民医連新聞

2023年7月4日

フォーカス 私たちの実践 仲間同士で語り合う気遣い合うことの実践 新人看護師集合研修にピア・サポートを導入 神奈川・川崎協同病院

 神奈川・川崎協同病院の2020年の新人看護師集合研修は、新型コロナウイルス感染症の影響で、例年の3分の1の内容にとどまりました。そこで新人看護師の研修にピア・サポートの導入を試みました。第15回看護介護活動研究交流集会で「関心寄せられたで賞」を受賞した、同院の鈴木奈美さん(看護師)の報告です。

 ピア・サポートは「ともに困難な状況を抱え、不安や孤立する恐れを共有するピア(仲間)として、相手を尊重し、互いの力を信じ、語り合い、気遣い合うこと」です。
 ピア・サポートのために、新人看護師17人(うち地域看護コース2人)は、4月の集合研修が終了後、6月まで毎週金曜日の16~17時に集まりました。ふり返りシートを記入し、部署もミックスのグループに分かれ、ディスカッションを行いました。司会なしで新人看護師が気兼ねなく話せるよう、時間の保障と環境を整えました。集合研修終了後、各部署に配属され1週間経過した後の同期同士の再会は、とてもにぎやかでした。1~2回目は「戸惑い」や「驚き」「できないこと」が多くみられました。回を追うごとに、「患者が誤嚥(ごえん)して発熱、SpO2が低下し、吸引自立していなくてもどかしい」「心電図の見方がわからない」「計画通りに業務がすすまないと、より優先順位がわからなくなる」など、さらに具体的な内容に。後半では、「患者数が増えていくことへの不安」「看護記録が思うように書けない」などが記入されていました。
 すべての回を通して、「情報共有ができてよかった」「進捗(しんちょく)を聞いて、励みにもなった」「つらかったことやうれしかったことなどを話せると少し気が楽になった」などが記入されていました。

■自分自身をふり返る機会

 2年目研修のふり返りでは、「その時期は同期との唯一の交流だったので、リフレッシュできた」「勤務時間内に病棟のことを忘れて、いったん肩の荷がおろせる時間だった」などの意見がありました。
 また「実習の時と比べて、患者さんとゆっくり話をする時間を確保できない」「実習ではやっていたことでも、実際はやらないこともあり少し困惑した」など、自分の思っていた看護と実際の違いに直面している記述がありました。
 「就職後1年以内に退職を決断した看護師の離職までに感じる内容は、自分の思っていた看護と実際との違いを知ること」と柏田三千代氏(看護学者)はのべています。また、新型コロナ前の通常の状態でも、「看護基礎教育終了時点の能力と臨床現場で求められる能力とのギャップ、職場内での人間関係構築の困難さなどで、リアリティショックに陥るものは少なくありません。それに新型コロナウイルス感染症の影響で教育方法の変化や感染への不安も加わり、より一層不安やギャップ、緊張を感じる要因があるわけですから、リアリティショックは免れないでしょう」と高橋恵氏(看護学者)はのべています。不安やギャップを埋める作業が新人看護師には必要だと考えます。ピア・サポートは、困難な状況を共有し、自分自身をふり返るきっかけになったと思います。

■社会人基礎力を土台に

 リアリティショックを乗り越えるためには「社会人基礎力」の発揮が必要になってくると高橋氏。「社会人基礎力」の土台にピア・サポートが必要です。高橋氏は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の必要性をのべ、生かすためには自尊感情が低下しないようケアが大切であると考えます()。
 ピア・サポートを通して「自分も色々あるけど、みんなも色々あるなと思った」「みんな思っていることが同じで安心した」などの感想が出ました。精神分析学者のアドラーのいう「共同体感覚」で、家庭、地域、職場など共同体のなかでつながっている感覚といえます。戸惑いや不安を心理的に安全な場で語り合うことで、共同体感覚が強められると考えます。自尊感情の維持で、「明日もがんばろう」と、新人看護師離職率ゼロを導いたと言えます。新人看護師に仲間同士で語り合う機会は、メンタルケアとして有効であったと感じました。

(民医連新聞 第1786号 2023年7月3日)

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