土料理の「炒り落花生」と「落花生とうふ」作りに挑戦です。
 大きな鍋で塩と落花生を混ぜながら炒ることおよそ10分。ピンク色の豆が赤く染まり始めると、とても香ばしい香りがしてきました。
 「とうふ」はピーナツペーストを裏ごしし、くず粉と混ぜて固めます。昔から各家庭で作られ、お祝いの席などでよくふるまわれた郷土の味です。
 出来上がった「炒り落花生」と「落花生とうふ」はお土産に。帰宅して食べる手作りの味と食感は、楽しい思い出に浸ることのできる最高のお供です。

潜伏キリシタンの里

 小値賀島から町営船「はまゆう」で東へ約30分、野崎島へ渡りました。現在は簡易宿泊施設「野崎島自然学塾村」の管理者以外に居住者がいない、ほぼ無人の島です。南北約6・5㎞、東西約2㎞の細長い島は、上陸して徒歩で巡ることができます。
 かつては3つの集落がありましたが、高度経済成長による過疎化の波にのまれ廃村となりました。謎の巨石「王位石」や潜伏キリシタンの集落跡「舟森」などがあり、島のくびれた中央部には約300mにわたる美しい白砂の野首海岸があります。
 急斜面の山肌に残る石垣や段々畑など、確かにそこには人の営みがあった痕跡が。そして時折、勇壮な野生のキュウシュウジカが目の前に現れます。
 島の中心部まで足を踏み入れると、静寂な潮風と波の音の中に立派なれんが造りの旧野首教会がたたずんでいました。およそ100年前、潜伏キリシタンの子孫が少しずつ資金や材料を集めて建てた礼拝堂です。その姿は神聖で、祈りの記憶が今も刻まれているかのようです。

まるで親戚 民泊体験

 小値賀島に戻り、今夜の宿へ。島ならではの暮らしを体験するなら、農家や漁師ら島人の自宅にホームステイする「民泊」がお勧め。島のお父さん・お母さんたちのおもてなしや人柄、島暮らしに惚れ込むリピーターが多いと聞き、「おぢかアイランドツーリズム」にコーディネートをお願いしました。
 夕方4時に小値賀港ターミナルで民泊受け入れ先の濱元照美さんとご対面。家に着き一休みしたら、釣り竿を手に波止場へ。堤防釣りに挑戦です。この日は30匹ほどの魚が釣れ、帰宅して照美さんの指南で一緒に夕飯づくり。
 手際良く郷土料理を教えてくれる照美さんは「地元で採れた食材を使って、よそでは食べたことのない料理を食べさせてあげたい」とニッコリ。
 夫の弥一郎さんが帰宅し、お風呂のあとは夕ごはんを囲んでの団らんです。今夜のメニューは、釣れたばかりの魚の唐揚げと華やかな押し寿司、ウニとトコブシの茶碗蒸しにヒラマサとイカの刺身、自家製ごま豆腐、干し大根の煮物、旬の野菜のかき揚げです。
 心のこもったご馳走とともに会話が弾みます。弥一郎さんは「日本全国に知り合いができて楽しいですよ」と、これまでの来訪者のアルバムを大事そうに見せてくれました。
 民泊した濱元家は肉用牛農家。翌朝6時に起きて牛舎に行くと、子牛にミルクをあげる体験です。目を輝かせながらグビグビと大きな哺乳瓶に吸い付く姿は愛嬌があり、貴重な島暮らし体験となりました。
 午前9時には民泊を終え、島内巡りへ。そして帰りの船が出る時刻に港へ行くと、照美さんがサプライズで見送りに。別れを惜しみつつ乗船し、まるで家族になったような温かさを覚えました。
 “ただいま”と、また帰りたくなるような小値賀町。訪れる人に本当の豊かさとは何かを教えてくれる不思議なまちです。

■次回は高知県大月町です。

まちのデータ

人口
2232人(5月2日現在)
おすすめの特産品
イサキ、タチウオ、落花生
アクセス
佐世保港から小値賀港までフェリーで約3時間、高速船で1時間半。博多港(福岡県)からはフェリーで約5時間
問い合わせ先
おぢかアイランドツーリズム
0959-56-2646

いつでも元気 2023.7 No.380

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